負担付贈与の課税標準
2025年11月19日
Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社
Q:このたび、母からマンションの贈与を受けました。このマンションの時価は2,500万円で銀行からの借入金1,800万円が付されており、併せて私が引き受けました。相続税評価額は2,000万円,取得費は1,500万円とのことです。この場合、贈与税の課税対象はいくらになるのでしょうか。
A: 不動産を負担付贈与で取得した場合は、通常の取引価額に相当する金額から負担額を控除した価額が贈与税の課税対象となります。相続税評価額ではなく、時価評価になることに留意が必要です。 また 1,800万円の借入金があったお母様は、借入金相当額でマンションを売却したという扱いになり、取得費との差額について譲渡所得課税の対象になります。
解説………
(1) 負担付贈与
通常の贈与は、「当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える」(民法549) という片務契約ですが、受贈者に一定の債務を負担させることを条件にした贈与を行うこともできます。これを負担付贈与といいます。 負担付贈与については、その性質に反しない限り、双務契約に関する規定が準用される(民法553) ことから、負担付贈与契約の締結後、相手方が負担を履行しない場合は契約を解除することができます。 本事例のように借入金の負担を受贈者に負わせることのほか、自身の身の回りの世話をさせるというような負担を負わせることもできます。
(2) 負担付贈与を行った場合の受贈者の課税関係
個人から負担付贈与により財産を取得した場合、贈与財産の価額から負担額を控除した価額に贈与税が課されます。 ここでいう贈与財産の価額とは、不動産以外の贈与財産については、財産の相続税評価額から負担額を控除した価額をいいます。これに対し、土地や借地権、家屋や構築物などの不動産については、贈与時の通常の取引価額に相当する金額から負担額を控除した価額をいいます(「負担付贈与通達」)。通常の贈与(負担のない贈与)の場合には、課税標準は不動産の相続税評価額となるところ、負担付きとしたために、かえって課税標準が高くなるおそれがあり、注意が必要です。
(3) 負担付贈与を行った場合の贈与者の課税関係
贈与者は、贈与した側なので贈与税は課税されませんが、負担付贈与によって贈与者に経済的利益が生ずる場合には、その経済的利益を収入金額とする譲渡所得が課税されます(所法33.36①)。受贈者に負わせる負担が借入金の場合、贈与者は借入金の返済を免れるので、借入金相当額が譲渡収入となります。 そして、この譲渡収入が取得費及び譲渡費用の合計額を上回る場合には、所得税の譲渡所得の課税対象となります。また、負担額 (債務の額)がその資産の贈与時における時価の2分の1未満であり、かつ、その資産の取得費及び譲渡費用の額の合計額に満たない場合には、その不足額 (譲渡損失)はなかったものとみなされます (所法59,所令169)。
(4) 受贈者が負担付贈与によって取得した資産を売却する際の取得費等
受贈者が、通常の贈与によって取得した不動産を売却した場合は、贈与者がその不動産を購入した際の購入代金や購入の際の手数料などの取得費用を引き継ぎ、その金額に基づき計算します(所法60①一)。また、贈与によって取得した資産の取得時期についても、贈与者の取得時期を受贈者に引き継ぎます(措令20③)。したがって、受贈者が贈与によって取得した資産を売却する際には、贈与者の取得時期に基づく所有期間により長期譲渡所得に該当するか短期譲渡所得に該当するか判断することとなります。 この所得税法60条1項1号にいう「贈与」には、贈与者に経済的利益を生ずる負担付贈与が含まれないと解されています。このため、経済的利益の生ずる負担付贈与では、受贈者は、その負担額 (債務の額)によってその資産を取得することとなり、受贈時が取得の時期になります10。 ところが、さらに、上記(3)の負担額 (債務の額)がその資産の贈与時における時価の2分の1未満である場合には、贈与者の取得費及び取得時期を引き継ぐこととなります(所法60①二)ので、この点に注意が必要です。
(5) 負担付贈与とならない敷金
賃貸不動産の所有者が賃借人に対して敷金返還義務を負っている状態で、この賃貸不動産を贈与した場合には、法形式上は、負担付贈与に該当しますが、この敷金返還義務に相当する現金の引継ぎを同時に行っている場合には、一般的にこの敷金返還債務を承継させる意図が贈与者・受贈者間においてなく、実質的に負担付贈与に当たらないとされています。この場合、贈与者から引継ぎを受けた敷金相当額については、贈与税の課税対象となりません。
(6) 本事例における受贈者の贈与税の計算
本事例では、マンションの時価相当額2,500万円から借入金相当額1,800万円を控除し、さらに暦年課税贈与の基礎控除額110万円を控除し、基礎控除後の 課税価格に贈与税の税率を乗じて税額計算をします。 相続税評価額が2,000万円であっても、時価相当額2,500万円を評価額とするところに注意が必要です。
【計算例】
(2,500万円-1,800万円-110万円)×20%-30万円=88万円
※特例税率12に基づき計算
(7) 本事例における贈与者の譲渡所得の計算
本事例では、借入金相当額1,800万円から取得費1,500万円を控除して譲渡所得を計算します。そして、他の所得と合計せずに分離して税額を計算することとなり、税率は譲渡年の1月1日における所有期間が5年を超える不動産の場合,所得税15.315%(復興特別所得税を含みます。)及び住民税5%,5年未満の場合、それぞれ30.63%及び9%となります。 時価2,500万円のマンションを借入金相当額である1,800万円で低額譲渡した形となりますが、税務上は、借入金相当額を譲渡の対価として考え、対価を超える部分 (2,500万円-1,800万円=700万円)を贈与と考えます(上記(6)参照)。
【計算例】
(1,800万円-1,500万円) ×20.315%=609,450円
※所有期間を5年超として計算
A: 不動産を負担付贈与で取得した場合は、通常の取引価額に相当する金額から負担額を控除した価額が贈与税の課税対象となります。相続税評価額ではなく、時価評価になることに留意が必要です。 また 1,800万円の借入金があったお母様は、借入金相当額でマンションを売却したという扱いになり、取得費との差額について譲渡所得課税の対象になります。
解説………
(1) 負担付贈与
通常の贈与は、「当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える」(民法549) という片務契約ですが、受贈者に一定の債務を負担させることを条件にした贈与を行うこともできます。これを負担付贈与といいます。 負担付贈与については、その性質に反しない限り、双務契約に関する規定が準用される(民法553) ことから、負担付贈与契約の締結後、相手方が負担を履行しない場合は契約を解除することができます。 本事例のように借入金の負担を受贈者に負わせることのほか、自身の身の回りの世話をさせるというような負担を負わせることもできます。
(2) 負担付贈与を行った場合の受贈者の課税関係
個人から負担付贈与により財産を取得した場合、贈与財産の価額から負担額を控除した価額に贈与税が課されます。 ここでいう贈与財産の価額とは、不動産以外の贈与財産については、財産の相続税評価額から負担額を控除した価額をいいます。これに対し、土地や借地権、家屋や構築物などの不動産については、贈与時の通常の取引価額に相当する金額から負担額を控除した価額をいいます(「負担付贈与通達」)。通常の贈与(負担のない贈与)の場合には、課税標準は不動産の相続税評価額となるところ、負担付きとしたために、かえって課税標準が高くなるおそれがあり、注意が必要です。
(3) 負担付贈与を行った場合の贈与者の課税関係
贈与者は、贈与した側なので贈与税は課税されませんが、負担付贈与によって贈与者に経済的利益が生ずる場合には、その経済的利益を収入金額とする譲渡所得が課税されます(所法33.36①)。受贈者に負わせる負担が借入金の場合、贈与者は借入金の返済を免れるので、借入金相当額が譲渡収入となります。 そして、この譲渡収入が取得費及び譲渡費用の合計額を上回る場合には、所得税の譲渡所得の課税対象となります。また、負担額 (債務の額)がその資産の贈与時における時価の2分の1未満であり、かつ、その資産の取得費及び譲渡費用の額の合計額に満たない場合には、その不足額 (譲渡損失)はなかったものとみなされます (所法59,所令169)。
(4) 受贈者が負担付贈与によって取得した資産を売却する際の取得費等
受贈者が、通常の贈与によって取得した不動産を売却した場合は、贈与者がその不動産を購入した際の購入代金や購入の際の手数料などの取得費用を引き継ぎ、その金額に基づき計算します(所法60①一)。また、贈与によって取得した資産の取得時期についても、贈与者の取得時期を受贈者に引き継ぎます(措令20③)。したがって、受贈者が贈与によって取得した資産を売却する際には、贈与者の取得時期に基づく所有期間により長期譲渡所得に該当するか短期譲渡所得に該当するか判断することとなります。 この所得税法60条1項1号にいう「贈与」には、贈与者に経済的利益を生ずる負担付贈与が含まれないと解されています。このため、経済的利益の生ずる負担付贈与では、受贈者は、その負担額 (債務の額)によってその資産を取得することとなり、受贈時が取得の時期になります10。 ところが、さらに、上記(3)の負担額 (債務の額)がその資産の贈与時における時価の2分の1未満である場合には、贈与者の取得費及び取得時期を引き継ぐこととなります(所法60①二)ので、この点に注意が必要です。
(5) 負担付贈与とならない敷金
賃貸不動産の所有者が賃借人に対して敷金返還義務を負っている状態で、この賃貸不動産を贈与した場合には、法形式上は、負担付贈与に該当しますが、この敷金返還義務に相当する現金の引継ぎを同時に行っている場合には、一般的にこの敷金返還債務を承継させる意図が贈与者・受贈者間においてなく、実質的に負担付贈与に当たらないとされています。この場合、贈与者から引継ぎを受けた敷金相当額については、贈与税の課税対象となりません。
(6) 本事例における受贈者の贈与税の計算
本事例では、マンションの時価相当額2,500万円から借入金相当額1,800万円を控除し、さらに暦年課税贈与の基礎控除額110万円を控除し、基礎控除後の 課税価格に贈与税の税率を乗じて税額計算をします。 相続税評価額が2,000万円であっても、時価相当額2,500万円を評価額とするところに注意が必要です。
【計算例】
(2,500万円-1,800万円-110万円)×20%-30万円=88万円
※特例税率12に基づき計算
(7) 本事例における贈与者の譲渡所得の計算
本事例では、借入金相当額1,800万円から取得費1,500万円を控除して譲渡所得を計算します。そして、他の所得と合計せずに分離して税額を計算することとなり、税率は譲渡年の1月1日における所有期間が5年を超える不動産の場合,所得税15.315%(復興特別所得税を含みます。)及び住民税5%,5年未満の場合、それぞれ30.63%及び9%となります。 時価2,500万円のマンションを借入金相当額である1,800万円で低額譲渡した形となりますが、税務上は、借入金相当額を譲渡の対価として考え、対価を超える部分 (2,500万円-1,800万円=700万円)を贈与と考えます(上記(6)参照)。
【計算例】
(1,800万円-1,500万円) ×20.315%=609,450円
※所有期間を5年超として計算