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弁護士の知識

生命保険金等のみなし贈与

2025年11月19日

Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社

Q:保険会社から毎年100万円が私の口座に振り込まれてきます。母が私を受取人とする生命保険に加入したそうです。
A :保険料を負担していない人が生命保険契約の満期金や解約返戻金を受け取った場合、保険料負担者から贈与により取得したものとみなされ、贈与税の課税対象となります(相法5)。
解説
(1) 相続税法上のみなし贈与
みなし贈与とは、民法上の贈与には当たりませんが、実質的に経済的利益を享受したのと同様な場合に税負担の公平を図るため税法上課税するというもので、保険料を負担していない人が生命保険契約の満期金や解約返戻金,死亡保険金を受け取った場合、保険料負担者からの贈与があったものとみなされ、贈与税が課税されます。
なお、生命保険契約において保険金が支払われる場合は、保険契約者,保険料負担者,被保険者及び保険金受取人の違いによって課税関係が異なります。
(2) 生命保険の保険金に贈与税がかかる場合
① 死亡保険金を受け取ったとき
生命保険の死亡保険金を受け取った場合、受取人には相続税、所得税及び贈与税のいずれかが課税されます。死亡保険金に贈与税が課税されるのは、被保険者,契約者(保険料負担者) 及び受取人がそれぞれ異なるときです。被保険者が死亡したという事由により契約者から受取人に死亡保険金という財産が移転したと考え、贈与があったものとみなされて、贈与税が課税されます。
② 満期保険金や解約返戻金を受け取ったとき 親が子を受取人とする保険に加入し、保険料を支払い、満期時あるいは解約時に保険金が子に支払われるとき、相続が発生していませんので相続税は課税されませんが、親が支払った保険料により子供が保険金という利益を受けます。このとき、親子の間に「あげます」、「もらいます」の意思表示がなくても、子が利益を贈与により受けたものとみなされ、贈与税が課税されます。
③ 生存給付金を受け取ったとき 親が契約者兼被保険者となり、生存給付金が子に支払われるときも、相続が発生していませんので相続税は課税されませんが、子が親から利益を贈与により受けたものとみなされ、贈与税が課税されます。 (3) 贈与税の計算 みなし贈与の対象となる保険金を受け取った場合、受け取った保険金が暦年課税贈与の基礎控除額110万円以下であれば、贈与税は非課税となりますので、申告の義務はありません。 なお、保険金を受け取った年にその保険金以外に贈与により取得した財産がある場合は、その財産を合算した金額から基礎控除額110万円を控除した額が贈与税の課税対象となります。
(4) みなし贈与の対象とならない医療保険等
上記(2)のとおり、保険金の受取人が保険料の負担をしていなかった場合には、保険金の受取人は保険料の負担者から保険金を贈与によって取得したものとみなされ贈与税の課税対象とされますが、医療保険契約や傷害保険契約に基づき、被保険者の傷害、疾病その他これらに類する保険事故で死亡を伴わない事故によって支払を受ける保険金は、みなし贈与の対象となりません (相法5①)。
なお、これらの保険金は所得税の医療費控除の計算において、医療費を補填する保険金として支払った医療費から差し引きます。ただし、死亡したこと、重度障害の状態になったこと、療養のため労務に服することができなくなったことなどに基因して支払を受ける保険金、損害賠償金等は医療費を補填する保険金には当たりません (所基通73-9)。
(5) 本事例の課税関係
本事例の生命保険契約は、相談者の母を契約者(保険料負担者),相談者を受取人とする生存給付金付きの生命保険契約です。契約期間中、一定の時期に生存給付金受取人に一定額が振り込まれた場合は、振込のあった時が贈与のあった時となります。 本事例では、生命保険契約に基づく振込額が100万円ですから、その振込以外の贈与がなければ、暦年課税贈与の基礎控除額110万円以下であるため、贈与税の申告は必要ありません。