遺言執行者
2025年11月19日
Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社
Q:父の亡き後、私に自宅の土地建物とA銀行の預金を相続させ、弟にB銀行の預金を相続させる旨の公正証書遺言があることがわかりました。遺言執行者にはC信託銀行が指定されていました。
A: 遺言執行者が指定され、就任を承諾した場合、遺言内容は遺言執行者によって実現されます。ただし、遺言の内容どおりであれば、その利益を受ける相続人が自ら名義を書き換えることも可能です。
解説
(1) 遺言執行者
遺言で遺言執行者が指定されている場合(民法1006①), 指定された者が就任するか否かを決定します。
遺言執行者(に指定された者)が就任を承諾した場合には、直ちに任務を開始し(民法1007①), 遅滞なく遺言の内容を相続人に通知します(民法1007②)。 逆に、就任を承諾しなかった場合には、遺言執行者がいないことになりますので、利害関係人は家庭裁判所に選任を求めることができます(民法1010)。 なお、遺言執行者がいない場合にも、特に必要がある場合を除き、あえて選任を求める必要はありません。
遺言執行者は、遺言の内容を実現する権利義務を有し(民法1012①), 遅滞なく、相続財産の目録を作成し、これを相続人に交付し (民法1011①)、その後、名義書換などの遺言内容の実現行為を行います。遺言執行者は、相続人との関係で、委任契約における受任者に準じた義務(善管注意義務,報告義務,受取物の引渡義務等)を負担します(民法10123, 644,645~647)。
遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為を行うことができず、そのような行為を行っても無効となります(民法1013①②)。
遺言執行者は、遺言で定めた報酬又は裁判所が定めた報酬を受け取ることができ(民法1018①), 執行に要する費用は相続財産の負担となります(民法1021)。 任務懈怠などの正当な事由がある場合には、利害関係人は裁判所に遺言執行者の解任を請求することができます(民法1019①)。
以上によれば、ご質問のように不動産、金融機関の預金について、相続させる旨の遺言がある場合には、その名義書換は遺言執行者によって行われることになります。ただし、遺言の内容どおりであれば、その利益を受ける相続人が自ら名義を書き換えることも可能です(民法1014②③参照)。
(2) 換価遺言が行われた場合
遺言によっては、遺言執行者が遺産を換価して、相続債務を弁済し現金を相続人や受遺者に配分するべきことを定めている場合があります。
この場合、①相続債務を負担したのは誰なのか、②遺産を換価することにより譲渡所得が発生した場合、その譲渡所得税を負担するのは誰なのかといった問題が発生します。
これらは、いずれも遺言の解釈により、私法上の法律関係を整理するほかないものと考えられます。
例えば、①については、相続人が法定相続分に従って相続債務を負担した上、換価代金から債務相当額を受領して弁済したという法律構成も考えられますし、包括遺贈ないし負担付遺贈により受遺者が債務を負担 (弁済) したという法律構成など、いずれの解釈の余地もあり得ます。
また、②については、(イ)遺産は相続人全員に共有されているため、その税金は相続人が法定相続分に従って負担すると解するのが素直な解釈であると考えられます。他方で、(ロ)遺言者が、換価前の財産について、換価代金の配分を受ける相続人や受遺者にその配分割合に従って共有させた上で、遺言執行者に換価させたもの(その上で配分割合に従って代金を配分させたもの)と解される場合には、配分割合に従った共有持分を相続人や受遺者が取得した上で換価したものですから、譲渡所得税はその割合に従って配分を受ける相続人や受遺者が負担することになります。このように、遺言の解釈によって結論が異なり得ると考えられます。 さらに、そもそも、換価代金の分配に与らない相続人がいる場合 (換価代金は別の相続人や受遺者に配分することが遺言で定められている場合)に、その相続人が換価前には法定相続分に従って共有していることを理由に譲渡所得税を負担することについては不合理であり、実質所得者課税の原則(所法12)に照らしても上記の結論は採用できないとして、常に(ロ)のように解すべきという考え方もあるようです。
(3) 遺言の内容と異なる遺産分割
遺言がある場合にも、全相続人の合意により遺言と異なる遺産分割ができると解されています(前記34参照)が、遺言執行者がある場合には、遺言の執行の妨害行為の禁止 (民法1013) との関係が問題となります。 遺言と異なる内容の遺産分割を行うと、遺言の内容を実現する遺言執行者の義務と衝突するため、遺言の執行を妨げる行為に当たり得るからです。遺言と異なる遺産分割を行う場合には、遺言執行者の同意を得ることが必要であるといわれており、遺言執行者は遺言者の生前の意向を斟酌しつつ、同意を行うか否かを決定すべきものといわれています。
もっとも、遺言執行者の同意を得ないまま、遺言と異なる遺産分割を行った場合の効果については、少なくとも私法上は贈与・交換の組み合わせとして有効であるものと解した裁判例があります。ただし、このような解釈に立った場合の課税関係については、交換については譲渡所得、贈与については贈与税が発生すると解することが可能になり得ますが、実際に課税された事例があるか否かは明らかではありません。
A: 遺言執行者が指定され、就任を承諾した場合、遺言内容は遺言執行者によって実現されます。ただし、遺言の内容どおりであれば、その利益を受ける相続人が自ら名義を書き換えることも可能です。
解説
(1) 遺言執行者
遺言で遺言執行者が指定されている場合(民法1006①), 指定された者が就任するか否かを決定します。
遺言執行者(に指定された者)が就任を承諾した場合には、直ちに任務を開始し(民法1007①), 遅滞なく遺言の内容を相続人に通知します(民法1007②)。 逆に、就任を承諾しなかった場合には、遺言執行者がいないことになりますので、利害関係人は家庭裁判所に選任を求めることができます(民法1010)。 なお、遺言執行者がいない場合にも、特に必要がある場合を除き、あえて選任を求める必要はありません。
遺言執行者は、遺言の内容を実現する権利義務を有し(民法1012①), 遅滞なく、相続財産の目録を作成し、これを相続人に交付し (民法1011①)、その後、名義書換などの遺言内容の実現行為を行います。遺言執行者は、相続人との関係で、委任契約における受任者に準じた義務(善管注意義務,報告義務,受取物の引渡義務等)を負担します(民法10123, 644,645~647)。
遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為を行うことができず、そのような行為を行っても無効となります(民法1013①②)。
遺言執行者は、遺言で定めた報酬又は裁判所が定めた報酬を受け取ることができ(民法1018①), 執行に要する費用は相続財産の負担となります(民法1021)。 任務懈怠などの正当な事由がある場合には、利害関係人は裁判所に遺言執行者の解任を請求することができます(民法1019①)。
以上によれば、ご質問のように不動産、金融機関の預金について、相続させる旨の遺言がある場合には、その名義書換は遺言執行者によって行われることになります。ただし、遺言の内容どおりであれば、その利益を受ける相続人が自ら名義を書き換えることも可能です(民法1014②③参照)。
(2) 換価遺言が行われた場合
遺言によっては、遺言執行者が遺産を換価して、相続債務を弁済し現金を相続人や受遺者に配分するべきことを定めている場合があります。
この場合、①相続債務を負担したのは誰なのか、②遺産を換価することにより譲渡所得が発生した場合、その譲渡所得税を負担するのは誰なのかといった問題が発生します。
これらは、いずれも遺言の解釈により、私法上の法律関係を整理するほかないものと考えられます。
例えば、①については、相続人が法定相続分に従って相続債務を負担した上、換価代金から債務相当額を受領して弁済したという法律構成も考えられますし、包括遺贈ないし負担付遺贈により受遺者が債務を負担 (弁済) したという法律構成など、いずれの解釈の余地もあり得ます。
また、②については、(イ)遺産は相続人全員に共有されているため、その税金は相続人が法定相続分に従って負担すると解するのが素直な解釈であると考えられます。他方で、(ロ)遺言者が、換価前の財産について、換価代金の配分を受ける相続人や受遺者にその配分割合に従って共有させた上で、遺言執行者に換価させたもの(その上で配分割合に従って代金を配分させたもの)と解される場合には、配分割合に従った共有持分を相続人や受遺者が取得した上で換価したものですから、譲渡所得税はその割合に従って配分を受ける相続人や受遺者が負担することになります。このように、遺言の解釈によって結論が異なり得ると考えられます。 さらに、そもそも、換価代金の分配に与らない相続人がいる場合 (換価代金は別の相続人や受遺者に配分することが遺言で定められている場合)に、その相続人が換価前には法定相続分に従って共有していることを理由に譲渡所得税を負担することについては不合理であり、実質所得者課税の原則(所法12)に照らしても上記の結論は採用できないとして、常に(ロ)のように解すべきという考え方もあるようです。
(3) 遺言の内容と異なる遺産分割
遺言がある場合にも、全相続人の合意により遺言と異なる遺産分割ができると解されています(前記34参照)が、遺言執行者がある場合には、遺言の執行の妨害行為の禁止 (民法1013) との関係が問題となります。 遺言と異なる内容の遺産分割を行うと、遺言の内容を実現する遺言執行者の義務と衝突するため、遺言の執行を妨げる行為に当たり得るからです。遺言と異なる遺産分割を行う場合には、遺言執行者の同意を得ることが必要であるといわれており、遺言執行者は遺言者の生前の意向を斟酌しつつ、同意を行うか否かを決定すべきものといわれています。
もっとも、遺言執行者の同意を得ないまま、遺言と異なる遺産分割を行った場合の効果については、少なくとも私法上は贈与・交換の組み合わせとして有効であるものと解した裁判例があります。ただし、このような解釈に立った場合の課税関係については、交換については譲渡所得、贈与については贈与税が発生すると解することが可能になり得ますが、実際に課税された事例があるか否かは明らかではありません。