不動産小口化商品の課税関係
2025年11月19日
Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社
不動産小口化商品
相続税対策の一つとして、不動産小口化商品が注目を集めています。 不動産小口化商品とは、不動産への出資を募り不動産の売買や賃貸等を行い、その収益を分配する事業者について、業務の適正な運営の確保と投資家の利益の保護を目的として制定された不動産特定共同事業法によるものです。平成25年法改正により倒産隔離型スキームが導入され、平成29年法改正により小規模不動産特定共同事業が創設されました。 不動産小口化商品は、不動産特定共同事業法の許可を受けた事業者が提供するもので、大きく「任意組合型」と「匿名組合型」とに分かれます。 「任意組合型」の不動産小口化商品は、投資家が不動産特定共同事業者と民法上の組合契約を交わし組合を組成し、その組合が出資により取得した不動産を賃貸等によって運用し、その収益を投資家に分配するという仕組みの商品です。不動産の所有権は、組合員である投資家及び不動産特定共同事業者に帰属します。よって、組合に生じた損益は直接組合員に帰属し、所得税の課税上は、現物の不動産を所有している場合と同様に、不動産所得となります。また、相続や贈与を行う際の評価は、不動産の評価となるため、相続税・贈与税の節税効果は大きいといえます。 「匿名組合型」は、不動産特定共同事業者が投資家と匿名組合契約を交わし出資を受け、事業者は事業によって得た収益を投資家に分配するという形態の商品です。最近は、不動産クラウドファンディング又は不動産STとしても販売されています。投資家の出資金は事業者の財産となることから、事業者がその出資金により取得した不動産は事業者の所有となり、投資家は第三者に対して権利義務を持たず、その収益に対する所得税の課税上の取扱いは事業所得又は雑所得となります。また、匿名組合型は、相続や贈与を行う際の評価として、不動産の評価を使うことはできません。
任意組合型の課税関係
① 組合に生じた損益(所得税)
任意組合型における投資家に分配される収益の課税関係は、パススルー課税が適用され(所基通36・37共-19),組合は課税されず、投資家は不動産所得として、確定申告が必要です。なお、組合契約を締結している組合員に該当する個人が、組合事業から生ずる不動産所得の損失がある場合、不動産所得の計算及び損益通算その他所得税に関する法令の適用について、その損失の金額は生じなかったものとみなされます (措法41の4の2①②)ので、この点注意が必要です。
② インボイス制度(消費税)
対象不動産がオフィスビルである場合、賃料には消費税が課税されます。パススルー課税においては、賃料収入は、消費税を含んだところで投資家に帰属することとなります。消費税のインボイス制度において、投資家が適格請求書発行事業者の登録を行っていない場合、オフィスビルの賃借人は消費税の仕入税額控除が適用できなくなることから、投資家は免税事業者である場合であっても、適格請求書発行事業者の登録を行わなければならない場面が生じ、消費税の確定申告が必要となります。
③ 相続開始時(相続税)
任意組合型の不動産小口化商品については、相続税を計算する際の不動産の評価に当たり、評価方法の定めがないことから、財産評価基本通達に定める評価方法に準じて評価します (評基通5)。不動産の所有権は直接組合員である投資家に帰属することを考慮すると、土地・家屋について、財産評価基本通達の路線価方式及び固定資産税評価額によって評価し、一定の要件を満たす場合は、小規模宅地等の特例を適用することが可能です。 なお、不動産小口化商品の対象不動産が一定の区分所有マンションである場合は、上記の財産評価基本通達による評価額に区分所有補正率を乗じて算出することとなります。 また、財産評価基本通達は「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」(評基通6)と定めていることから、税務当局が、不動産の時価(売買実例価額)と評価額に著しい乖離があるなど課税上弊害があると判断した場合には、時価によって是正されるリスクがあります。さらに、通達改正により、節税効果が減少するリスクもあります。
④ 運用終了後は対象不動産を売却(所得税)
組合は、原則として対象不動産を売却することにより解散します。あらかじめ定められた組合期間内に、不動産特定共同事業者が市況を勘案しつつ対象不動産の売却の検討を行います。対象不動産の売却によって得られた代金を、投資家の出資持分によって分配し組合は解散します。 投資家が解散によって分配を受けた利益は、譲渡所得課税の対象となります。
相続税対策の一つとして、不動産小口化商品が注目を集めています。 不動産小口化商品とは、不動産への出資を募り不動産の売買や賃貸等を行い、その収益を分配する事業者について、業務の適正な運営の確保と投資家の利益の保護を目的として制定された不動産特定共同事業法によるものです。平成25年法改正により倒産隔離型スキームが導入され、平成29年法改正により小規模不動産特定共同事業が創設されました。 不動産小口化商品は、不動産特定共同事業法の許可を受けた事業者が提供するもので、大きく「任意組合型」と「匿名組合型」とに分かれます。 「任意組合型」の不動産小口化商品は、投資家が不動産特定共同事業者と民法上の組合契約を交わし組合を組成し、その組合が出資により取得した不動産を賃貸等によって運用し、その収益を投資家に分配するという仕組みの商品です。不動産の所有権は、組合員である投資家及び不動産特定共同事業者に帰属します。よって、組合に生じた損益は直接組合員に帰属し、所得税の課税上は、現物の不動産を所有している場合と同様に、不動産所得となります。また、相続や贈与を行う際の評価は、不動産の評価となるため、相続税・贈与税の節税効果は大きいといえます。 「匿名組合型」は、不動産特定共同事業者が投資家と匿名組合契約を交わし出資を受け、事業者は事業によって得た収益を投資家に分配するという形態の商品です。最近は、不動産クラウドファンディング又は不動産STとしても販売されています。投資家の出資金は事業者の財産となることから、事業者がその出資金により取得した不動産は事業者の所有となり、投資家は第三者に対して権利義務を持たず、その収益に対する所得税の課税上の取扱いは事業所得又は雑所得となります。また、匿名組合型は、相続や贈与を行う際の評価として、不動産の評価を使うことはできません。
任意組合型の課税関係
① 組合に生じた損益(所得税)
任意組合型における投資家に分配される収益の課税関係は、パススルー課税が適用され(所基通36・37共-19),組合は課税されず、投資家は不動産所得として、確定申告が必要です。なお、組合契約を締結している組合員に該当する個人が、組合事業から生ずる不動産所得の損失がある場合、不動産所得の計算及び損益通算その他所得税に関する法令の適用について、その損失の金額は生じなかったものとみなされます (措法41の4の2①②)ので、この点注意が必要です。
② インボイス制度(消費税)
対象不動産がオフィスビルである場合、賃料には消費税が課税されます。パススルー課税においては、賃料収入は、消費税を含んだところで投資家に帰属することとなります。消費税のインボイス制度において、投資家が適格請求書発行事業者の登録を行っていない場合、オフィスビルの賃借人は消費税の仕入税額控除が適用できなくなることから、投資家は免税事業者である場合であっても、適格請求書発行事業者の登録を行わなければならない場面が生じ、消費税の確定申告が必要となります。
③ 相続開始時(相続税)
任意組合型の不動産小口化商品については、相続税を計算する際の不動産の評価に当たり、評価方法の定めがないことから、財産評価基本通達に定める評価方法に準じて評価します (評基通5)。不動産の所有権は直接組合員である投資家に帰属することを考慮すると、土地・家屋について、財産評価基本通達の路線価方式及び固定資産税評価額によって評価し、一定の要件を満たす場合は、小規模宅地等の特例を適用することが可能です。 なお、不動産小口化商品の対象不動産が一定の区分所有マンションである場合は、上記の財産評価基本通達による評価額に区分所有補正率を乗じて算出することとなります。 また、財産評価基本通達は「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」(評基通6)と定めていることから、税務当局が、不動産の時価(売買実例価額)と評価額に著しい乖離があるなど課税上弊害があると判断した場合には、時価によって是正されるリスクがあります。さらに、通達改正により、節税効果が減少するリスクもあります。
④ 運用終了後は対象不動産を売却(所得税)
組合は、原則として対象不動産を売却することにより解散します。あらかじめ定められた組合期間内に、不動産特定共同事業者が市況を勘案しつつ対象不動産の売却の検討を行います。対象不動産の売却によって得られた代金を、投資家の出資持分によって分配し組合は解散します。 投資家が解散によって分配を受けた利益は、譲渡所得課税の対象となります。