空き家譲渡の特例
2025年11月19日
Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社
Q: 昨年、一人暮らしをしていた父が亡くなり、父の住んでいた居宅を 相続しました。現在この居宅は空き家となっており、今後住む予定がない ので売却しようと思っています。
A: 相続により取得したお父様の居宅を売却し、一定の要件に当てはまると きは、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除することができます。
解説
空き家特例は、次の趣旨から平成28年度税制改正により創設された制度です。 すなわち、周辺の生活環境に悪影響を及ぼし得る空き家の数は、毎年平均し て約6.4万戸のペースで増加していますが、そのうち約4分の3は昭和56年5 月31日以前の耐震基準(いわゆる「旧耐震基準」)の下で建築されており、ま た、旧耐震基準の家屋の約半数は耐震性がないものと推計されています。こう した空き家の発生を抑制することで、地域住民の生活環境への悪影響を未然に 防ぐことが課題となっています。 こうした状況を踏まえ、相続により生じた空き家であって旧耐震基準の下で 建築されたものに関し、相続人が必要な耐震改修又は除却を行った上で家屋又 は土地を売却した場合の譲渡所得について特別控除を導入することとされたも のです。
(1) 空き家特例の概要
相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡し、一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得の金額から最高 3,000万円まで控除することができます。 この特例のことをいわゆる「空き家特例」といいます。
(2) 空き家特例の対象となる家屋
空き家特例の対象となる家屋(以下「被相続人居住用家屋」といいます。) は、相続の開始の直前 (下記(3)参照)において被相続人の居住の用に供されて いた家屋で、次の要件のすべてを満たすものをいいます。
① 昭和56年5月31日以前に建築されたこと。
② 区分所有建物登記がされている建物でないこと。
③ 相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこ と。
(3) 被相続人が相続の開始直前に老人ホーム等に入所していた場合
令和元年度税制改正において、被相続人が相続の開始の直前に老人ホーム等 に入所していた場合であっても、次の趣旨から一定の要件の下で本特例を適用 できることとされています (措法35⑤,措令238 措通35-9の2)。
すなわち、本特例の対象となる被相続人居住用家屋は、相続開始の直前にお いて被相続人の居住の用に供されていることが要件とされています。しかし、 その人の身体上又は精神上の理由により介護を受ける必要があるため、老人 ホーム等に入所し自宅を離れることになる一方で、実際には、自宅を離れた後 も、一時的に元の自宅に戻り、又は元の自宅を家財置き場等として使用する場 合もあります。
こうした場合には、その人が老人ホーム等に入所しても一律に元の自宅から 生活の拠点を移転したとはいえず、元の自宅が空き家となったとは考えられな いことから、本特例を適用できることとされました。
(4) 空き家特例の対象となる敷地等
空き家特例の対象となる敷地等(以下「被相続人居住用家屋の敷地等」とい います。)とは、相続の開始の直前13において被相続人居住用家屋の敷地の用 に供されていた土地又はその土地の上に存する権利をいいます。
(5) 特例の適用を受けるための主な要件
① 相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋、又は被相続人居住用家 屋及び被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡すること(被相続人居住用家屋に ついて、譲渡の時から譲渡の日の属する年の翌年2月15日までの間に、耐震 基準を満たす必要があります。)。
② 相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋について、譲渡の時から 譲渡の日の属する年の翌年2月15日までの間に全部の取壊し等をした後に被 相続人居住用家屋の敷地等を譲渡すること。
③ 相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋を譲渡するか、被相続人 居住用家屋とともに被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡する場合で、相続の 時から譲渡の時まで事業の用 貸付けの用又は居住の用に供されていたこと がないこと。
④ 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに 譲渡すること。
⑤ 被相続人の居住の用に供していた部分の譲渡金額の総額(複数の者が共有 で取得し譲渡した場合や物件を分割して複数年で譲渡した場合は、それらす べての合計額)が1億円以下であること (措法357)。
なお、譲渡物件が共有や複数年等に分かれるケースでは、本特例を受けよ うとする相続人は、他の居住用家屋取得相続人に対し本特例を受ける旨の通 知をしなければなりません (措法35⑧)。そして、被相続人居住用家屋又は 被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡した日から3年を経過する日の属する年 の12月31日までに残りの部分を自分や他の相続人が譲渡した結果、譲渡代金 の合計額が1億円を超えたときには、その譲渡の日から4か月以内に修正申 告書の提出と納税を行わなければなりません (措法35⑨)。
⑥ 売却した家屋や敷地等について、相続財産を譲渡した場合の相続税額の取 得費加算の特例(措法39) や収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を 受けていないこと(前記56(6)参照)。
⑦ 同一の被相続人から相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋又は 被相続人居住用家屋の敷地等について、この特例の適用を受けていないこと。
⑧ 親子や夫婦など特別の関係がある人に対して売却したものでないこと。 なお、「特別の関係」には、このほか生計を一にする親族、家屋を売却し た後その売却した家屋で同居する親族、内縁関係にある人、特殊な関係のあ る法人なども含まれます。
(6) 本事例における特例の適用の可否等
相談者が父親から相続により取得した土地及び建物について、一定の要件を満たす場合は、本特例の適用を受けることができます。 第11章 所得税課税 241 この場合、土地及び建物を相続又は遺贈で取得する必要があり、建物のみ、 又は土地のみの相続又は遺贈をしたときは本特例の適用はありません。 また、父親が要介護など一定の事由により老人ホームに入所していた場合に おいても、老人ホーム入所から譲渡までの間に、その居宅を貸付けや父親以外 の人の居住の用に供していないなどの要件14を満たすことにより、本特例の適 用を受けることができます。
(7) 改正空き家法の施行
改正空き家法15は、空き家の所有者に活用の意向がない、又は意向はあって も活用に向けた活動が行われていない空き家が放置され、防犯、防災,衛生面 等の観点から周辺環境に影響を与えることが懸念される状況を踏まえ、空き家 の①活用拡大、②管理の確保及び③特定空き家16等の除去等を3本柱に据えて 改正が行われ、令和5年12月13日に施行されました。 放置すれば特定空き家になるおそれのある空き家(管理不全空き家)に対し、 管理指針に則した措置をとり、市区町村長が指導・勧告を行い、勧告を受けた 管理不全空き家は、固定資産税の住宅用地特例 (6分の1等に減額)が解除さ れることとされています。
A: 相続により取得したお父様の居宅を売却し、一定の要件に当てはまると きは、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除することができます。
解説
空き家特例は、次の趣旨から平成28年度税制改正により創設された制度です。 すなわち、周辺の生活環境に悪影響を及ぼし得る空き家の数は、毎年平均し て約6.4万戸のペースで増加していますが、そのうち約4分の3は昭和56年5 月31日以前の耐震基準(いわゆる「旧耐震基準」)の下で建築されており、ま た、旧耐震基準の家屋の約半数は耐震性がないものと推計されています。こう した空き家の発生を抑制することで、地域住民の生活環境への悪影響を未然に 防ぐことが課題となっています。 こうした状況を踏まえ、相続により生じた空き家であって旧耐震基準の下で 建築されたものに関し、相続人が必要な耐震改修又は除却を行った上で家屋又 は土地を売却した場合の譲渡所得について特別控除を導入することとされたも のです。
(1) 空き家特例の概要
相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡し、一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得の金額から最高 3,000万円まで控除することができます。 この特例のことをいわゆる「空き家特例」といいます。
(2) 空き家特例の対象となる家屋
空き家特例の対象となる家屋(以下「被相続人居住用家屋」といいます。) は、相続の開始の直前 (下記(3)参照)において被相続人の居住の用に供されて いた家屋で、次の要件のすべてを満たすものをいいます。
① 昭和56年5月31日以前に建築されたこと。
② 区分所有建物登記がされている建物でないこと。
③ 相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこ と。
(3) 被相続人が相続の開始直前に老人ホーム等に入所していた場合
令和元年度税制改正において、被相続人が相続の開始の直前に老人ホーム等 に入所していた場合であっても、次の趣旨から一定の要件の下で本特例を適用 できることとされています (措法35⑤,措令238 措通35-9の2)。
すなわち、本特例の対象となる被相続人居住用家屋は、相続開始の直前にお いて被相続人の居住の用に供されていることが要件とされています。しかし、 その人の身体上又は精神上の理由により介護を受ける必要があるため、老人 ホーム等に入所し自宅を離れることになる一方で、実際には、自宅を離れた後 も、一時的に元の自宅に戻り、又は元の自宅を家財置き場等として使用する場 合もあります。
こうした場合には、その人が老人ホーム等に入所しても一律に元の自宅から 生活の拠点を移転したとはいえず、元の自宅が空き家となったとは考えられな いことから、本特例を適用できることとされました。
(4) 空き家特例の対象となる敷地等
空き家特例の対象となる敷地等(以下「被相続人居住用家屋の敷地等」とい います。)とは、相続の開始の直前13において被相続人居住用家屋の敷地の用 に供されていた土地又はその土地の上に存する権利をいいます。
(5) 特例の適用を受けるための主な要件
① 相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋、又は被相続人居住用家 屋及び被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡すること(被相続人居住用家屋に ついて、譲渡の時から譲渡の日の属する年の翌年2月15日までの間に、耐震 基準を満たす必要があります。)。
② 相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋について、譲渡の時から 譲渡の日の属する年の翌年2月15日までの間に全部の取壊し等をした後に被 相続人居住用家屋の敷地等を譲渡すること。
③ 相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋を譲渡するか、被相続人 居住用家屋とともに被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡する場合で、相続の 時から譲渡の時まで事業の用 貸付けの用又は居住の用に供されていたこと がないこと。
④ 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに 譲渡すること。
⑤ 被相続人の居住の用に供していた部分の譲渡金額の総額(複数の者が共有 で取得し譲渡した場合や物件を分割して複数年で譲渡した場合は、それらす べての合計額)が1億円以下であること (措法357)。
なお、譲渡物件が共有や複数年等に分かれるケースでは、本特例を受けよ うとする相続人は、他の居住用家屋取得相続人に対し本特例を受ける旨の通 知をしなければなりません (措法35⑧)。そして、被相続人居住用家屋又は 被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡した日から3年を経過する日の属する年 の12月31日までに残りの部分を自分や他の相続人が譲渡した結果、譲渡代金 の合計額が1億円を超えたときには、その譲渡の日から4か月以内に修正申 告書の提出と納税を行わなければなりません (措法35⑨)。
⑥ 売却した家屋や敷地等について、相続財産を譲渡した場合の相続税額の取 得費加算の特例(措法39) や収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を 受けていないこと(前記56(6)参照)。
⑦ 同一の被相続人から相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋又は 被相続人居住用家屋の敷地等について、この特例の適用を受けていないこと。
⑧ 親子や夫婦など特別の関係がある人に対して売却したものでないこと。 なお、「特別の関係」には、このほか生計を一にする親族、家屋を売却し た後その売却した家屋で同居する親族、内縁関係にある人、特殊な関係のあ る法人なども含まれます。
(6) 本事例における特例の適用の可否等
相談者が父親から相続により取得した土地及び建物について、一定の要件を満たす場合は、本特例の適用を受けることができます。 第11章 所得税課税 241 この場合、土地及び建物を相続又は遺贈で取得する必要があり、建物のみ、 又は土地のみの相続又は遺贈をしたときは本特例の適用はありません。 また、父親が要介護など一定の事由により老人ホームに入所していた場合に おいても、老人ホーム入所から譲渡までの間に、その居宅を貸付けや父親以外 の人の居住の用に供していないなどの要件14を満たすことにより、本特例の適 用を受けることができます。
(7) 改正空き家法の施行
改正空き家法15は、空き家の所有者に活用の意向がない、又は意向はあって も活用に向けた活動が行われていない空き家が放置され、防犯、防災,衛生面 等の観点から周辺環境に影響を与えることが懸念される状況を踏まえ、空き家 の①活用拡大、②管理の確保及び③特定空き家16等の除去等を3本柱に据えて 改正が行われ、令和5年12月13日に施行されました。 放置すれば特定空き家になるおそれのある空き家(管理不全空き家)に対し、 管理指針に則した措置をとり、市区町村長が指導・勧告を行い、勧告を受けた 管理不全空き家は、固定資産税の住宅用地特例 (6分の1等に減額)が解除さ れることとされています。