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弁護士の知識

相続時精算課税制度の改正

2025年11月19日

Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社

Q: 私は、節税対策のため、長女と孫に贈与を続けてきました。長女と 孫は暦年課税贈与として申告していましたが、今後,相続時精算課税贈与 を選択することはできるでしょうか。
A: あなたから財産を贈与により取得したご長女様やお孫さんは、暦年課税 贈与に代えてその方々の選択により、相続時精算課税制度の適用を受けること ができます(相法21の9~21の18;前記12(2)参照)。
解説
贈与税については、相続税の補完税として生前における贈与を通じた相続税 の課税回避を防止するという側面と、所得税・相続税に類する機能として無償 の財産移転に対する利得に担税力を見出し負担を求めるという複数の機能を併 せ持っている税として構成されています。一生に一度課税される相続税と比べ て暦年に分割できる贈与税は、相続税と比べると基礎控除は小さく、税率の累 進度は急になっていました。 一般に、親から子への資産移転に係る税負担は、生前に贈与をする方が相続 より重いことから生前贈与に対して禁止的に作用してきました。 この結果、①高齢化の進展に伴い相続による次世代への資産移転の時期が大 幅に遅れてきていること、②高齢者の保有する資産の有効活用を通じて経済社 会の活性化に資することを踏まえ、生前における贈与と相続との間で資産の移 転時期の選択に対する課税の中立性を確保する観点から、平成15年度税制改正 において相続時精算課税制度が創設されました。
さらに、令和5年度税制改正では、資産移転(贈与による移転・相続による 移転)の時期の選択により中立的な税制を構築する観点から、相続時精算課税 制度のより一層の利用促進のために、次の見直しが行われました。
① 令和6年1月1日以後の贈与から、相続時精算課税贈与における贈与税の計 算において年間110万円の基礎控除が新設。相続時精算課税贈与であっても、 毎年110万円までの贈与であれば贈与税の申告と納税は不要に。
② 令和6年以後に行われた相続時精算課税贈与について、相続財産に加算され る相続時精算課税適用財産の価額は、基礎控除額110万円を差し引いた後の価 額を加算。

(1) 相続時精算課税贈与に係る贈与税の基礎控除の新設
令和6年1月1日以後の贈与から、相続時精算課税贈与の贈与税の計算において毎年110万円までの基礎控除が新設されました(相法21の11の2,措法70 の3の2①)。改正前の相続時精算課税贈与に係る贈与税の計算においては、このような基礎控除はなく、たとえ少額の贈与で贈与税が生じなくても贈与税の申告が必要であり、制度普及の障害になっているとの指摘がありました。 この基礎控除の新設を受け、年間110万円までの相続時精算課税贈与であれば贈与税の申告・納税が不要となります。なお、相続時精算課税贈与の基礎控除の留意点としては、次の2点があります。
① 相続時精算課税贈与の基礎控除は暦年課税贈与の基礎控除と重複して適用することが可能。このため、相続時精算課税贈与と暦年課税贈与を併用することにより年間220万円まで無税で贈与を行うことが可能に。
(※)相続時精算課税制度を選択した贈与者と暦年課税贈与の贈与者が異なる場合
② 複数の特定贈与者から相続時精算課税贈与を受けた場合には、相続時精算課税贈与に係る贈与税の基礎控除額110万円を贈与税の課税価格で按分。

(2) 相続財産に加算される相続時精算課税適用財産の価額の改正
相続財産に加算される相続時精算課税適用財産の価額は、基礎控除(原則110万円)を差し引いた後の価額とされました(相法21の15,21の16,措法70の3の2②)。 これまで、相続時精算課税贈与により取得した財産については、どんなに少額の財産であったとしても相続財産への加算が必要でした。しかし、令和6年1月1日以後の相続時精算課税贈与からは年間110万円の基礎控除が新設され、この基礎控除相当額の範囲内の贈与であれば相続財産への加算が不要となります。