相続土地国庫帰属制度の創設
2025年11月19日
Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社
Q: 父が亡くなり田舎の土地を相続しました。利用する当てもないので 処分しようと思いますが、買い手がみつかりません。
A: 令和5年4月から、相続により土地の所有権を取得した人は、一定の要 件を満たすとき、その土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度を利 用することができます。
解説………
相続した土地について、「遠くに住んでいて利用する予定がない」、「周りに 迷惑がかかるから管理が必要だけど負担が大きい」などの理由により、土地を 手放したいというニーズが高まっています。このため、不動産についても所有 権を放棄し、これにより無主の不動産となって、所有権は国庫に帰属するので はないか(民法239②)という議論が生じました。しかし、裁判例は、不動産 の所有権放棄の可否について明言を避けながら、その事案では放棄できるとし ても国に対する所有権移転登記を求める請求は権利濫用等に該当し無効である と判断しました。
このような土地が管理されずに放置されると、将来,「所有者不明土地」が 発生するリスクが高まります。そこで、このような所有者不明土地の発生を予 防するため、相続又は相続人に対する遺贈(以下、本項において「相続等」と いいます。)によって土地の所有権又は共有持分(以下「所有権等」といいま す。)を取得した相続人が、一定の要件を満たすときは、土地を手放して国庫 に帰属させることを可能とする「相続土地国庫帰属制度」が創設されました(相続土地国庫帰属法1)。
(1) 申請できる人
その土地の所有権等を国庫に帰属させることについて、承認を申請すること ができる人は、相続等によって土地を取得した人に限られます。建物は対象に なりません。売買や贈与など相続等以外の原因により自ら土地を取得した人や、 相続等により土地を取得することができない法人は、基本的に本制度を利用す ることはできません。
もっとも、共有持分については、共有者全員が共同して国庫帰属の承認申請 を行う必要があり、このため、他の共有者も相続等に係る共有持分の取得者と 一緒に承認申請を行うことにより国庫帰属させることができます(相続土地国 庫帰属法2②)。
(2) 引き取ることができない土地の要件
国庫に帰属した後、通常の利用ができ、国が管理する上で過分の費用・労力 がかからないよう要件が定められています。所有者がその負担を国に対して不 当に転嫁する事態を回避するためです。
① 申請をすることができないケース (却下事由)(相続土地国庫帰属法2③)
イ 建物がある土地
ロ 担保権や使用収益権が設定されている土地
ハ 他人の利用が予定されている土地
二 土壌汚染されている土地
ホ 境界が明らかでない土地、所有権の存否や範囲について争いがある土地
② 承認を受けることができないケース (不承認事由)(相続土地国庫帰属法 5①)
イ 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
ロ 土地の管理・処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上にある土地
ハ 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
二 無道路地(民法210①②),所有権に基づく使用又は収益が現に妨害されている土地(その程度が軽微なものを除く。)(相続土地国庫帰属法5①四,同法施行令4②一,二)
ホ 通常の管理・処分をするに当たり過分の費用・労力を要する土地として同法施行令4条3項で定めるもの
(3) 負担金等
本制度の承認を申請する場合には、申請書に審査手数料額に相当する額の収入印紙(土地1筆当たり14,000円)を貼付して納付する必要があります。 必要に応じて調査が行われ(相続土地国庫帰属法6),要件を満たす場合には法務大臣は申請を承認します(同法5①)。審査には半年から1年間程度の期間を要するとされています。 相続した土地の国庫帰属が承認された時点で、国の将来の管理費用の前払いとして、管理に要する10年分の標準的な費用の額を考慮して定めるものとされています(同法10①)。具体的な算定方法は、同法施行令5条のとおりです。
なお、偽りその他不正の手段により承認を受けたことが判明したときは、法務大臣は承認を取り消すことができ(同法13①),承認を受けた人が不承認の事由があることを知りながら告げずに承認を受けた場合には、損害賠償責任を負担することになります(同法14)。
(4) 課税上の取扱い
本制度を利用することにより、その土地の所有権は、相続等によりその土地を取得した人から国に移転するわけですが、移転に伴い生じると見込まれる次の課税上の取扱いは現時点で示されていません。
① 相続財産の評価
本制度を利用して国庫に帰属することとなる土地については、引き取り手がいないなど財産的価値がないものと見込まれるところ、相続開始後、国への引取りが承認された場合、更正の請求によって、時価の見直しが可能であるのか。 また、この場合、負担金は債務控除の対象となるのか。
② 寄附金控除の適用
相続等によって取得した財産を、相続税の申告期限までに、国や地方公共団体等に寄附した場合は、その寄附をした財産や支出した金銭は相続税の対象としない特例があるが、この特例の適用はあるのか。
③ 譲渡所得の計算
その土地の所有権が国に移転したとき、譲渡所得が発生することになるのか。この場合、収入金額はゼロとするのか、相続税評価額とするのか。また、譲渡所得が発生する場合、取得費用を控除し生じた譲渡損失の金額について、その損失の金額を他の土地や建物の譲渡所得から控除することができるのか。さらに、負担金は譲渡費用として取り扱われるのか。
A: 令和5年4月から、相続により土地の所有権を取得した人は、一定の要 件を満たすとき、その土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度を利 用することができます。
解説………
相続した土地について、「遠くに住んでいて利用する予定がない」、「周りに 迷惑がかかるから管理が必要だけど負担が大きい」などの理由により、土地を 手放したいというニーズが高まっています。このため、不動産についても所有 権を放棄し、これにより無主の不動産となって、所有権は国庫に帰属するので はないか(民法239②)という議論が生じました。しかし、裁判例は、不動産 の所有権放棄の可否について明言を避けながら、その事案では放棄できるとし ても国に対する所有権移転登記を求める請求は権利濫用等に該当し無効である と判断しました。
このような土地が管理されずに放置されると、将来,「所有者不明土地」が 発生するリスクが高まります。そこで、このような所有者不明土地の発生を予 防するため、相続又は相続人に対する遺贈(以下、本項において「相続等」と いいます。)によって土地の所有権又は共有持分(以下「所有権等」といいま す。)を取得した相続人が、一定の要件を満たすときは、土地を手放して国庫 に帰属させることを可能とする「相続土地国庫帰属制度」が創設されました(相続土地国庫帰属法1)。
(1) 申請できる人
その土地の所有権等を国庫に帰属させることについて、承認を申請すること ができる人は、相続等によって土地を取得した人に限られます。建物は対象に なりません。売買や贈与など相続等以外の原因により自ら土地を取得した人や、 相続等により土地を取得することができない法人は、基本的に本制度を利用す ることはできません。
もっとも、共有持分については、共有者全員が共同して国庫帰属の承認申請 を行う必要があり、このため、他の共有者も相続等に係る共有持分の取得者と 一緒に承認申請を行うことにより国庫帰属させることができます(相続土地国 庫帰属法2②)。
(2) 引き取ることができない土地の要件
国庫に帰属した後、通常の利用ができ、国が管理する上で過分の費用・労力 がかからないよう要件が定められています。所有者がその負担を国に対して不 当に転嫁する事態を回避するためです。
① 申請をすることができないケース (却下事由)(相続土地国庫帰属法2③)
イ 建物がある土地
ロ 担保権や使用収益権が設定されている土地
ハ 他人の利用が予定されている土地
二 土壌汚染されている土地
ホ 境界が明らかでない土地、所有権の存否や範囲について争いがある土地
② 承認を受けることができないケース (不承認事由)(相続土地国庫帰属法 5①)
イ 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
ロ 土地の管理・処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上にある土地
ハ 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
二 無道路地(民法210①②),所有権に基づく使用又は収益が現に妨害されている土地(その程度が軽微なものを除く。)(相続土地国庫帰属法5①四,同法施行令4②一,二)
ホ 通常の管理・処分をするに当たり過分の費用・労力を要する土地として同法施行令4条3項で定めるもの
(3) 負担金等
本制度の承認を申請する場合には、申請書に審査手数料額に相当する額の収入印紙(土地1筆当たり14,000円)を貼付して納付する必要があります。 必要に応じて調査が行われ(相続土地国庫帰属法6),要件を満たす場合には法務大臣は申請を承認します(同法5①)。審査には半年から1年間程度の期間を要するとされています。 相続した土地の国庫帰属が承認された時点で、国の将来の管理費用の前払いとして、管理に要する10年分の標準的な費用の額を考慮して定めるものとされています(同法10①)。具体的な算定方法は、同法施行令5条のとおりです。
なお、偽りその他不正の手段により承認を受けたことが判明したときは、法務大臣は承認を取り消すことができ(同法13①),承認を受けた人が不承認の事由があることを知りながら告げずに承認を受けた場合には、損害賠償責任を負担することになります(同法14)。
(4) 課税上の取扱い
本制度を利用することにより、その土地の所有権は、相続等によりその土地を取得した人から国に移転するわけですが、移転に伴い生じると見込まれる次の課税上の取扱いは現時点で示されていません。
① 相続財産の評価
本制度を利用して国庫に帰属することとなる土地については、引き取り手がいないなど財産的価値がないものと見込まれるところ、相続開始後、国への引取りが承認された場合、更正の請求によって、時価の見直しが可能であるのか。 また、この場合、負担金は債務控除の対象となるのか。
② 寄附金控除の適用
相続等によって取得した財産を、相続税の申告期限までに、国や地方公共団体等に寄附した場合は、その寄附をした財産や支出した金銭は相続税の対象としない特例があるが、この特例の適用はあるのか。
③ 譲渡所得の計算
その土地の所有権が国に移転したとき、譲渡所得が発生することになるのか。この場合、収入金額はゼロとするのか、相続税評価額とするのか。また、譲渡所得が発生する場合、取得費用を控除し生じた譲渡損失の金額について、その損失の金額を他の土地や建物の譲渡所得から控除することができるのか。さらに、負担金は譲渡費用として取り扱われるのか。