ラップロ座の課税関係
2025年11月19日
Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社
ラップロ座の現状等
新しいNISA制度が始まり、投資信託や株式等へ家計資金が流入しているといわれています。
証券会社や信託銀行(以下「証券会社等」といいます。)の金融サービスである投資一任口座(ラップ口座)についても、利用者・契約金額とも増加しています。ラップ口座とは、顧客が自分で判断して取引を行う一般的な投資と異なり、大まかな運用スタイルを選択し、証券会社等と契約を結んだ上で資金運用を一任し、証券会社等がその資金を元手に選択された運用スタイルにより株式等を売買するサービスのことをいいます。
従来は富裕層向けであったところ、近年最低預入額が引き下げられ、さらには売買をシステムに任せる「ロボラップ」を含め、利用者数の増加につながっています。2024年6月末時点のラップ口座の契約件数は、169万6,538件,契約金額は20兆1,189億円となっています(一般社団法人日本投資顧問業協会 統計資料 2024年6月末 「4. ラップ業務(3)契約規模別分布状況」)。
問題の所在
ラップ口座は、顧客(被相続人)と証券会社等との投資一任契約であり、その約款では顧客は他者(相続人も含みます。)にラップ口座を引き継ぐことはできないとされています。
なお、①証券会社等では相続人等からラップ口座契約者が亡くなった旨の連絡があるまで、又は、②相続人から遺産分割協議書などの一定の書類の提出があるまでは、ラップ口座内の株式等の売買が行われている状況にあります。 この場合、相続開始日現在のラップ口座の相続税評価額はいくらなのか、また、相続開始後のラップ口座内での株式の売買の所得は誰に帰属するのか、相続人であるとした場合には取得費加算が適用できるのかなどの疑問が生じるところです。
ラップ口座の相続税評価額
ラップ口座の相続開始日現在の評価額は、相続開始日現在の残高証明書の額となります。 証券会社等によっては、相続開始日現在の残高証明書に、①ラップ口座内の株式等の銘柄,株数,評価額を明示しているものがある一方、②ラップロ座は被相続人から相続人に引き継ぐことはできないことから、ラップ口座内の評価額を現金で示しているものもあります。 ただ、いずれの場合であっても、ラップ口座の相続財産の評価額としては、相続開始日現在の残高証明書の額によるものと考えられます。
所得税法上の取扱い
① 所得区分
ラップ口座の株取引は、所有期間1年以下の上場株式の売買を行うものであり、また、顧客が報酬を支払って、有価証券の投資判断とその執行を証券会社等に一任し、契約期間中に営利を目的として継続的に上場株式の売買を行っていると認められますので、その株式の譲渡による所得は、事業所得又は雑所得に当たるものとして取り扱われています(国税庁質疑応答事例「投資一任口座(ラップ口座)における株取引の所得区分」)。
② 所得の帰属者
ラップ口座は被相続人から相続人に引き継ぐことはできないとされています。しかし、現実には、証券会社等において被相続人が亡くなった旨の連絡を受けるのは、一定期間が経過した後となり、相続開始後にラップロ座内で株式の売買による所得が発生しています。その場合、その所得は被相続人に帰属するのか、相続人に帰属するのか悩ましいところです。また、その取扱いは、次の表のとおり、証券会社等によっても異なっています。
③ 相続人が所得者となる場合の相続税額の取得費加算の特例
次の表のB社のように被相続人から相続人にラップ口座が引き継がれて、相続人がそのラップ口座内の株式等を売却した場合、相続財産を譲渡した場合の譲渡所得の取得費加算の特例 (措法39) が適用できるか否かについて、ラップ口座の株取引は事業所得又は雑所得である(前記①参照)ものの取得費加算の特例は適用できるとの見解はあります(税務通信3821号52頁)。
④ 国外転出時課稅
1億円以上の有価証券を有している被相続人の相続開始によって、非居住者が有価証券等を取得した場合、被相続人が相続開始時に時価で有価証券等を売却したものとみなして、譲渡所得税の課税対象とされます(前記59参照)。相続人が取得者と解される場合には、ラップ口座が国外転出時課税の対象となることも考えられます。
新しいNISA制度が始まり、投資信託や株式等へ家計資金が流入しているといわれています。
証券会社や信託銀行(以下「証券会社等」といいます。)の金融サービスである投資一任口座(ラップ口座)についても、利用者・契約金額とも増加しています。ラップ口座とは、顧客が自分で判断して取引を行う一般的な投資と異なり、大まかな運用スタイルを選択し、証券会社等と契約を結んだ上で資金運用を一任し、証券会社等がその資金を元手に選択された運用スタイルにより株式等を売買するサービスのことをいいます。
従来は富裕層向けであったところ、近年最低預入額が引き下げられ、さらには売買をシステムに任せる「ロボラップ」を含め、利用者数の増加につながっています。2024年6月末時点のラップ口座の契約件数は、169万6,538件,契約金額は20兆1,189億円となっています(一般社団法人日本投資顧問業協会 統計資料 2024年6月末 「4. ラップ業務(3)契約規模別分布状況」)。
問題の所在
ラップ口座は、顧客(被相続人)と証券会社等との投資一任契約であり、その約款では顧客は他者(相続人も含みます。)にラップ口座を引き継ぐことはできないとされています。
なお、①証券会社等では相続人等からラップ口座契約者が亡くなった旨の連絡があるまで、又は、②相続人から遺産分割協議書などの一定の書類の提出があるまでは、ラップ口座内の株式等の売買が行われている状況にあります。 この場合、相続開始日現在のラップ口座の相続税評価額はいくらなのか、また、相続開始後のラップ口座内での株式の売買の所得は誰に帰属するのか、相続人であるとした場合には取得費加算が適用できるのかなどの疑問が生じるところです。
ラップ口座の相続税評価額
ラップ口座の相続開始日現在の評価額は、相続開始日現在の残高証明書の額となります。 証券会社等によっては、相続開始日現在の残高証明書に、①ラップ口座内の株式等の銘柄,株数,評価額を明示しているものがある一方、②ラップロ座は被相続人から相続人に引き継ぐことはできないことから、ラップ口座内の評価額を現金で示しているものもあります。 ただ、いずれの場合であっても、ラップ口座の相続財産の評価額としては、相続開始日現在の残高証明書の額によるものと考えられます。
所得税法上の取扱い
① 所得区分
ラップ口座の株取引は、所有期間1年以下の上場株式の売買を行うものであり、また、顧客が報酬を支払って、有価証券の投資判断とその執行を証券会社等に一任し、契約期間中に営利を目的として継続的に上場株式の売買を行っていると認められますので、その株式の譲渡による所得は、事業所得又は雑所得に当たるものとして取り扱われています(国税庁質疑応答事例「投資一任口座(ラップ口座)における株取引の所得区分」)。
② 所得の帰属者
ラップ口座は被相続人から相続人に引き継ぐことはできないとされています。しかし、現実には、証券会社等において被相続人が亡くなった旨の連絡を受けるのは、一定期間が経過した後となり、相続開始後にラップロ座内で株式の売買による所得が発生しています。その場合、その所得は被相続人に帰属するのか、相続人に帰属するのか悩ましいところです。また、その取扱いは、次の表のとおり、証券会社等によっても異なっています。
③ 相続人が所得者となる場合の相続税額の取得費加算の特例
次の表のB社のように被相続人から相続人にラップ口座が引き継がれて、相続人がそのラップ口座内の株式等を売却した場合、相続財産を譲渡した場合の譲渡所得の取得費加算の特例 (措法39) が適用できるか否かについて、ラップ口座の株取引は事業所得又は雑所得である(前記①参照)ものの取得費加算の特例は適用できるとの見解はあります(税務通信3821号52頁)。
④ 国外転出時課稅
1億円以上の有価証券を有している被相続人の相続開始によって、非居住者が有価証券等を取得した場合、被相続人が相続開始時に時価で有価証券等を売却したものとみなして、譲渡所得税の課税対象とされます(前記59参照)。相続人が取得者と解される場合には、ラップ口座が国外転出時課税の対象となることも考えられます。