ホーム

弁護士の知識

弁護士業務と税理士業務

2025年11月19日

Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社

Q: 私は弁護士です。数年前に遺産分割協議について相談を受けた相続 人から、税務署に相続税の調査に入られたとの連絡がありました。
A: 弁護士及び一定の弁護士法人は、所属弁護士会を通じて、国税局長に通知することにより、その国税局の管轄区域内において、随時、税理士業務を行うことができることとされています。 解説 税理士の業務は、税務代理、税務書類の作成及び税務相談とされています(税理士法2①)。そして、この税務代理、税務書類の作成、税務相談の業務は、有償、無償を問わず、税理士でなければできません。
(1) 税務代理
税務代理とは、税務署に対する租税に関する法令若しくは行政不服審査法の規定に基づく申告,申請,請求若しくは不服申立て(以下「申告等」といいます。)につき、又はその申告等若しくは税務署の調査若しくは処分に関し税務署に対してする主張若しくは陳述につき、代理し、又は代行することをいいます。「代理」とは、代理人の権限内において依頼人のためにすることを示して上記事項を行うことをいい、「代行」には、事実の解明、陳述等の事実行為を含むものとされています(税理士法基本通達12-4)。 1 平成14年3月26日付国税庁「税理士法基本通達の制定について(法令解釈通達)」

(2) 税務書類の作成
税務書類の作成とは、税務署に対する申告等に係る申告書、申請書,請求書,不服申立書その他租税に関する法令の規定に基づき作成し、かつ、税務署に提出する書類を作成することをいいます。「作成する」とは、上記書類を自己の判断に基づいて作成することをいい、単なる代書は含まれないものとされています(税理士法基本通達2-5)。 相続税や所得税などの申告手続において、税理士が各種申告書類の作成に関与する割合は次の表のとおりで、令和5年度の相続税申告は86.3%であり、所得税と比べ高い割合になっています。これは、相続財産が高額になるほど相続税額が大きくなるため、自身で申告手続を行った結果、相続財産の評価や関係法令や通達の適用誤りを税務当局から指摘され、多額の追徴課税を受けるリスクに備える、また、二次相続と併せて最も節税となる相続税申告の方法のシミュレーションを行い二次相続に備えるなどの理由が考えられます。

(3) 税務相談
税務相談とは、税務署に対する申告等、税務代理における主張若しくは陳述又は申告書等の作成に関し、租税の課税標準等の計算に関する事項について相談に応ずることをいいます。「相談に応ずる」とは、上記事項について、具体的な質問に対して答弁し、指示し又は意見を表明することをいうものとされています(税理士法基本通達2-6)。
(4) 弁護士の税理士業務
弁護士の職務については、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によって、訴訟事件,非訟事件及び審査請求,再調査の請求,再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うこととされています(弁護士法3①)。弁護士は、当然、弁理士及び税理士の事務を行うことができるとされています (同②)が、所属弁護士会を通じて、国税局長に通知することにより、その国税局の管轄区域内において、随時、税理士業務を行うことができるとされています(税理士法51)。 このような通知を行った弁護士は、通知弁護士ないし通知税理士と呼ばれます。令和4年度において、通知弁護士制度によって税理士業務を行っている弁護士数は7,494人となっています。
また、弁護士は税理士となる資格を有すると規定されています(税理士法3①)から、税理士試験合格者と同様に税理士会に登録を行い税理士としての業務をすることができます(税理士法18以下)。令和4年度において、税理士登録を行っている弁護士数は718人です。この場合、税理士会に入会するための入会金と毎月の会費を支払わなくてはなりません。
(5) 非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止 他方で、弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件,非訟事件及び審査請求,再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理,仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができないとされています(弁護士法72)。
遺産分割協議書の作成のための相談及び作成,遺留分侵害額請求における他の相続人との交渉の相談及び交渉代理並びに遺産分割調停や審判における相談 及び代理などの業務は、税理士業務には含まれません。 このため、税理士はこれらの業務を行うことはできません。
(6) 弁護士及び税理士登録者数の推移
令和4年度の弁護士の登録者数は44,916人,税理士の登録者数は80,692人であり、約3.5対6.5の割合となっています。
(7) 本事例の対応
税理士業務を行うためには、所属弁護士会を通じて、相続税の申告書を提出した被相続人の住所地の所轄国税局長に対し、税理士業務開始通知を行います(税理士法51)。この通知等の提出がないことを理由に、弁護士が依頼者と税務当局との納付協議に同席することを認めないとする措置を税務署の職員が行ったことは違法ではないとして、原判決中の税務当局の敗訴部分を取り消した裁判例があり、一定の手続を踏まないと、税務署の調査担当者は弁護士の立会いを認めません。