税務当局への対応
2025年11月19日
Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社
Q: このたび、税務調査に入られた相続人と税務調査の対応に関する委任契約を結び、所属弁護士会を通じて、所轄国税局長に税理士業務開始通知を行いました。
A: 税務調査を受けるに当たっては、相続税の税務調査の実施状況や資料収集の状況等について概観するとともに、税務調査の事前通知から終了までの手続についても理解しておくとよいでしょう。
解説
相続税の納付すべき税額は、所得税や法人税などと同様、申告納税方式を採用しており、納税者の行う申告により確定することを原則としています。そして、その申告がない場合又はその申告に係る税額の計算が法令の規定に従っていなかった場合その他その税額が税務署長の調査したところと異なる場合は、税務署長は課税処分を行います。
(1) 相続税の調査状況等
相続税の実地調査は、資料情報等から申告額が過少であると想定される事案や、申告義務があるにもかかわらず無申告であると想定される事案等について行われます。特に、無申告事案は、申告納税制度の下で自発的に適正な申告・納税を行っている納税者の税に対する公平感を著しく損なうものであるとの観点から、資料情報の収集・活用など無申告事案の把握のための取組みが積極的に行われ、的確な課税処理が図られています。
令和5年度の実地調査の1件当たりの申告漏れ課税価格は3,208万円、1件当たりの追徴税額は859万円となっています。また、無申告事案の1件当たりの追徴税額は1,787万円であり、前年対比114%となっています。
(2) CRS情報の収集状況等
税務当局は、納税者の資産運用の国際化に対応し相続税の適正な課税を実現するため、CRS情報をはじめとした租税条約等に基づく情報交換制度などを効果的に活用し、海外取引や海外資産の保有状況の把握に努めています。 特に、富裕層については、多様化・国際化する資産運用から生じる運用益に対して適正に課税するとともに、将来の相続税の適正課税に向けて情報の蓄積を図っています。
(3) 書面添付の割合
税理士法に定められている書面添付制度は、申告書の作成に関して計算等した事項や相談に応じた事項を記載した書面(以下「添付書面」といいます。)を税理士等が申告書に添付することができるというものです(税理士法33の2①)。その効果として、税務当局が、添付書面が添付されている申告書に係る納税者に対して、あらかじめ日時、場所を通知して税務調査を実施しようとする場合には、その通知前に、税務代理をする税理士等に対して、添付書面の記載事項に関する意見陳述の機会を与えなければならないこととされています(税理士法35①)。 各税目ともに添付割合は上昇しています。
(4) 税務調査の事前通知と加算税
税務当局が税務代理人に対して行う調査通知及び加算税について、次のように取り扱っています。
① 税務調査の事前通知 納税義務者に税務代理人がある場合、その税務代理人が提出した税務代理権限証書に、その納税義務者への事前通知はその税務代理人に対して行われることについて同意する旨の記載があるときは、その納税義務者への調査通知,都合の聴取及び事前通知は、その税務代理人に対して行えば足りることになります。また、納税義務者に対して事前通知を行う場合であっても、納税義務者から、事前通知の詳細は税務代理人を通じて通知して差し支えない旨の申立てがあったときは、納税義務者には調査通知のみを行い、その他の事前通知事項は税務代理人を通じて通知することとして差し支えないとされています(手続通達48-1)。
② 調査通知後の加算税
修正申告書(期限後申告に係るものを除きます。)が、調査通知以後に提出され、かつ、その提出が調査による更正を予知してされたものでない場合には、その申告に基づいて納付すべき税額に5% (期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は10%)の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税が課税されます(通法65①②)。また、期限後申告書(その修正申告書を含みます。)についても、調査通知以後に提出され、かつ、その提出が調査による更正又は決定を予知してされたものでない場合には、その申告に基づいて納付すべき税額に10% (50万円を超える部分は15%)の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税が課税されます (通法66①②)。
(5) 税務調査の結果の通知
税務当局は、税務調査の結果に応じて、「更正決定等をすべきと認められない旨の通知」か「更正決定等をすべきと認められる場合における調査結果の内容の説明等」を行います。
① 更正決定等をすべきと認められない旨の通知
実地の調査を行った結果、更正決定等をすべきと認められない場合は、税務署長は、更正決定等をすべきと認められない旨を書面により通知します(通法74の11①)。
② 更正決定等をすべきと認められる場合における調査結果の内容の説明等
実地の調査を行った結果、更正決定等をすべきと認められる場合には、調査担当者は、その調査結果の内容を納税義務者に説明します(通法74の11②)。 また、調査結果の内容を説明する際、その調査担当者は納税義務者に対し修正申告又は期限後申告を勧奨します(通法74の11③)。なお、調査の結果に関し納税義務者が納税申告書を提出した場合には不服申立てをすることはできませんが、更正の請求をすることはできる旨を説明するとともに、その旨を記載した書類を交付しなければならないこととされています (通法74の11③)。
(6) 本事例の対応
国税局長から「税理士業務開始通知受領書」が届いたら、被相続人の住所地の所轄税務署長宛に、「税務代理権限証書」を提出した上で、税務署の調査担当者とやりとりを開始します(税理士法30)。 調査担当者は、事前通知の際(事前通知を行わない無予告調査の場合には調査開始時)に、どなたの相続の相続税についての調査であるかを明らかにします。 そして、調査担当者は、その相続税の調査に必要な範囲で質問し、帳簿書類等の物件を検査し、又は、その提示若しくは提出を求めることができます(通法74の3①)。また、調査担当者は、その他の税目や他の相続税に関して質問検査を行うことはできないのが原則ですが、別の税目や他の相続税申告についても非違の疑いが生じた場合には、その調査を行うことを明らかにした上で、調査対象に含めることができます(通法74の9④)。 調査担当者から、税務調査の結果の通知を受け、修正申告の勧奨があった場合、税務署の指摘に従い修正申告書を提出するか、その説明に納得がいかない場合には更正処分又は決定を受けた上で、不服申立てを行います(後記70参照)。
(7) 相続人間の意思統一が図られない場合
相続人間で争いがあるなどのため、相続人のうちの1人から税務調査への対応を受任したものの他の相続人と共同歩調をとれないときは、残る相続人は、他の弁護士や税理士と委任契約を結ぶケースや、専門家に頼らず自身で対応を行おうとするケースが想定されます。 このような場合には、委任契約を結んだ相続人の意向を十分に聴取した上、税務署の調査担当者から他の相続人の主張状況の提供を受けるなどして、調査の早期終結に向けた対応も必要と思料します。
A: 税務調査を受けるに当たっては、相続税の税務調査の実施状況や資料収集の状況等について概観するとともに、税務調査の事前通知から終了までの手続についても理解しておくとよいでしょう。
解説
相続税の納付すべき税額は、所得税や法人税などと同様、申告納税方式を採用しており、納税者の行う申告により確定することを原則としています。そして、その申告がない場合又はその申告に係る税額の計算が法令の規定に従っていなかった場合その他その税額が税務署長の調査したところと異なる場合は、税務署長は課税処分を行います。
(1) 相続税の調査状況等
相続税の実地調査は、資料情報等から申告額が過少であると想定される事案や、申告義務があるにもかかわらず無申告であると想定される事案等について行われます。特に、無申告事案は、申告納税制度の下で自発的に適正な申告・納税を行っている納税者の税に対する公平感を著しく損なうものであるとの観点から、資料情報の収集・活用など無申告事案の把握のための取組みが積極的に行われ、的確な課税処理が図られています。
令和5年度の実地調査の1件当たりの申告漏れ課税価格は3,208万円、1件当たりの追徴税額は859万円となっています。また、無申告事案の1件当たりの追徴税額は1,787万円であり、前年対比114%となっています。
(2) CRS情報の収集状況等
税務当局は、納税者の資産運用の国際化に対応し相続税の適正な課税を実現するため、CRS情報をはじめとした租税条約等に基づく情報交換制度などを効果的に活用し、海外取引や海外資産の保有状況の把握に努めています。 特に、富裕層については、多様化・国際化する資産運用から生じる運用益に対して適正に課税するとともに、将来の相続税の適正課税に向けて情報の蓄積を図っています。
(3) 書面添付の割合
税理士法に定められている書面添付制度は、申告書の作成に関して計算等した事項や相談に応じた事項を記載した書面(以下「添付書面」といいます。)を税理士等が申告書に添付することができるというものです(税理士法33の2①)。その効果として、税務当局が、添付書面が添付されている申告書に係る納税者に対して、あらかじめ日時、場所を通知して税務調査を実施しようとする場合には、その通知前に、税務代理をする税理士等に対して、添付書面の記載事項に関する意見陳述の機会を与えなければならないこととされています(税理士法35①)。 各税目ともに添付割合は上昇しています。
(4) 税務調査の事前通知と加算税
税務当局が税務代理人に対して行う調査通知及び加算税について、次のように取り扱っています。
① 税務調査の事前通知 納税義務者に税務代理人がある場合、その税務代理人が提出した税務代理権限証書に、その納税義務者への事前通知はその税務代理人に対して行われることについて同意する旨の記載があるときは、その納税義務者への調査通知,都合の聴取及び事前通知は、その税務代理人に対して行えば足りることになります。また、納税義務者に対して事前通知を行う場合であっても、納税義務者から、事前通知の詳細は税務代理人を通じて通知して差し支えない旨の申立てがあったときは、納税義務者には調査通知のみを行い、その他の事前通知事項は税務代理人を通じて通知することとして差し支えないとされています(手続通達48-1)。
② 調査通知後の加算税
修正申告書(期限後申告に係るものを除きます。)が、調査通知以後に提出され、かつ、その提出が調査による更正を予知してされたものでない場合には、その申告に基づいて納付すべき税額に5% (期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は10%)の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税が課税されます(通法65①②)。また、期限後申告書(その修正申告書を含みます。)についても、調査通知以後に提出され、かつ、その提出が調査による更正又は決定を予知してされたものでない場合には、その申告に基づいて納付すべき税額に10% (50万円を超える部分は15%)の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税が課税されます (通法66①②)。
(5) 税務調査の結果の通知
税務当局は、税務調査の結果に応じて、「更正決定等をすべきと認められない旨の通知」か「更正決定等をすべきと認められる場合における調査結果の内容の説明等」を行います。
① 更正決定等をすべきと認められない旨の通知
実地の調査を行った結果、更正決定等をすべきと認められない場合は、税務署長は、更正決定等をすべきと認められない旨を書面により通知します(通法74の11①)。
② 更正決定等をすべきと認められる場合における調査結果の内容の説明等
実地の調査を行った結果、更正決定等をすべきと認められる場合には、調査担当者は、その調査結果の内容を納税義務者に説明します(通法74の11②)。 また、調査結果の内容を説明する際、その調査担当者は納税義務者に対し修正申告又は期限後申告を勧奨します(通法74の11③)。なお、調査の結果に関し納税義務者が納税申告書を提出した場合には不服申立てをすることはできませんが、更正の請求をすることはできる旨を説明するとともに、その旨を記載した書類を交付しなければならないこととされています (通法74の11③)。
(6) 本事例の対応
国税局長から「税理士業務開始通知受領書」が届いたら、被相続人の住所地の所轄税務署長宛に、「税務代理権限証書」を提出した上で、税務署の調査担当者とやりとりを開始します(税理士法30)。 調査担当者は、事前通知の際(事前通知を行わない無予告調査の場合には調査開始時)に、どなたの相続の相続税についての調査であるかを明らかにします。 そして、調査担当者は、その相続税の調査に必要な範囲で質問し、帳簿書類等の物件を検査し、又は、その提示若しくは提出を求めることができます(通法74の3①)。また、調査担当者は、その他の税目や他の相続税に関して質問検査を行うことはできないのが原則ですが、別の税目や他の相続税申告についても非違の疑いが生じた場合には、その調査を行うことを明らかにした上で、調査対象に含めることができます(通法74の9④)。 調査担当者から、税務調査の結果の通知を受け、修正申告の勧奨があった場合、税務署の指摘に従い修正申告書を提出するか、その説明に納得がいかない場合には更正処分又は決定を受けた上で、不服申立てを行います(後記70参照)。
(7) 相続人間の意思統一が図られない場合
相続人間で争いがあるなどのため、相続人のうちの1人から税務調査への対応を受任したものの他の相続人と共同歩調をとれないときは、残る相続人は、他の弁護士や税理士と委任契約を結ぶケースや、専門家に頼らず自身で対応を行おうとするケースが想定されます。 このような場合には、委任契約を結んだ相続人の意向を十分に聴取した上、税務署の調査担当者から他の相続人の主張状況の提供を受けるなどして、調査の早期終結に向けた対応も必要と思料します。