弁護士の知識

隠蔽・仮装行為

2025年11月19日

Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社

Q: 税務調査において指摘された申告漏れ財産について、隠蔽行為に当た るとして重加算税の対象になると指摘されました。
A: 税務調査において、申告漏れ財産等が隠蔽・仮装行為と認定された場合には、過少申告加算税に代えて高い税率の重加算税が課税される可能性があります。また、更正・決定に係る期間制限が最長7年間に延長されるほか、延滞税の除算期間の適用がありません。
解説
(1) 隠蔽・仮装行為とは
国税通則法68条1項又は2項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又 は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し」 とは、具体的には、次のような事実がある場合をいいます。
① 相続人及び受遺者又は相続人から遺産 (債務及び葬式費用を含みます。)の 調査、申告等を任せられた者(以下「相続人等」といいます。)が、帳簿、決 算書類,契約書,請求書,領収書その他財産に関する書類(以下「帳簿書類」 といいます。)について改ざん、偽造、変造、虚偽の表示、破棄又は隠匿をし ていること。
② 相続人等が、課税財産を隠匿し、架空の債務をつくり、又は事実をねつ造し て課税財産の価額を圧縮していること。
③ 相続人等が、取引先その他の関係者と通謀してそれらの者の帳簿書類につい て改ざん、偽造、変造、虚偽の表示、破棄又は隠匿を行わせていること。
④ 相続人等が、自ら虚偽の答弁を行い又は取引先その他の関係者をして虚偽の答弁を行わせていること及びその他の事実関係を総合的に判断して、相続人等が課税財産の存在を知りながらそれを申告していないことなどが合理的に推認し得ること。
⑤ 相続人等が、その取得した課税財産について、例えば、被相続人の名義以外の名義、架空名義,無記名等であったこと若しくは遠隔地にあったこと又は架空の債務がつくられてあったこと等を認識し、その状態を利用して、これを課税財産として申告していないこと又は債務として申告していること。
(2) 重加算税の税率等
重加算税は、過少申告又は無申告の場合に、その納付すべき税額の基礎となる事実について、隠蔽・仮装行為があったときに、免れようとした税額の35%ないし40%の税率により課せられる附帯税です(加算税の概要は次ページの表参照)。
(3) 国税の更正・決定の期間制限
国税の更正・決定は、その更正・決定に係る国税の法定申告期限から5年を経過した日以後は行うことができないとされています (通法70①)。 なお、贈与税については、上記の規定にかかわらず、法定申告期限から6年を経過した日以後は行うことができないとされています(相法36)。 ただし、「偽りその他不正の行為」により税額を免れた場合は、7年を経過する日までできるとされています(通法70⑤)。この規定の趣旨につき、東京地裁平成27年2月24日判決 は、次のように判示しています (下線は筆者)。
「偽りその他不正の行為」による脱税事案については長い除斥期間を定め、課税の適正を図ることを意図したものである。このような同項の文理及び趣旨に鑑みれば、同項にいう「偽りその他不正の行為」とは、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行っているものをいうと解するのが相当であるが、「偽りその他不正の行為」は、その行為の態様が課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の隠ぺい又は仮装という態様に限定されないことからすると、「隠ぺい」又は「仮装」(同法68条1項、2項)を包摂し、それよりも外延の広いものであると解される。
つまり、更正・決定の期間制限を7年とする「偽りその他不正の行為」と重加算税の課税要件である「隠蔽し、又は仮装したこと」とは必ずしも符合するわけではなく、偽りその他不正の行為は隠蔽・仮装よりも外延の広いものと解されています。そのため、隠蔽・仮装行為がない場合であっても、偽りその他不正の行為があったと認定された場合は、7年間遡及して課税される可能性があります。

(4) 除算期間
税金が定められた期限までに納付されない場合には、原則として法定納期限の翌日から納付する日までの日数に応じて、利息に相当する延滞税が課されます。そして、偽りその他不正の行為により国税を免れた場合等を除き、一定の期間を延滞税の計算期間に含めない 「除算期間」という特例が設けられています(通法35,60,61)。
(5) 本事例の対応
申告漏れのあった財産について、隠蔽行為と指摘されたとのことですが、税務署は、重加算税の課税要件となる事実関係をどのような証拠に基づき認定したのか確認する必要があります。事実関係を誰よりもよく知っているのは、相続人たる納税者ですから、相続人の認識している事実関係と税務署の認定した事実関係とに相違がないか確認することが重要です。そして、相違があったならば、重加算税の賦課決定処分前に税務署に説明を尽くし理解してもらうことがポイントです。 ひとたび、重加算税の賦課決定処分がなされると、再調査の請求や審査請求で争うこととなり、時間と労力を要します。同処分について争われた審査請求事案は多数公表されていますので、類似の事案を検討することも一法です。
(6) 査察制度
不正の手段を使って故意に税を免れた人には、正当な税を課すほかに、反社会的な行為に対する責任を追及するため、懲役や罰金を科すことが税法に定められています(通法126~127)。このような場合、任意調査だけではその実態が把握できないため、強制的権限をもって犯罪捜査に準ずる方法で調査(犯則調査)し、その結果に基づいて検察官に告発し公訴提起を求める「査察制度」があります。税務署の税務調査で多額の申告漏れが把握され、脱税の疑いがある場合には、国税局の査察部署が実施する査察事件の対象となる場合があります。