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弁護士の知識

課税処分に不服があるとき

2025年11月19日

Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社

Q: 税務調査を受け税務署の指摘に従い修正申告書を提出したところ、重加算税の賦課決定通知書が届きました。また、その後、延滞税等のお知らせが届きました。
A: 税務署長又は国税局長(以下「税務署長等」といいます。)が行った更正・決定などの課税処分、差押えなどの滞納処分等に対し不服があるときは、その処分を行った税務署長等に再調査の請求を行うか、国税不服審判所に審査請求を行うことができます。 一方、納税義務の成立と同時に納付すべき税額が確定する国税(延滞税)については、不服申立てを行うことはできません。
解説
(1) 再調査の請求の請求先等
税務署長等が行った更正・決定などの課税処分や差押えなどの滞納処分に不服があるときは、審査請求の前段階として、処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内に、税務署長等に対して「再調査の請求」を行うことができます。 また、納税者の選択により、直接,国税不服審判所長に対して「審査請求」を行うこともできます(通法75①)。
(2) 審査請求の請求先等
税務署長等が行った更正・決定などの課税処分や差押えなどの滞納処分に不服があるときは、処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内に、国税不服審判所長に対して「審査請求」を行うことができます(通法77①)。また、再調査の請求を行った場合であっても、再調査の請求についての決定を経た後の処分になお不服があるときは、再調査決定の通知を受けた日の翌日から1か月以内に審査請求を行うことができます(通法75③,772)。
(3) 審査請求の請求件数等
令和5事務年度の審査請求の請求件数は3,917件で、新型コロナウイルス感染症の影響により調査件数の減少を受けて請求件数が減少した令和元年度から令和3年度を大きく上回っています。また、令和5事務年度における請求の認容割合は9.7%で、10人に1人の割合で納税者の主張が認容されたことになります。
(4) 審査請求の審理の範囲等
審査請求の審理の範囲は、納税者が主張する審査請求の理由に限らず、処分の当否を判断するために必要な範囲全般に及ぶことから、「処分 (・・・・・・) についての審査請求が理由がある場合」(行政不服審査法46①)とは、納税者が主張する個々の理由に限らず、納税者が主張していない理由も含めて、その処分が違法又は不当のいずれかである(同法1①参照)と審判所が認める場合を指します。 もっとも、「不当」とは裁量権の行使の当否を問題とするものですから、裁量性がある行為に限定されるところ、課税処分については合法性の原則(税務当局は、課税要件が充足されている限り、課税処分をしなければならない)により裁量性のない行為であるため、基本的に「不当」を理由に取り消されることはないと考えられます。しかし、青色申告承認取消処分や徴収処分など、ごく限られた例として国税不服審判所で不当を理由に取り消された先例があります。一例として、納税者の帳簿書類の備付け及び記録の不備の程度は甚だ軽微であり、申告納税に対する信頼性が損なわれているとまではいえないことから、所得税法150条1項に基づく青色申告の承認の取消処分は、違法とはいえないものの不当な処分と評価せざるを得ないとして、青色申告の承認の取消処分を取り消した事例があります12。
(5) 審査請求の処理期間
審査請求は、適正かつ迅速な事件処理を通じて納税者の正当な権利利益の救済を図る趣旨から、審査請求書が国税不服審判所に到達してから裁決をするまでに要すべき標準的な期間を1年としており、令和5事務年度の1年以内の処理割合は99.1%となっています。
(6) 代理人の選任
審査請求を行うに当たり、代理人の資格については、特段の制限はありません。そのため、審査請求を行おうとする納税者は、税理士、弁護士に限らず、適当と認める者を代理人に選任することができます。 (7) 納税義務の成立と同時に納付すべき税額が確定する国税 納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税(自動確定による国税。通法15①③)には次のものがあり、これらの国税は税務署長等の課税処分や徴収処分ではありませんので、不服申立ての対象となりません。
① 予定納税
② 源泉徴収等による国税
③ 自動車重量税
④ 国際観光旅客税
⑤ 印紙税
⑥ 登録免許税
⑦ 延滞税及び利子税
(8) 訴訟
国税不服審判所長の判断になお不服がある場合には、裁判所に訴えを提起することができます。この訴えの提起は、原則として裁決書謄本の送達を受けた日の翌日から6か月以内に行う必要があります。 令和5事務年度の訴訟の発生件数は189件で、審査請求で棄却された件数の7%程度となっています。また、令和5事務年度における原告勝訴割合は7.6%で、13人に1人の割合で納税者が勝訴したことになります。
(9) 本事例の対応
本事例は、重加算税の賦課決定通知書が届いたということですので、まずは、不服申立ての期限を確認します。不服申立ての期間は上記(1)及び(2)のとおりですが、不服申立期間内に不服申立てをすることが不可能と認められるような客観的な事情がある場合(具体的には、地震、台風、洪水、噴火などの天災に起因する場合や、火災、交通の途絶等の人為的障害に起因する場合等)には、その期間を経過しても不服申立てを行うことができるとされています(通法77①但書)。
次に、理由附記の記載内容を確認し、記載された事実関係と実際の事実関係が相違していないか、記載された事実関係の評価が誤っていないか、認定された事実関係に基づく課税要件の適用が誤っていないかなど、税務調査の実施状況,質問応答記録書13への署名・押印,裁決事例,裁判例なども検討の上、審査請求を行うか否か判断します。 なお、税務署長等に対し再調査の請求を行うか、国税不服審判所長に対し審査請求を行うかの判断に当たり、事実認定を争う場合は再調査の請求から、法令解釈を争う場合は審査請求からとの判断もあります。
なお、税務署長等に対し再調査の請求を行った場合、税務署長等に原処分を行った際に不足している証拠を収集させる機会を与えることになるため、この点も考慮する必要があると思料します。