手付|手付を打つ
2025年11月19日
書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識
著者名: 森 章太, 出版社名: 日本実業出版社, 発行年月日: 2022年4月1日, 引用ページ: 不明, ISBNコード: 978-4-534-05917-8
所得税基本通達34-1に「一時所得」に該当するものの例示されています。この例示の中に、「民法557条(手付)の規定により売買契約が解除された場合に当該契約の当事者が取得する手付金又は償還金(業務に関して受けるものを除く)」(i)が挙げられています。
手付は、税理士試験にも出題されています。平成29(2017)年度の法人税法の計算問題では、「期末の債権等の明細」に、「土地購入のための手付金1000万円」と記述されています。
本節では、不動産売買契約などで授受される手付(民法)について解説します。
1 手付とは?
手付とは、契約のときに当事者の一方から相手方に対して交付される金銭などのことをいいます。契約に付随して締結される手付契約に基づき交付され、契約の履行がされた場合には、通常、代金の一部に組み込まれます。
手付の金額や内容については、原則として、当事者が自由に決めることができます。
手付は、代金の一部払いである内金とは異なります。また、申込証拠金とも異なります。申込証拠金は、不動産売買に関して、購入希望者が売主に対して優先的に購入権を取得するために預ける金銭であり、売買契約の不成立の場合は原則として返還する必要があります。
2 手付の種類
民法上、手付は解約手付と推定されます(民557条1項)。解約手付とは、契約の解除権が留保されているという意味での手付です。買主は、手付金を放棄して契約を解除することができ、売主は、手付金の倍額を償還(交付された手付金と、さらに同額の金銭)して契約を解除することができます。
違約手付として、解除された場合に個人が取得する手付金または償還金は一時所得に該当します(所基通34-1(i))。ただし、業務に関して受け取ったときは、事業所得になります。
当事者の合意により、解約手付ではなく(または解約手付に加えて)、損害賠償額の予定(当事者による損害賠償額のあらかじめの合意)として手付の意味をもたせることもできます。さらに、手付は違約金であり、別に実損額の賠償請求を、または違約金を超える実損害の賠償請求をできるという違約手付の意味をもたせることもできます。
民法557条は売買契約に関する規定ですが、賃貸借契約などの有償契約(当事者が互いに対価的な給付をする契約)にも準用されます(民559条)。
民法557条(手付)
1項 買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
◎手付の種類
解約手付
損害賠償額の予定としての手付
違約手付
3 履行の着手
相手方が契約の履行に着手した後は、相手方が不測の損害を被ることを防止するため、契約を解除することはできません(民557条1項但書)。この場合の、履行の着手とは、相手方が代金を支払う準備をして、履行の催促をしたことなどをいいます。
4 損害賠償額との関係
解約手付による契約解除をした場合、債務不履行による損害賠償請求は認められません(民557条2項、545条4項。1-9⇒67頁)。手付解除の相手方は、手付放棄または倍返しによって損害が補填されているので、損害賠償請求を認める必要がないからです。
COLUMN 契約の解除
民法の「契約の解除」とは、契約当事者の一方が契約または法律の規定により、相手方に対して一方的な意思表示をすることによって契約を終了させることをいいます(民540条1項。2-2⇒120頁)。手付解除も、契約の解除の一形態です。
POINT 1
手付とは、契約のときに当事者の一方から相手方に対して交付される金銭などのことをいう。内金や申込証拠金とは異なる。
民法上、手付は解約手付と推定される。買主は、手付金を放棄して契約を解除することができ、売主は、手付金の倍額を償還して契約を解除することができる。
当事者の合意により、解約手付ではなく(または解約手付に加えて)、損害賠償額の予定としての意味を手付にもたせることもできる。
相手方が契約の履行に着手した後は、契約を手付解除することはできない。
手付は、税理士試験にも出題されています。平成29(2017)年度の法人税法の計算問題では、「期末の債権等の明細」に、「土地購入のための手付金1000万円」と記述されています。
本節では、不動産売買契約などで授受される手付(民法)について解説します。
1 手付とは?
手付とは、契約のときに当事者の一方から相手方に対して交付される金銭などのことをいいます。契約に付随して締結される手付契約に基づき交付され、契約の履行がされた場合には、通常、代金の一部に組み込まれます。
手付の金額や内容については、原則として、当事者が自由に決めることができます。
手付は、代金の一部払いである内金とは異なります。また、申込証拠金とも異なります。申込証拠金は、不動産売買に関して、購入希望者が売主に対して優先的に購入権を取得するために預ける金銭であり、売買契約の不成立の場合は原則として返還する必要があります。
2 手付の種類
民法上、手付は解約手付と推定されます(民557条1項)。解約手付とは、契約の解除権が留保されているという意味での手付です。買主は、手付金を放棄して契約を解除することができ、売主は、手付金の倍額を償還(交付された手付金と、さらに同額の金銭)して契約を解除することができます。
違約手付として、解除された場合に個人が取得する手付金または償還金は一時所得に該当します(所基通34-1(i))。ただし、業務に関して受け取ったときは、事業所得になります。
当事者の合意により、解約手付ではなく(または解約手付に加えて)、損害賠償額の予定(当事者による損害賠償額のあらかじめの合意)として手付の意味をもたせることもできます。さらに、手付は違約金であり、別に実損額の賠償請求を、または違約金を超える実損害の賠償請求をできるという違約手付の意味をもたせることもできます。
民法557条は売買契約に関する規定ですが、賃貸借契約などの有償契約(当事者が互いに対価的な給付をする契約)にも準用されます(民559条)。
民法557条(手付)
1項 買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
◎手付の種類
解約手付
損害賠償額の予定としての手付
違約手付
3 履行の着手
相手方が契約の履行に着手した後は、相手方が不測の損害を被ることを防止するため、契約を解除することはできません(民557条1項但書)。この場合の、履行の着手とは、相手方が代金を支払う準備をして、履行の催促をしたことなどをいいます。
4 損害賠償額との関係
解約手付による契約解除をした場合、債務不履行による損害賠償請求は認められません(民557条2項、545条4項。1-9⇒67頁)。手付解除の相手方は、手付放棄または倍返しによって損害が補填されているので、損害賠償請求を認める必要がないからです。
COLUMN 契約の解除
民法の「契約の解除」とは、契約当事者の一方が契約または法律の規定により、相手方に対して一方的な意思表示をすることによって契約を終了させることをいいます(民540条1項。2-2⇒120頁)。手付解除も、契約の解除の一形態です。
POINT 1
手付とは、契約のときに当事者の一方から相手方に対して交付される金銭などのことをいう。内金や申込証拠金とは異なる。
民法上、手付は解約手付と推定される。買主は、手付金を放棄して契約を解除することができ、売主は、手付金の倍額を償還して契約を解除することができる。
当事者の合意により、解約手付ではなく(または解約手付に加えて)、損害賠償額の予定としての意味を手付にもたせることもできる。
相手方が契約の履行に着手した後は、契約を手付解除することはできない。