不動産の賃貸借2|契約更新・立退料
2025年11月19日
書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識
著者名: 森 章太, 出版社名: 日本実業出版社, 発行年月日: 2022年4月1日, 引用ページ: 不明, ISBNコード: 978-4-534-05917-8
令和2(2020)年度税理士試験の所得税法の計算問題では、「店舗立退きに伴い支払いを受けた立退料の所得区分と所得計算」が出題されています。受け取った立退料1500万円の内訳は下記のとおりとなっています。
・「家屋の明渡しによって消滅する借家権の対価の額に相当する金額」…150万円
・「店の休業による収入金額を補填する金額」…300万円
・「店の休業期間中に支払う使用人の給与等の必要経費を補填する金額…200万円
・「新店舗の敷金及び設備造作費用等を補填する金額」…850万円
本節では、不動産賃貸借契約の契約更新及び立退料(民法、借地借家法)について解説します。
1 契約の法定更新・更新拒絶・解約申入れ
(1) 借地
ア 存続期間
借地権には最短存続期間が定められており、30年です(借地借家3条)。そして、最初の更新後の存続期間は20年、その後は10年です(借地借家4条)。ただし、当事者がこれより長い期間を定めたときは、その期間となります。
イ 法定更新・更新拒絶
借地権者を保護するため、存続期間満了後に契約が更新されたものとみなす法定更新制度が設けられています。
法定更新が認められるのは、存続期間が満了する場合において、借地権者が契約の更新を請求したときや、存続期間が満了した後、借地権者が土地の使用を継続するときです。ただし、借地権設定者(地主)が遅滞なく異議を述べたときは、法定更新を否定されます(借地借家5条1項但書)。
借地権設定者が契約の更新を拒絶する(異議を述べる)には、正当事由が必要です(借地借家6条)。借地権者が契約の更新を請求しても正当事由がないときは、法定更新が認められる。これに対し、存続期間が満了後に土地の明け渡しを求める訴訟を提起しなければならないわけではなく、地主に正当事由が認められない場合は、契約は法定更新されます。
法定更新されたときは、存続期間以外は、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます(借地借家5条)。
(2) 借家
ア 存続期間
建物賃貸借契約については、存続期間の定めがあるものと、ないものとがあります。定めがあっても1年未満の期間の場合は、存続期間の定めのないものとみなされます(借地借家29条1項)。
イ 法定更新・更新拒絶・解約申入れ
① 期間満了による更新拒絶(存続期間の定めあり)
建物賃貸借契約の期間満了の1年前から6月前までの間に、相手方に対して更新拒絶の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます。ただし、存続期間は定めのないものとなります(借地借家26条1項)。
賃貸人からの更新拒絶には、正当事由が必要です(借地借家28条)。これに対し、賃借人からの更新拒絶には、正当事由は不要です。
なお、存続期間の定めがあるときは、契約中に解約の申入れがなければ、建物賃貸借契約を中途解約することはできません(民618条参照)。存続期間中に契約の更新がされず、中途解約の申入れができないときは、賃貸借契約とみなされることがあります。例えば、新型コロナウイルスの感染拡大の影響などで存続期間中に事務所を移転しようとする場合には、注意が必要です。
② 解約申入れ(存続期間の定めなし)
建物賃貸借には、存続期間の定めがないとき(法定更新されたときを含む)は、いつでも解約の申入れをすることができます。建物賃貸借契約は、申入れの日から3ヶ月が経過することによって終了します(民617条1項2号)。
一方、建物賃貸人が、存続期間の定めのない場合に解約の申入れをしたときは、建物賃貸借契約は、申入れの日から6ヶ月を経過することによって終了します(借地借家27条1項)。もっとも、解約申入れには、正当事由が必要です(借地借家28条)。
2 正当事由
(1) 正当事由の判断
建物賃貸借契約及び賃借人が契約の更新拒絶や解約申入れをするには、上記のとおり、正当事由が必要です(借地借家6条、28条)。
正当事由の有無は、借地権の場合、①借地権設定者及び借地権者が土地の使用を必要とする事情、②借地に関する従前の経過、③土地の利用状況、④借地権設定者が借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をしたことから判断します。
一方、建物の賃貸借契約の場合、①建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情、②建物の賃貸借に関する従前の経過、③建物の利用状況、④建物の現況、⑤建物の賃貸人が建物の賃貸借人に対して給付をする旨の申出をしたことから、正当事由の有無を判断します。
(2) 立退料
立退料を支払うことは、正当事由を補完する役割を果たします。あくまでも補完する役割なので、高額の立退料を申し出ても、正当事由が否定されることがあります。
立退料の算定にあたって客観的な計算方法はありますが、②退去に伴うその他の実質的なものとされています。
まず、消滅する借家権または営業権の価格といったものではありません。
2つ目は、居住権及び営業権の価格に対する補償という性質です。居住していた場合は、精神的な苦痛に対する慰謝料、事業としての店舗であれば、休業損害と補償です。
3つ目は、移転費用の補償という性質です。移転先に対して支払う敷金や賃料増加分を補償することもあります。
(3) 立退料の課税関係
個人が、事業所得または確立して立退料を受け取った場合、所得税法上の各所得の収入金額になります。所得の分類は下記のとおりです。
まず、消滅によって消滅する権利の補償としての性格を有する立退料は、譲渡所得となります。冒頭の税理士試験の「家屋の明渡しによって消滅する借家権の対価の額に相当する金額」150万円は、譲渡所得となります。
次に、収益または必要経費の補填としての性格を有する立退料は、事業所得等となります。本節の冒頭で紹介した税理士試験の「店の休業による収入金額を補填する金額」300万円、「店の休業期間中に支払う使用人の給与等の必要経費を補填する金額」200万円及び「新店舗の敷金及び設備造作費用等を補填する金額」850万円は事業所得となります。
上記以外の性格を有する立退料は、一時所得となります。
COLUMN 4 建物買取請求権・造作買取請求権
[1] 借地の場合
存続期間の満了に際し、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物を買い取ることを請求できます(借地借家13条)。
建物買取請求権は形成権であり、借地権者の一方的意思表示により、売買契約が成立したのと同一の法的効果が生じます。強行法規であり、特約で建物買取請求権を排除することはできません(借地借家16条)。
[2] 借家の場合
建物賃貸借は、賃貸人の同意を得て建物に付加した造作がある場合には、借家人は、建物賃貸借が期間満了または解約申入れによって終了するときに、賃貸人に対し、その造作を時価で買い取るべきことを請求できます(借地借家33条。2-3⇒157頁)。
造作買取請求権も形成権です。任意法規であり、特約で造作買取請求権を排除することができます。
COLUMN 5 定期建物賃貸借
更新のない建物賃貸借として、定期建物賃貸借があります(借地借家38条1項)。賃貸人が貸しやすすることで、優良な供給を促進させることを目的としています。なお、更新のない借地権として、定期借地権(借地借家22条)があります。
定期建物賃貸借の要件は、①建物賃貸借契約に期間を定めること、②契約更新がないとの特約をすること、③契約を公正証書などの書面で行うこと、④契約前に契約更新がないことを記した書面を賃借人に交付して説明をすることです。
COLUMN 6 サブリースと更新拒絶などの正当事由
賃貸人である建物所有者が、維持管理費が増加し固定資産税も高騰したことなどを理由として、不動産を売却しようと考え、そのために賃貸借契約を更新拒絶または解約しようとしても、賃借人であるサブリース業者が正当事由(借地借家28条)がないことを理由として応じないというケースが数多く生じています(1-7P57頁)。
POINT 1
借地借家法には、契約の法定更新制度が設けられている。
借地権設定者及び建物賃貸人が契約の更新拒絶や解約申入れをするには、正当事由が必要である。
立退料を支払うことは、正当事由を補完する役割を果たす。
・「家屋の明渡しによって消滅する借家権の対価の額に相当する金額」…150万円
・「店の休業による収入金額を補填する金額」…300万円
・「店の休業期間中に支払う使用人の給与等の必要経費を補填する金額…200万円
・「新店舗の敷金及び設備造作費用等を補填する金額」…850万円
本節では、不動産賃貸借契約の契約更新及び立退料(民法、借地借家法)について解説します。
1 契約の法定更新・更新拒絶・解約申入れ
(1) 借地
ア 存続期間
借地権には最短存続期間が定められており、30年です(借地借家3条)。そして、最初の更新後の存続期間は20年、その後は10年です(借地借家4条)。ただし、当事者がこれより長い期間を定めたときは、その期間となります。
イ 法定更新・更新拒絶
借地権者を保護するため、存続期間満了後に契約が更新されたものとみなす法定更新制度が設けられています。
法定更新が認められるのは、存続期間が満了する場合において、借地権者が契約の更新を請求したときや、存続期間が満了した後、借地権者が土地の使用を継続するときです。ただし、借地権設定者(地主)が遅滞なく異議を述べたときは、法定更新を否定されます(借地借家5条1項但書)。
借地権設定者が契約の更新を拒絶する(異議を述べる)には、正当事由が必要です(借地借家6条)。借地権者が契約の更新を請求しても正当事由がないときは、法定更新が認められる。これに対し、存続期間が満了後に土地の明け渡しを求める訴訟を提起しなければならないわけではなく、地主に正当事由が認められない場合は、契約は法定更新されます。
法定更新されたときは、存続期間以外は、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます(借地借家5条)。
(2) 借家
ア 存続期間
建物賃貸借契約については、存続期間の定めがあるものと、ないものとがあります。定めがあっても1年未満の期間の場合は、存続期間の定めのないものとみなされます(借地借家29条1項)。
イ 法定更新・更新拒絶・解約申入れ
① 期間満了による更新拒絶(存続期間の定めあり)
建物賃貸借契約の期間満了の1年前から6月前までの間に、相手方に対して更新拒絶の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます。ただし、存続期間は定めのないものとなります(借地借家26条1項)。
賃貸人からの更新拒絶には、正当事由が必要です(借地借家28条)。これに対し、賃借人からの更新拒絶には、正当事由は不要です。
なお、存続期間の定めがあるときは、契約中に解約の申入れがなければ、建物賃貸借契約を中途解約することはできません(民618条参照)。存続期間中に契約の更新がされず、中途解約の申入れができないときは、賃貸借契約とみなされることがあります。例えば、新型コロナウイルスの感染拡大の影響などで存続期間中に事務所を移転しようとする場合には、注意が必要です。
② 解約申入れ(存続期間の定めなし)
建物賃貸借には、存続期間の定めがないとき(法定更新されたときを含む)は、いつでも解約の申入れをすることができます。建物賃貸借契約は、申入れの日から3ヶ月が経過することによって終了します(民617条1項2号)。
一方、建物賃貸人が、存続期間の定めのない場合に解約の申入れをしたときは、建物賃貸借契約は、申入れの日から6ヶ月を経過することによって終了します(借地借家27条1項)。もっとも、解約申入れには、正当事由が必要です(借地借家28条)。
2 正当事由
(1) 正当事由の判断
建物賃貸借契約及び賃借人が契約の更新拒絶や解約申入れをするには、上記のとおり、正当事由が必要です(借地借家6条、28条)。
正当事由の有無は、借地権の場合、①借地権設定者及び借地権者が土地の使用を必要とする事情、②借地に関する従前の経過、③土地の利用状況、④借地権設定者が借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をしたことから判断します。
一方、建物の賃貸借契約の場合、①建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情、②建物の賃貸借に関する従前の経過、③建物の利用状況、④建物の現況、⑤建物の賃貸人が建物の賃貸借人に対して給付をする旨の申出をしたことから、正当事由の有無を判断します。
(2) 立退料
立退料を支払うことは、正当事由を補完する役割を果たします。あくまでも補完する役割なので、高額の立退料を申し出ても、正当事由が否定されることがあります。
立退料の算定にあたって客観的な計算方法はありますが、②退去に伴うその他の実質的なものとされています。
まず、消滅する借家権または営業権の価格といったものではありません。
2つ目は、居住権及び営業権の価格に対する補償という性質です。居住していた場合は、精神的な苦痛に対する慰謝料、事業としての店舗であれば、休業損害と補償です。
3つ目は、移転費用の補償という性質です。移転先に対して支払う敷金や賃料増加分を補償することもあります。
(3) 立退料の課税関係
個人が、事業所得または確立して立退料を受け取った場合、所得税法上の各所得の収入金額になります。所得の分類は下記のとおりです。
まず、消滅によって消滅する権利の補償としての性格を有する立退料は、譲渡所得となります。冒頭の税理士試験の「家屋の明渡しによって消滅する借家権の対価の額に相当する金額」150万円は、譲渡所得となります。
次に、収益または必要経費の補填としての性格を有する立退料は、事業所得等となります。本節の冒頭で紹介した税理士試験の「店の休業による収入金額を補填する金額」300万円、「店の休業期間中に支払う使用人の給与等の必要経費を補填する金額」200万円及び「新店舗の敷金及び設備造作費用等を補填する金額」850万円は事業所得となります。
上記以外の性格を有する立退料は、一時所得となります。
COLUMN 4 建物買取請求権・造作買取請求権
[1] 借地の場合
存続期間の満了に際し、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物を買い取ることを請求できます(借地借家13条)。
建物買取請求権は形成権であり、借地権者の一方的意思表示により、売買契約が成立したのと同一の法的効果が生じます。強行法規であり、特約で建物買取請求権を排除することはできません(借地借家16条)。
[2] 借家の場合
建物賃貸借は、賃貸人の同意を得て建物に付加した造作がある場合には、借家人は、建物賃貸借が期間満了または解約申入れによって終了するときに、賃貸人に対し、その造作を時価で買い取るべきことを請求できます(借地借家33条。2-3⇒157頁)。
造作買取請求権も形成権です。任意法規であり、特約で造作買取請求権を排除することができます。
COLUMN 5 定期建物賃貸借
更新のない建物賃貸借として、定期建物賃貸借があります(借地借家38条1項)。賃貸人が貸しやすすることで、優良な供給を促進させることを目的としています。なお、更新のない借地権として、定期借地権(借地借家22条)があります。
定期建物賃貸借の要件は、①建物賃貸借契約に期間を定めること、②契約更新がないとの特約をすること、③契約を公正証書などの書面で行うこと、④契約前に契約更新がないことを記した書面を賃借人に交付して説明をすることです。
COLUMN 6 サブリースと更新拒絶などの正当事由
賃貸人である建物所有者が、維持管理費が増加し固定資産税も高騰したことなどを理由として、不動産を売却しようと考え、そのために賃貸借契約を更新拒絶または解約しようとしても、賃借人であるサブリース業者が正当事由(借地借家28条)がないことを理由として応じないというケースが数多く生じています(1-7P57頁)。
POINT 1
借地借家法には、契約の法定更新制度が設けられている。
借地権設定者及び建物賃貸人が契約の更新拒絶や解約申入れをするには、正当事由が必要である。
立退料を支払うことは、正当事由を補完する役割を果たす。