財産分与|夫婦どちらのものか?
2025年11月19日
書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識
著者名: 森 章太, 出版社名: 日本実業出版社, 発行年月日: 2022年4月1日, 引用ページ: 不明, ISBNコード: 978-4-534-05917-8
日本の生涯未婚率は、令和元(2019)年において20代は96%となっており、ほぼ生涯未婚となっています(厚生労働省「人口動態調査」)。なお、同年の婚姻は58万807組です。
会社経営者が離婚する場合、その有する会社株式が財産分与の対象となることがあります。また、不動産などを財産分与する場合には譲渡関係が問題となります。
本節では、財産分与(民法)について解説します。
1 財産分与とは?
財産分与とは、離婚の際に、財産名義を有する配偶者から他方配偶者へ財産を分与することをいいます(民768条1項)。
民法768条(財産分与)
1項 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2項 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から2年を経過したときは、この限りでない。
3項 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
2 3つの性質
財産分与には、3つの性質があります。
まず、婚姻中に自己の名で取得した財産は、その者に単独で帰属するとされていますが(民762条1項)、夫婦別産制)、配偶者の貢献を考慮して、実質上共同の財産として清算・分配を行うという性質です(清算的財産分与)。この清算的財産分与が財産分与の中心となります。
2つ目は、配偶者の片方が離婚によって離婚を余儀なくされたという精神的苦痛に対する慰謝料という性質です(慰謝料的財産分与)。離婚原因(例.不貞行為)など慰謝料を請求することができる。また、財産分与の中に含めずに、不法行為による損害賠償請求(1-9⇒69頁)として離婚慰謝料を請求することもできます。
3つ目は、配偶者の離婚後の生計の維持を図るという性質です(扶養的財産分与)。清算的財産分与や慰謝料的財産分与があっても、生活に困る場合に認められる補充的なものです。
3 清算的財産分与
(1) 清算の対象
清算的財産分与は、夫婦の協力によって婚姻時から別居時までの間に取得した財産です。婚姻前から有していた財産や婚姻中に相続・贈与により取得した財産は、清算の対象になりません。
自己が不動産や預貯金などだけでなく、将来支給される(元夫側の)退職金も、住居ローンなどの負債も対象において考慮されます。もっとも、夫婦間で負担割合についても考慮し、金融機関などの債権者が同意しない限りは、債権者に対しては効力を有しません。
なお、財産分与は、第三者の詐欺の制度です。
(2) 株式などの取扱い
夫婦の一方が有する株式は、清算の対象となることがありますが、その株式を発行する法人が所有する財産は、原則として清算の対象にはなりません。ただし、例外的に、法人の実態が個人事業であり、法人の財産を配偶者の財産として評価できるときは、法人が所有する財産を清算の対象にすることがあります。
また、夫婦の一方が婚姻前から有していた株式は、たとえ夫婦の婚姻期間中に協力してその株式を発行する法人を成長させ、株式価値を増加させたとしても、原則として清算の対象にはなりません。法人を成長させたことについては、株式を保有しない配偶者も法人から報酬を受け取るか、または株式を保有する本人が法人から受け取る報酬(の残余)を財産分与の対象とすることによって解決されるべきだからです。
(3) 清算の割合
原則として、清算対象財産の半分(1/2)を請求することができます。
4 財産分与請求権の消滅期間
離婚時から2年経過すると、財産分与請求権を行使することができなくなります(民768条2項但書。除斥期間)。
ただし、協議については、財産分与には含めずに、不法行為による損害賠償請求により請求する場合には、離婚時から3年間行使しないと時効によって消滅します(民724条。消滅時効)。
5 財産分与の課税関係
(1) 財産分与をした者
財産分与をした場合は、慰謝料を分与した場合に課税されませんが、不動産などを分与した場合には、資産の譲渡として所得(譲渡所得)が課されます(所基通33-4)。
なお、清算的財産分与に該当する部分は、財産を取得した者の潜在的な持分が現実化しただけなので、譲渡にはあたらず、課税すべきではないという見解があります。財産分与に該当する部分は、離婚という個人的事情によるものであり、分与した者は課税されるべきではないという見解があります。
(2) 財産分与を受けた者
財産分与を受けた者は、原則として贈与税が課されません(相基通9-8)。
慰謝料的財産分与に該当する部分は、損害賠償金として、所得税は非課税となります(所税9条1項18号、所令30条。1-9⇒71頁)。
扶養的財産分与に該当する部分は、扶養義務者ではなくなる者相互間において、所得税または贈与税が課されるとも考えられますが、実務においては、原則として課税されません。
COLUMN 財産分与と詐害行為取消権
債務に不足して、通常の財産分与を超える部分については、民法768条3項の規定の趣旨に反して不当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為(4-2⇒291頁)には該当しません。特段の事情があるときは、不相当に過大な部分について、その限度において詐害行為として取り消されます。
また、離婚に伴う慰謝料支払いの合意は、発生した損害賠償債務の履行を確保し、離婚を確定しての支払いを約する行為であって、新たに創設的に債務を負担するものではないので、詐害行為とはなりません。ただし、満たすべき損害賠償債務の額を超えた金額の慰謝料支払いの合意がされたときは、その超えた部分については、慰謝料支払いの名のを借りた金銭の贈与契約ないし対価を欠いた新たな債務負担行為なので、詐害行為に該当し、取消しの対象になります。
POINT 1
財産分与とは、離婚の際に、財産名義を有する配偶者から他方配偶者へ財産を分与することをいう。
財産分与には、清算的財産分与、慰謝料的財産分与及び扶養的財産分与の3つの性質がある。
清算の対象となるのは、夫婦の協力によって婚姻時から別居時までの間に取得した財産である。
原則として、清算対象財産の半分(1/2)を請求することができる。
財産分与請求権は、離婚時から2年経過すると行使できなくなる。
会社経営者が離婚する場合、その有する会社株式が財産分与の対象となることがあります。また、不動産などを財産分与する場合には譲渡関係が問題となります。
本節では、財産分与(民法)について解説します。
1 財産分与とは?
財産分与とは、離婚の際に、財産名義を有する配偶者から他方配偶者へ財産を分与することをいいます(民768条1項)。
民法768条(財産分与)
1項 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2項 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から2年を経過したときは、この限りでない。
3項 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
2 3つの性質
財産分与には、3つの性質があります。
まず、婚姻中に自己の名で取得した財産は、その者に単独で帰属するとされていますが(民762条1項)、夫婦別産制)、配偶者の貢献を考慮して、実質上共同の財産として清算・分配を行うという性質です(清算的財産分与)。この清算的財産分与が財産分与の中心となります。
2つ目は、配偶者の片方が離婚によって離婚を余儀なくされたという精神的苦痛に対する慰謝料という性質です(慰謝料的財産分与)。離婚原因(例.不貞行為)など慰謝料を請求することができる。また、財産分与の中に含めずに、不法行為による損害賠償請求(1-9⇒69頁)として離婚慰謝料を請求することもできます。
3つ目は、配偶者の離婚後の生計の維持を図るという性質です(扶養的財産分与)。清算的財産分与や慰謝料的財産分与があっても、生活に困る場合に認められる補充的なものです。
3 清算的財産分与
(1) 清算の対象
清算的財産分与は、夫婦の協力によって婚姻時から別居時までの間に取得した財産です。婚姻前から有していた財産や婚姻中に相続・贈与により取得した財産は、清算の対象になりません。
自己が不動産や預貯金などだけでなく、将来支給される(元夫側の)退職金も、住居ローンなどの負債も対象において考慮されます。もっとも、夫婦間で負担割合についても考慮し、金融機関などの債権者が同意しない限りは、債権者に対しては効力を有しません。
なお、財産分与は、第三者の詐欺の制度です。
(2) 株式などの取扱い
夫婦の一方が有する株式は、清算の対象となることがありますが、その株式を発行する法人が所有する財産は、原則として清算の対象にはなりません。ただし、例外的に、法人の実態が個人事業であり、法人の財産を配偶者の財産として評価できるときは、法人が所有する財産を清算の対象にすることがあります。
また、夫婦の一方が婚姻前から有していた株式は、たとえ夫婦の婚姻期間中に協力してその株式を発行する法人を成長させ、株式価値を増加させたとしても、原則として清算の対象にはなりません。法人を成長させたことについては、株式を保有しない配偶者も法人から報酬を受け取るか、または株式を保有する本人が法人から受け取る報酬(の残余)を財産分与の対象とすることによって解決されるべきだからです。
(3) 清算の割合
原則として、清算対象財産の半分(1/2)を請求することができます。
4 財産分与請求権の消滅期間
離婚時から2年経過すると、財産分与請求権を行使することができなくなります(民768条2項但書。除斥期間)。
ただし、協議については、財産分与には含めずに、不法行為による損害賠償請求により請求する場合には、離婚時から3年間行使しないと時効によって消滅します(民724条。消滅時効)。
5 財産分与の課税関係
(1) 財産分与をした者
財産分与をした場合は、慰謝料を分与した場合に課税されませんが、不動産などを分与した場合には、資産の譲渡として所得(譲渡所得)が課されます(所基通33-4)。
なお、清算的財産分与に該当する部分は、財産を取得した者の潜在的な持分が現実化しただけなので、譲渡にはあたらず、課税すべきではないという見解があります。財産分与に該当する部分は、離婚という個人的事情によるものであり、分与した者は課税されるべきではないという見解があります。
(2) 財産分与を受けた者
財産分与を受けた者は、原則として贈与税が課されません(相基通9-8)。
慰謝料的財産分与に該当する部分は、損害賠償金として、所得税は非課税となります(所税9条1項18号、所令30条。1-9⇒71頁)。
扶養的財産分与に該当する部分は、扶養義務者ではなくなる者相互間において、所得税または贈与税が課されるとも考えられますが、実務においては、原則として課税されません。
COLUMN 財産分与と詐害行為取消権
債務に不足して、通常の財産分与を超える部分については、民法768条3項の規定の趣旨に反して不当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為(4-2⇒291頁)には該当しません。特段の事情があるときは、不相当に過大な部分について、その限度において詐害行為として取り消されます。
また、離婚に伴う慰謝料支払いの合意は、発生した損害賠償債務の履行を確保し、離婚を確定しての支払いを約する行為であって、新たに創設的に債務を負担するものではないので、詐害行為とはなりません。ただし、満たすべき損害賠償債務の額を超えた金額の慰謝料支払いの合意がされたときは、その超えた部分については、慰謝料支払いの名のを借りた金銭の贈与契約ないし対価を欠いた新たな債務負担行為なので、詐害行為に該当し、取消しの対象になります。
POINT 1
財産分与とは、離婚の際に、財産名義を有する配偶者から他方配偶者へ財産を分与することをいう。
財産分与には、清算的財産分与、慰謝料的財産分与及び扶養的財産分与の3つの性質がある。
清算の対象となるのは、夫婦の協力によって婚姻時から別居時までの間に取得した財産である。
原則として、清算対象財産の半分(1/2)を請求することができる。
財産分与請求権は、離婚時から2年経過すると行使できなくなる。