税理士の知識

養育費|子の生活費

2025年11月19日

書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識
著者名: 森 章太, 出版社名: 日本実業出版社, 発行年月日: 2022年4月1日, 引用ページ: 不明, ISBNコード: 978-4-534-05917-8

養育費の未払いが社会問題となっています。それは、日本で年間12万組の未成年の子のいる夫婦の離婚により子が直面している問題であり、約140万世帯のひとり親世帯(ひとり親家庭)で育つ子の暮らしの問題と関係します。

ひとり親世帯の貧困率は48.1%と約半数が相対的貧困の状態でという深刻な状況にあります。母子世帯において離婚した父親から現在も養育費を受けている割合は24.3%にとどまっており、養育費の未払いを十分に受けていないことが貧困の要因の1つであると指摘されています(法務省「養育費不払い解消に向けた検討会議・取りまとめ」)。

本節では、養育費(民法、民事執行法)について解説します。

1 養育費とは?

養育費とは、未成熟子(経済的・社会的に自立して生活することができない子)が生活するために必要な費用をいいます。

親は、両親の有無にかかわらず、直系尊属である子に対して扶養義務を負っているので、養育費を負担すべき義務があります。また、子との面会交流が認められないからといって、養育費の負担義務が免除されるわけではありません。

養育費は、実務では、婚姻期間中は婚姻費用(民760条)として、離婚後は子の監護費用(民877条1項、766条1項)として請求されます。

扶養の程度は、扶養義務者である親と同等の生活です。

2 養育費の算定方法

養育費の金額は、(まずは)父母が協議して決定しますが、以下のような公平(基準)になる算定方式があります。

養育費の分担義務者(非監護者)について、総収入金額から、標準的な割合で推計した公租公課や職業費などの金額を控除して、基礎収入を算定します。

控除するのではなく計画的な貯蓄に算定しますが、具体的には、基礎収入は、総収入金額に基礎収入の割合を乗じて算定します。基礎収入の割合は、総収入金額に応じて決められており、分担義務者が給与所得者の場合は38~54%、事業所得者の場合は48~61%になります。

そして、分担義務者が子と同居しているものと仮定したうえで、分担義務者の基礎収入を、分担義務者との生活費指数で按分して、子の生活費を算定します。生活費指数は、親を100とした場合、14歳以下の子が55、15歳以上の子が95とされます。

そのうえで、子の生活費を、分担義務者と分担権利者(監護者)の双方の基礎収入で按分して、分担義務者が分担権利者に対して支払うべき養育費を計算します。

◎養育費の算定方式

① 分担義務者の基礎収入
分担義務者の総収入金額×基礎収入の割合

② 子の生活費
上記①×子の生活費指数÷(100+子の生活費指数)

③ 支払うべき養育費
上記②×(上記①÷分担権利者の基礎収入)

3 養育費の算定

上記2の算定方式に基づいて算出した結果を当事者が利用しやすいようにまとめた算定表(平成30(2018)年度司法研究「養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究」に基づく算定表)と呼ばれるものがあり、実務では幅広く利用されています。

算定表は、分担義務者の総額を月額1~2万円の幅を持たせて整理し、子の人数と年齢に応じた構成となっており、分担権利者の収入金額をもとに算定します。

給与所得者の場合、「源泉徴収票」の「支払金額」が総収入金額となります。これに対し、事業所得者の場合は、所得税確定申告書等第1表の「課税される所得金額」が基礎収入となり、もっとも、「課税される所得金額」は、所得控除(例.基礎控除、青色申告特別控除)は「課税される所得金額」に加算します。基礎控除額は、事業用資産の取得費などを費用総額に応じて各年度に配分したものであり、実際にその年度に支出した経費ではないため、養育費を算定するにあたり総収入金額から減価償却費を控除すべきかどうかについてはい争いがあります。

4 養育費の分担義務の始期・終期

養育費の分担義務の不履行として請求できるのは、理論上は、子が親と同等の生活を送ることができなくなった時以降となりますが、実務上は、分担義務者に対して養育費を請求した時(または調停申立て時)以降とされています。

一方、養育費の分担義務の終期は、未成熟子を脱する時です。令和4(2022)年4月から18歳が成年となりますが(民4条)、未成熟子を脱する時期は、一般的には引き続き20歳となります。

5 養育費の課税関係

「扶養義務者相互間において扶養義務を履行するため給付される金品」は、所得税が非課税となります(所税9条1項15号)。

また、「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」は、贈与税が非課税です(相税21条の3第1項2号)。養育費は、生活費に充当されます(相基通21条の3-3)。

したがって、養育費を受け取っても、原則として課税されません。

6 分担義務者の財産の調査

(1) 養育費不払いの対応

養育費が不払いとなった場合、強制執行によって分担義務者から回収する方法があります(本節の7、1-11⇒75頁)。分担義務者の財産を特定しなければ強制執行を行うことはできません。対象が預金債権であれば、金融機関及び取扱店舗を、給与債権であれば、勤務先を特定しなければなりません。

(2) 財産開示手続

執行力のある債務名義(例.確定判決)の正本を有する金銭債権の債権者は、裁判所に対し、債務者の財産の開示に関する手続(財産開示手続)の申立てを行うことができます(民執197条1項)。

養育費の支払について執行証書(金銭の支払などを目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの)を作成した場合、債務名義を有することになりますので(民執22条5号)、分担権利者は、財産開示の申立てを行うことができます。

裁判所は、財産開示手続を実施する旨の決定が確定した場合、財産開示期日を指定し、債権者及び債務者を呼び出します(民執199条1項)。債務者は、裁判所の指定する期間までに、財産目録を提出しなければならず、また財産開示期日に出頭し、自己の財産について陳述しなければなりません(民執199条1項)。

裁判所の呼出しを受けた財産開示期日において、正当な理由なく出頭せず、または宣誓した陳述において、虚偽の陳述をした債務者であって、正当な理由なく陳述すべき事項について陳述をせず、または虚偽の陳述をしたものは、6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます(民執213条1項5号・6号)。

(3) 第三者からの情報取得

ア 概要
財産開示手続だけでは、金銭執行のための財産情報を得ることが困難であるため、裁判所が第三者(例.市区町村、銀行)に対して、債務者の不動産、給与及び預貯金に関する情報を命令する制度が新設されました。

なお、不動産に関する情報の取得手続については、説明を省略します。

イ 給与債権に関する情報の取得
債務名義に係る請求権(例.養育費に係る債権)または人の生命・身体の侵害による不法行為による損害賠償請求権についての債務名義の正本を有する債権者による申立てにより、裁判所は、市区町村または日本年金機構などに対する情報の提供を命じることができます(民執205条)。

し、債務者の給与債権に関する情報の提供を命じます(民執206条1項)。

申立書が提出されたときは、給与債権の差押えがなされると、債務者の生活が脅かされる事態となります。

上記申立ては、財産開示期日における手続が実施された場合において、期日から3年以内に限り行うことができます(民執206条2項が準用する205条2項)。債権者は、まず財産開示手続を行わなければなりません。

情報提供命令の申立てをしたときは、裁判所は、決定を債務者に送達しなければなりません(民執206条2項が準用する205条3項)。

ウ 預貯金債権などに関する情報の取得
執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者による申立てにより、裁判所は、銀行などに対し、債務者の預貯金債権などに関する情報の提供を命じます(民執207条)。銀行とは、預貯金債権の存否(存在すれば、取扱店舗)、種別、口座番号及び金額に関する情報の提供を命じなければなりません(民執207条1項)。

申立ての際には、銀行などを特定する必要がありますが、取扱店舗の特定までは不要です。

預金金利が低いので、金融庁のウェブサイトで、金融庁のウェブサイトで、預貯金債権の情報の提供を求めることができます。

申立書の送付の決定がなされた場合も、債務者に送達されることはありません。地方裁判所では、第三者から情報提供が提出された後、1ヵ月が過ぎた時点で、債権者に対し、情報提供命令に基づいて債務者の財産情報が提供されたのちに通知しますが(下記注)、それまでの間は、債権者は、債務者に応じず金融庁に通告を行うことができます。

第三者から情報提供がされたときは、裁判所は、申立て人に対し、債務者に対するその財産に関する情報の提供がされた旨を通知しなければなりません(民執208条2項)。

7 強制執行

(1) 差押え

養育費に係る債権による強制執行(金銭執行)については、特例が設けられており、他の債権よりも手厚く保護されています。

請求が確定の判決に係る場合には、強制執行は、その期限の到来後に限り、開始することができるのが原則であり(民執30条1項)、将来、確実に到来する分については、期限到来後に改めて手続をしなければなりません。しかしながら、養育費に係る定期金債権による強制執行に係る差押えの訴えがあるときは、確定期限が到来していないものについても、債権執行をすることができます(民執151条の2)。などによって給与を差し押さえることができます(民執151条の2)。

また、債務者の給与などを差し押さえるときは、債務者の生活保障のため、給与などの2分の1に相当する部分が差押禁止となります(1-10⇒75頁)。しかしながら、例外的に養育費に係る債権であるときは、給与などの2分の1に相当する部分が差押禁止となります(民執152条)。

原則として差し押さえる部分と3/4に相当する部分まで差押えることになり、養育費などの支払いを受けるべき者の生活を害するおそれは低いからです。

(2) 間接強制

金銭債権については、原則として、債務の内容を強制的に実現する直接強制によることになりますが、養育費に係る債権については、金銭を請求して債務者の履行が確保されるよう間接強制も認められています(民執167条の15)。

給与債権を差し押さえても回収すると、その後の勤務意欲を減退させると、配当財源が居なくなってしまい、退職してしまい、養育費の回収ができなくなるおそれがある場合にも、間接強制は有効となります。

COLUMN 弁護士会照会

[1] 弁護士会照会とは?

弁護士会照会を請求する方法として、個別弁護士が利用した手段である財産開示と第三者からの情報取得を解説してきましたが、弁護士会照会(弁護士法23条の2)を利用するという選択肢もあります。

弁護士会照会とは、受任している事件について、所属する弁護士会に対し、官公署または公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出て、弁護士会が、官公署などに照会して必要な事項の報告を求める制度です。照会を受けた官公署などは、正当な事由がない限り、報告義務を負いますが、強制力はありません。

弁護士会照会として、照会した事実を債務者に知られずに調査することができます。一方で、デメリットとして、1件当たり1万円程度の費用がかかります。また、守秘義務や個人情報保護義務を理由に第三者が照会に応じないことがあります。

[2] 弁護士会照会の具体的な利用

(1) 預金情報

確定判決などの債務名義があれば、弁護士会照会を利用して、金融機関に対して債務者の預金の有無・残高、取扱店舗などを照会することができます。

(2) 債務者の所在

債務者の現在の所在地がわからないものの、以前の所在地がわかる場合には、職務上請求によって住民票の交付を受け、住民票上の住所の移転を調査するという方法があります。この制度を根拠として、住民票基本台帳法3条に基づくものであり、税理士もこの制度を根拠として住民票の写しを取得することができます。

しかしながら、債務者が住民票上の住所におらず所在地不明であることもあります。そのような場合において、債務者の携帯電話番号がわかるときは、携帯電話会社に対して弁護士会照会をして、契約者(債務者)宛ての請求書または領収書の送付先を照会するという方法があります。

養育費の分担義務の終期は、未成熟子を脱する時である。一般的には20歳である。

裁判所を利用した分担義務者の財産を調査する手続として、財産開示と第三者からの情報取得がある。

養育費に係る債権について、執行力のある債務名義の正本を有する場合には、裁判所の情報取得手続により、市区町村などから債務者の勤務先情報の提供を受けることができる、財産開示手続の実施の前提が必要である。

執行力のある債務名義の正本を有する場合には、裁判所の情報取得手続により、銀行などから債務者の預金情報の提供を受けることができる。財産開示手続の実施の前は不要である。

POINT 1

養育費とは、未成熟子が生活するために必要な費用をいう。

養育費の算定方式に基づいて算出した結果を当事者が利用しやすいようにまとめた算定表(平成30年度司法研究「養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究」に基づく算定表)が、実務では幅広く利用されている。