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税理士の知識

休業手当・休業補償・付加金|休業したとき

2025年11月19日

書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識
著者名: 森 章太, 出版社名: 日本実業出版社, 発行年月日: 2022年4月1日, 引用ページ: 不明, ISBNコード: 978-4-534-05917-8

新型コロナウイルス禍の中で、休業手当や休業補償について報道される機会が多いです。

所得税法施行令20条1項2号に非課税所得として、労働基準法8章(災害補償)の規定により受ける休業補償が挙げられています。

また、所得税基本通達34-1に一時所得の例示として、「労働基準法114条(付加金の支払)の規定により支払を受ける付加金」(3)が挙げられています。

本節では、休業手当、休業補償さらに付加金(労働法)について解説します。

1 労働基準法と労働者災害補償保険法の目的

労働基準法(以下「労基法」)は、労働者の保護のために労働関係の基本原則と最低労働条件の定めを目的とした法律です。

これに対して、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」)は、業務上の事由または通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡などに対して迅速かつ公正な保護をするため必要な保険給付を行うなどして、労働者の福祉の増進に寄与することを目的とした法律です。

2 休業手当

(1) 休業手当とは?

使用者の責に帰すべき事由(帰責事由)による休業の場合には、使用者は、休業期間中、労働者に対し、平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければなりません(労基法26条)。労働者の最低生活を保障するためです。

(2) 使用者の帰責事由

労基法26条の休業手当における使用者の帰責事由は、民法536条2項の危険負担(本節のCOLUMN 2)の帰責事由よりも範囲が広く、使用者側に起因する経営・管理上の障害も含まれます。このように範囲を広くすることによって、労働者の保護が図られています。

具体的には、機械の検査、原料の不足、監督官庁による操業停止命令による休業は、使用者に帰責事由が認められます。一方、地震や台風などの不可抗力による場合は、使用者に帰責事由は認められません。

(3) 休業手当請求権の消滅時効

休業手当の請求権は、行使することができる時から5年間(当分の間3年間)行わないと時効によって消滅します(労基法115条、143条3項、3-2⇒171頁)。

(4) 休業手当の所得課税

休業手当は、給与所得として所得税が課されます。

3 付加金

(1) 付加金とは?

使用者が、休業手当や時間外労働の割増賃金などの支払義務に違反した場合には、裁判所は、労働者の請求により、使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払いを命じることができます(労基法114条)。使用者に労基法上の規制を遵守させるため懲罰しさせるという民事制裁です。

(2) 付加金の発生

裁判所は、使用者に労基法に違反する故意・過失、労働者の不利益の性質・内容などを勘案して制裁として付加金の支払を命ずるか否及び額を決定します。

付加金の支払義務は、裁判所の命令によって初めて発生するので、裁判所がこれに命じる命令に違反して未払賃金を支払えば、裁判所は付加金の支払いを命じることはできなくなります。

付加金の請求は、違反のあった時から5年(当分の間3年)以内にしなければなりません(同条但書、143条3項)。

(3) 付加金の課税関係

付加金は、一時所得として所得税が課されます。

4 休業補償

(1) 労働災害

労働者が業務上、死亡、負傷、疾病を被った場合、使用者に対して不法行為による損害賠償請求をすることができます(民709条)。しかしながら、損害賠償請求するには、使用者の故意または過失、因果関係、損害の立証が必要となり(1-9⇒69頁)、労働者には負担となります。また、使用者に資力がない場合、労働者は損害賠償を受けられないおそれがあります。

そこで、使用者の無過失責任及び補償の定型化を特徴とする①労基法上の災害補償制度と、使用者の費用の有無にかかわりなく②労災保険給付が政府からの労災保険制度を特徴とする②労災保険法に基づく労災保険制度が設けられています。

もっとも、②による給付内容が①による補償内容を大幅に上回っており、実際には、①が適用される余地はほとんどなくなっています。①が適用されるのは、下記(2)アとイなどです。

(2) 休業補償

ア 休業の最初の3日間
労働者が業務上負傷し、または疾病にかかったことによる療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合には、使用者は、労働者の療養中、平均賃金の60%の休業補償を行わなければなりません(労基法76条)。

イ 休業の4日目以降
労働者には、上記の事由による療養のための休業の4日目以降、平均賃金の80%(休業特別支給金を含む)の休業補償給付が労災保険から支給されます(労災保険法14条など)。

(3) 休業補償請求権の消滅時効

休業補償の請求権は、行使することができる時から2年間経過した場合は、時効によって消滅します(労基法115条、労災保険法42条1項)。

(4) 休業補償の課税関係

休業補償の給付は、所得税の非課税所得となります。

COLUMN 1 コロナ禍の休業手当と労災補償

[1] 休業手当

新型コロナウイルス禍における政府の緊急事態宣言などにより休業した場合に、使用者の帰責事由によるものとして休業手当の支払義務があるのかが問題となっています。

パートやアルバイトといったシフト制労働者に休業手当が支払われない、休業日数も含めた日数に対して割増した平均賃金の60%を下回る、休業手当の支払いの実態が問題となっています。

なお、政府は、休業手当の支払義務が法的になくても、雇用調整助成金を利用して支払ってほしいと呼びかけています。

[2] 労災補償

新型コロナウイルスに感染したことによる労災支給が、令和3(2021)年12月末時点で約2万人となっています。全体の約7割が医療従事者等です(厚生労働省)。

なお、同じ感染症でも、インフルエンザは業務中に感染したかどうかの判断が難しいため、一般的には労災補償の対象にはならないとされています。

COLUMN 2 免責

危険負担とは、双務契約(売買契約のように当事者双方が対価関係にある債務を負担する契約)において、一方の債務が履行不能である場合に、債権者が反対債務の履行を拒絶することができるかどうかについてのことです。例えば、売買契約の目的物の引渡が不能な場合に、買主(債権者)は売買代金(反対債務)を売主(債務者)に支払わなければならないかということです。

一方の債務の履行が不能である場合、債権者は、原則として、債務者からの反対債務の履行請求を拒むことができます(民536条1項)。

ただし、債権者の反対債務の履行が不能な場合は、債権者は、債務者の反対債務の履行を拒むことができません(同条2項本文)。例えば、請負契約において、注文者が自ら仕事を完成させたときは、債権者の故意過失によって債務が履行不能となったといえます。

労働に従事しなければ賃金を得られないというノーワーク・ノーペイの原則があるところ、使用者の帰責事由によって労働が不能となったときは、労働者は、この民法536条2項によって、賃金(100%)を請求することができます。労働者の休業手当を請求するよう求めます。

民法536条(債務者の危険負担等)

1項 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2項 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

POINT 1

使用者の帰責事由による休業の場合には、使用者は、休業期間中、労働者に対し、平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければならない。

使用者が、休業手当などの支払義務に違反した場合には、裁判所は、労働者の請求により、使用者が支払わなければならない金額のほか、これと同一額の付加金の支払いを命じることができる。

使用者の無過失責任及び補償の定型化を特徴とする労基法上の災害補償制度と、使用者の費用の有無にかかわらず政府からの労災保険給付を特徴とする労災保険法に基づく労災保険制度が設けられている。

労働者が業務上負傷し、または疾病にかかったことによる療養のため、賃金を受けない休業の最初の3日間は、使用者は、平均賃金の60%の休業補償をしなければならない。休業の4日目以降、労働者には、平均賃金の80%の休業補償給付が労災保険から支給される。