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税理士の知識

製造物責任|~物を造りし者たちの責任~

2025年11月19日

書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識
著者名: 森 章太, 出版社名: 日本実業出版社, 発行年月日: 2022年4月1日, 引用ページ: 不明, ISBNコード: 978-4-534-05917-8

平成27(2015)年度税理士試験の法人税法の計算問題では、事業譲渡により引き継いだ負債として、「製造者(ママ)責任を問われる訴訟が提起されており、原告らと鋭意折衝し、800万円程度の損害賠償をする方向で話が進んでいる」と記述されています。
本節では、製造物責任(製造物責任法)について解説します。

1 製造物責任とは?

製造物の欠陥によって権利侵害が生じた場合、被害者は、売主に対して債務不履行による損害賠償請求(1-9P69頁)をすることが考えられますが、売主の責めに帰することができない事由によるものであるときは、請求は認められません。売主が販売店にすぎない場合、製造物の欠陥について売主の帰責事由を認めることが困難なことがあります。
そこで、被害者は、契約関係にない製造業者に対して損害賠償請求をすることが考えられます。請求根拠として民法の不法行為(1-9P69頁)による外に、民法の特別法である製造物責任法によって損害賠償請求をすることができます。製造物責任法によるほうが、製造業者に欠陥について故意または過失があったことが要件とされていないため(無過失責任)、一般的に被害者にとって有利です。

製造物責任法3条(製造物責任)
製造業者等は、その製造、加工、輸入又は前条第2号若しくは3号イの氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が当該製造物についてのみ生じたときは、この限りでない。

2 製造物責任の要件

製造物責任の要件は、下記のとおりです。
まず、製造物であることです。製造または加工された動産(製造2条1項)が対象であり、不動産や無体物(例.ソフトウェア)、加工されていない自然産物(例.未洗濯の野菜)や役務の提供は対象外です。
次に、当該製造物に欠陥があることです。欠陥とは、「当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていること」です(同条2項)。欠陥は、製造物の引渡時(出荷時)に存在することが必要です。
さらに、欠陥による損害の発生です。損害がその製造物についてのみ生じ、拡大損害(健康被害や火災などによる他の財産への被害)が生じなかったときは、製造物責任による賠償の対象とはなりません。製造物についてのみの損害が生じたときは、売主との間で解決されることになります。一方で、拡大損害が発生すれば、製造物自体の損害も含めて賠償の対象になります。
そして、請求の相手方は、製造業者だけでなく、輸入業者や製造物への氏名などの表示者なども含まれます。製造業者は一般的に除外されます。

○製造物責任の要件
① 製造業者等が製造した製造物に欠陥があること
② 人の生命、身体または財産に係る損害
③ 損害の発生
④ ①と②及び③間の因果関係

3 製造業者等からの抗弁

製造業者等からの製造物責任に特有の抗弁(反論)として、開発危険の抗弁(製造4条1項1号)があります。
開発危険の抗弁とは、製造業者などが引渡時における科学技術に関する知見によっては、製造物に欠陥があることを認識することができなかったという主張です。引渡時において入手可能な科学技術の最高水準の知見を基準として認識できたか否かが判断されます。この抗弁が認められるときは、製造業者等は免責されます。

4 製造物責任法による損害賠償請求権の消滅時効

製造物責任法による損害賠償請求権は、被害者が損害賠償義務者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅します(製造5条1項1号)。人の生命または身体を侵害したときは、3年間が5年間に伸長されます(同条2項)。
また、製造業者などが製造物を引き渡した時から10年間が経過したときも、時効によって消滅します(同条1項2号)。客観的または起算日は発売開始時です(同条3項)。
この消滅時効の特例として、10年間の起算点が、原則として不法行為時ではなく引渡時となっています。また、10年間というのは、民法の不法行為20年間(民724条)よりも短縮です(1-9P68頁)。したがって、製造物責任法によっては損害賠償請求できないが、民法の不法行為によれば損害賠償請求できる場合もあります。

POINT
製造物責任による損害賠償請求の要件は、①製造業者等が製造した製造物の欠陥、②人の生命、身体または財産に係る損害、③損害の発生、④①と②③との間の因果関係である。

製造業者等に欠陥について故意または過失があったことは、要件とされていない(無過失責任)。

民法の不法行為とは異なる消滅時効制度がある。