株式の相続と譲渡制限|株主が死亡したら?
2025年11月19日
書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識
著者名: 森 章太, 出版社名: 日本実業出版社, 発行年月日: 2022年4月1日, 引用ページ: 不明, ISBNコード: 978-4-534-05917-8
株主に相続が発生し、遺産分割がなされるまでの間、相続人はどのようにして株主としての権利を行使できるのでしょうか。また、株式を相続した相続人が、第三者に対して株式を売却して資金化しようとする場合には、どのような手続が必要となるのでしょうか。
本書では、株式の相続と譲渡制限(会社法)について解説します。
1 株式の相続
(1) 株式の共有
株主に相続が発生し、相続人が複数いるときは、遺産分割がなされるまでの間、相続人が株式を法定相続分に応じて共有(準共有)することになります(民898条、899条)。
民法は、数人で所有権以外の財産権を有する場合は準共有になるとしますが(264条、3-4P175頁)、会社法は、「株式の共有」と規定しています。
(2) 株式の共有者の権利行使
株式の共有者は、権利行使者1人を定め、会社に対し、権利行使者の氏名または名称を通知しなければ、議決権などの権利を行使することができません(会社106条本文)。会社が円滑に処理できるようにするためです。
ただし、会社が同意した場合には、株式の共有者は、権利行使者の指定・通知をしなくても、(民法の共有の規定(251条、252条)によって)権利を行使することができます(会社106条但書)。
権利行使者は、共有者の持分割合の過半数による多数決で指定されます(民252条本文)。共有者全員の一致は不要です。
権利行使者は、自己の判断で権利を行使することができ、共有者内部の合意内容に反しても有効です(判例)。
2 株式の譲渡
(1) 譲渡自由の原則
株主は、その有する株式を自由に譲渡することができます(会社法127条)。株主は、投下した資本を会社から直接回収する(出資の返還を求める)ことができないため、株式譲渡によって投下資本の回収を図ります。
(2) 定款による譲渡制限
会社は、譲渡による株式の取得について会社の承認を要すると定款で定めることができます(会社法107条1項1号)。会社にとって好ましくない者が株主になることを阻止するための定めであり、定款による株式の譲渡制限の定めは、非上場会社において広く設けられています。
定款に株式譲渡の制限規定が登記されて初めて(会社法911条3項7号)、会社の全部事項証明書などで外部での有無を確認できます。
株式譲渡のうち株主間のものなどについては、会社が承認したものとみなすと定款で定めて(会社法107条2項1号ロ)、承認手続を不要とすることもできます。
3 譲渡承認手続
譲渡による株式の取得について会社の承認を要する旨の定めを設けている株式を「譲渡制限株式」といいます(会社法2条17号)。
譲渡制限株式を他人に譲り渡そうとする者は、会社に承認するか否かの決定をすることを請求することができます(会社法136条)。併せて、会社が承認しない場合は会社または会社の指定買取人が買い取ることを請求することができます(会社法138条1号ハ)。
譲渡承認請求を受けた会社は、原則として、株主総会(取締役会設置会社にあっては取締役会)の決議によって、承認するか否かを決定します(会社法139条1項)。承認請求の日から2週間以内に承認するか否かの決定を承認請求者に通知しなかったときは、会社は譲渡を承認したものとみなされます(会社法145条1号)。
譲渡承認をしない場合は買い取ることを請求された場合において、承認をしない決定をしたときは、会社は自ら買い取るか、承認をしない株式の買受人を指定しなければなりません(会社法140条1項、4項)。
会社が株式を買い取るときは、承認請求者に買取りの通知をしなければなりません(会社法140条1項)。譲渡承認しない旨の通知から10日以内に通知しないと(指定買取人が40日以内に買取りの通知をした場合を除く)、会社は譲渡承認をしたものとみなされます(会社法145条2号)。40日間の猶予があるのは、会社が買い取るときは、株主総会の特別決議が必要となるからです(会社法139条2項、309条2項2号)。会社に重い買い取り負担が、他の株主が予期せざるおそれがあるため、承認請求者は、原則として、株主総会において議決権を行使することができません(会社法140条3項本文)。
会社が買取を決定するときは、原則として、株主総会(取締役会設置会社にあっては取締役会)の決議によらなければなりません(会社法140条5項)。そして、会社による譲渡承認しない旨の通知日から10日以内に、指定買取人は、買取りの通知をしなければなりません(会社法141条1項、145条2号)。
会社または指定買取人が買取りの通知をしようとするときは、1株当たりの純資産価額に買取株式数を乗じて計算した金額を会社の帳簿(1-5p参照)し、承認請求者に供託を証する書面を交付しなければなりません(会社法141条2項、144条2項)。
会社または指定買取人が買取りの通知をしたときは、承認請求者との間で、売買価格を定めずに売買契約が成立します(会社法142条)。売買価格は協議によって定めますが(会社法144条1項・7項)、買取りの通知から20日以内に、裁判所に対し、売買価格の決定の申立てをすれば(同条2項)、裁判所が売買価格(本節のCOLUMNを参照)を決定します(同条4項・7項)。20日以内に申立てがないときは、1株当たりの純資産価額に買取株式数を乗じて算出した金額(供託額)が売買価格になります(同条5項・7項)。
4 相続人に対する株式売渡し請求
相続人が譲渡制限株式を相続するときは、会社における譲渡承認手続は不要です。なぜなら、相続や合併などの一般承継(前主の包括的な地位の一切の承継)は、譲渡ではなく、譲渡制限が適用されないからです。
一般承継により株式を取得した者を株主から排除したいと考える会社は、定款に定めることによって、会社に株式を売り渡すことを請求し、強制的に買い取ることができます(会社法174~177条)。会社の請求により売買契約が成立します。
会社は、株式売渡し請求をしようとする都度、株主総会の特別決議を行う必要があります(会社175条1項、309条2項3号)。売渡し請求の対象となった株主は、原則として、株主総会において議決権を行使することができません(会社175条2項)。筆頭株主に相続が発生した場合に、筆頭株主の相続人は、株主総会において議決権を行使することができず、株式売渡し請求の決議が可決され、株主から排除されてしまうというリスクがあるため、定款に定めることには注意が必要です。
株式売渡しの請求があった場合には、売買価格は協議によって定めます(会社177条1項)。売渡し請求があった日から20日以内に裁判所に対し、売買価格の決定の申立てをすれば(同条2項)、裁判所が売買価格(本節のCOLUMN)を決定します(同条4項)。20日以内に申立てがないときは、売渡し請求は効力を失います(同条5項)。
COLUMN 株式の売買価格
裁判所では、下記の複数の評価方式を併用して、株式の売買価格(株価)を評価することが多いです。
評価方式の1つ目は、「DCF(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー)法」です。評価対象会社の事業から得られる予測期間中のフリー・キャッシュ・フローと予測期間以降の継続価値の合計額を、現在価値に割り引いたものが事業価値です。この事業価値に、事業目的に使用されていない会社資産(例、遊休不動産)を加算し有利子負債を控除することによって、株主価値を算定します。
2つ目は、「配当還元法」です。評価対象会社の将来の1株当たりの配当額を予想し、それを資本コスト(投資家の期待する利回り)で割り引いて、現在価値に直した評価額をもって、1株当たりの株式価値を算出します。
3つ目は、「類似会社比準法」です。評価対象会社と事業内容などが類似する上場会社を比較会社として抽出し、比較会社の財務指標と株価の関係から倍率を算出し、評価対象会社の財務指標にその倍率を乗じることにより事業価値を算出します。
この事業価値に、事業目的に使用されていない会社資産を加算し、有利子負債を控除することによって、株主価値を算定します。そして、株主価値を株数で除すことによって1株当たりの株式価値を算出します。
4つ目は、「純資産法」です。評価対象会社の1株当たりの純資産価額を株式価値とする方式です。
POINT 1
株主に相続が発生し、相続人が複数いるときは、遺産分割がなされるまでの間、相続人が株式を法定相続分に応じて共有(準共有)する。
株式の共有者は、権利行使者を1人定め、会社に対し、権利行使者の氏名または名称を通知しなければ、議決権などの権利を行使することができない。
株主は、その有する株式を自由に譲渡することができる。
会社は、譲渡による株式の取得について会社の承認を要すると定款で定めることができる。
一般承継により株式を取得した者を株主から排除したいと考える会社は、定款に定めることによって、会社に株式を売り渡すことを請求し、強制的に買い取ることができる。
本書では、株式の相続と譲渡制限(会社法)について解説します。
1 株式の相続
(1) 株式の共有
株主に相続が発生し、相続人が複数いるときは、遺産分割がなされるまでの間、相続人が株式を法定相続分に応じて共有(準共有)することになります(民898条、899条)。
民法は、数人で所有権以外の財産権を有する場合は準共有になるとしますが(264条、3-4P175頁)、会社法は、「株式の共有」と規定しています。
(2) 株式の共有者の権利行使
株式の共有者は、権利行使者1人を定め、会社に対し、権利行使者の氏名または名称を通知しなければ、議決権などの権利を行使することができません(会社106条本文)。会社が円滑に処理できるようにするためです。
ただし、会社が同意した場合には、株式の共有者は、権利行使者の指定・通知をしなくても、(民法の共有の規定(251条、252条)によって)権利を行使することができます(会社106条但書)。
権利行使者は、共有者の持分割合の過半数による多数決で指定されます(民252条本文)。共有者全員の一致は不要です。
権利行使者は、自己の判断で権利を行使することができ、共有者内部の合意内容に反しても有効です(判例)。
2 株式の譲渡
(1) 譲渡自由の原則
株主は、その有する株式を自由に譲渡することができます(会社法127条)。株主は、投下した資本を会社から直接回収する(出資の返還を求める)ことができないため、株式譲渡によって投下資本の回収を図ります。
(2) 定款による譲渡制限
会社は、譲渡による株式の取得について会社の承認を要すると定款で定めることができます(会社法107条1項1号)。会社にとって好ましくない者が株主になることを阻止するための定めであり、定款による株式の譲渡制限の定めは、非上場会社において広く設けられています。
定款に株式譲渡の制限規定が登記されて初めて(会社法911条3項7号)、会社の全部事項証明書などで外部での有無を確認できます。
株式譲渡のうち株主間のものなどについては、会社が承認したものとみなすと定款で定めて(会社法107条2項1号ロ)、承認手続を不要とすることもできます。
3 譲渡承認手続
譲渡による株式の取得について会社の承認を要する旨の定めを設けている株式を「譲渡制限株式」といいます(会社法2条17号)。
譲渡制限株式を他人に譲り渡そうとする者は、会社に承認するか否かの決定をすることを請求することができます(会社法136条)。併せて、会社が承認しない場合は会社または会社の指定買取人が買い取ることを請求することができます(会社法138条1号ハ)。
譲渡承認請求を受けた会社は、原則として、株主総会(取締役会設置会社にあっては取締役会)の決議によって、承認するか否かを決定します(会社法139条1項)。承認請求の日から2週間以内に承認するか否かの決定を承認請求者に通知しなかったときは、会社は譲渡を承認したものとみなされます(会社法145条1号)。
譲渡承認をしない場合は買い取ることを請求された場合において、承認をしない決定をしたときは、会社は自ら買い取るか、承認をしない株式の買受人を指定しなければなりません(会社法140条1項、4項)。
会社が株式を買い取るときは、承認請求者に買取りの通知をしなければなりません(会社法140条1項)。譲渡承認しない旨の通知から10日以内に通知しないと(指定買取人が40日以内に買取りの通知をした場合を除く)、会社は譲渡承認をしたものとみなされます(会社法145条2号)。40日間の猶予があるのは、会社が買い取るときは、株主総会の特別決議が必要となるからです(会社法139条2項、309条2項2号)。会社に重い買い取り負担が、他の株主が予期せざるおそれがあるため、承認請求者は、原則として、株主総会において議決権を行使することができません(会社法140条3項本文)。
会社が買取を決定するときは、原則として、株主総会(取締役会設置会社にあっては取締役会)の決議によらなければなりません(会社法140条5項)。そして、会社による譲渡承認しない旨の通知日から10日以内に、指定買取人は、買取りの通知をしなければなりません(会社法141条1項、145条2号)。
会社または指定買取人が買取りの通知をしようとするときは、1株当たりの純資産価額に買取株式数を乗じて計算した金額を会社の帳簿(1-5p参照)し、承認請求者に供託を証する書面を交付しなければなりません(会社法141条2項、144条2項)。
会社または指定買取人が買取りの通知をしたときは、承認請求者との間で、売買価格を定めずに売買契約が成立します(会社法142条)。売買価格は協議によって定めますが(会社法144条1項・7項)、買取りの通知から20日以内に、裁判所に対し、売買価格の決定の申立てをすれば(同条2項)、裁判所が売買価格(本節のCOLUMNを参照)を決定します(同条4項・7項)。20日以内に申立てがないときは、1株当たりの純資産価額に買取株式数を乗じて算出した金額(供託額)が売買価格になります(同条5項・7項)。
4 相続人に対する株式売渡し請求
相続人が譲渡制限株式を相続するときは、会社における譲渡承認手続は不要です。なぜなら、相続や合併などの一般承継(前主の包括的な地位の一切の承継)は、譲渡ではなく、譲渡制限が適用されないからです。
一般承継により株式を取得した者を株主から排除したいと考える会社は、定款に定めることによって、会社に株式を売り渡すことを請求し、強制的に買い取ることができます(会社法174~177条)。会社の請求により売買契約が成立します。
会社は、株式売渡し請求をしようとする都度、株主総会の特別決議を行う必要があります(会社175条1項、309条2項3号)。売渡し請求の対象となった株主は、原則として、株主総会において議決権を行使することができません(会社175条2項)。筆頭株主に相続が発生した場合に、筆頭株主の相続人は、株主総会において議決権を行使することができず、株式売渡し請求の決議が可決され、株主から排除されてしまうというリスクがあるため、定款に定めることには注意が必要です。
株式売渡しの請求があった場合には、売買価格は協議によって定めます(会社177条1項)。売渡し請求があった日から20日以内に裁判所に対し、売買価格の決定の申立てをすれば(同条2項)、裁判所が売買価格(本節のCOLUMN)を決定します(同条4項)。20日以内に申立てがないときは、売渡し請求は効力を失います(同条5項)。
COLUMN 株式の売買価格
裁判所では、下記の複数の評価方式を併用して、株式の売買価格(株価)を評価することが多いです。
評価方式の1つ目は、「DCF(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー)法」です。評価対象会社の事業から得られる予測期間中のフリー・キャッシュ・フローと予測期間以降の継続価値の合計額を、現在価値に割り引いたものが事業価値です。この事業価値に、事業目的に使用されていない会社資産(例、遊休不動産)を加算し有利子負債を控除することによって、株主価値を算定します。
2つ目は、「配当還元法」です。評価対象会社の将来の1株当たりの配当額を予想し、それを資本コスト(投資家の期待する利回り)で割り引いて、現在価値に直した評価額をもって、1株当たりの株式価値を算出します。
3つ目は、「類似会社比準法」です。評価対象会社と事業内容などが類似する上場会社を比較会社として抽出し、比較会社の財務指標と株価の関係から倍率を算出し、評価対象会社の財務指標にその倍率を乗じることにより事業価値を算出します。
この事業価値に、事業目的に使用されていない会社資産を加算し、有利子負債を控除することによって、株主価値を算定します。そして、株主価値を株数で除すことによって1株当たりの株式価値を算出します。
4つ目は、「純資産法」です。評価対象会社の1株当たりの純資産価額を株式価値とする方式です。
POINT 1
株主に相続が発生し、相続人が複数いるときは、遺産分割がなされるまでの間、相続人が株式を法定相続分に応じて共有(準共有)する。
株式の共有者は、権利行使者を1人定め、会社に対し、権利行使者の氏名または名称を通知しなければ、議決権などの権利を行使することができない。
株主は、その有する株式を自由に譲渡することができる。
会社は、譲渡による株式の取得について会社の承認を要すると定款で定めることができる。
一般承継により株式を取得した者を株主から排除したいと考える会社は、定款に定めることによって、会社に株式を売り渡すことを請求し、強制的に買い取ることができる。