失踪宣告|あなたはもう死んでいる
2025年11月19日
書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識
著者名: 森 章太, 出版社名: 日本実業出版社, 発行年月日: 2022年4月1日, 引用ページ: 不明, ISBNコード: 978-4-534-05917-8
相続税の申告期限である10ヶ月以内の起算日の基準となる「相続の開始があったことを知った日」の意義が相続税法基本通達27-4に定められています。民法30条及び31条の規定により失踪の宣告を受けた者にかかる相続人などについては、失踪宣告に関する審判の確定のあったことを知った日とされています。
本節では、失踪宣告(民法)について解説します。
1 失踪宣告とは?
失踪宣告とは、家庭裁判所の審判によって生死不明の者を死亡したものとする民法上の制度です。不在者とは、従来の住所(生活の本拠)または居所(生活しているが住所のように安定したものではない場所)を去った者のことをいいます(民22条、25条、35条1項)。
失踪宣告の種類として、普通失踪と(死亡の原因となるべき危難に遭遇した場合の)特別失踪があります。
○司法統計(令和2(2020)年度)
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| ① 失踪宣告及びその取消し | 失踪宣告 218件、その取消し 1732件 |
| ② 不在者の財産管理に関する処分(本節のCOLUMN3) | 既済総数 7648件 うち認容 6796件 |
2 失踪宣告の要件
失踪宣告の要件は、不在者の生死不明が、普通失踪の場合は生死が証明された最後の時から7年間、特別失踪の場合は危難が去った時から1年間継続して、利害関係人が家庭裁判所に失踪宣告を求める申立てをすること、家庭裁判所は、親族への調査を行い、そして官報や裁判所の掲示板に催告をします。不在者の生存を知る者から届出などがなかったときは、家庭裁判所は失踪宣告の審判をします。
なお、平成23(2011)年の東日本大震災から1年後に、特別失踪による大量の申立てがなされることが予想され、被災者の家庭裁判所は対応を検討しましたが、死亡届(本節のCOLUMN1)の要件緩和が認められたため、大量の申立てがなされることはありませんでした。
3 失踪宣告の効果
失踪宣告の審判が確定すると、失踪者は、普通失踪の場合は失踪期間(7年間)満了時に、特別失踪の場合は危難が去った時に死亡したものとみなされます(民31条)。これにより失踪者の相続が開始され、また失踪者との婚姻が解消されます。
申立人は、失踪宣告の審判が確定してから10日以内に、市区町村に対して失踪の届出をしなければなりません(戸84条)。届出により戸籍に死亡が記載されます。
4 失踪宣告の取消し
(1) 遡及効
失踪宣告は、それが事実に反することが明らかになっただけでは効力は失われません。効力を失わせるには、家庭裁判所の審判による失踪宣告の取消しが必要です(民32条)。
失踪宣告の取消しの審判が確定すると、失踪宣告ははじめからなかったことになります。相続は開始しなかったことになり、解消したはずの婚姻は存在していたことになります。
(2) 現及び効の制限
相続人が、失踪宣告により相続が発生したから承継した不動産甲を乙に対して売却した後に、Xの失踪宣告が取り消されたとします。
取消しにより失踪宣告ははじめからなかったことになりますが、YとZを保護する規定があります。
まず、YとZの双方が、Xの失踪宣告が事実に反することを知らないで売買したときは(善意)、Zは甲の所有権を失わず(同条1項2文)、Xは甲を取り戻すことができません。
また、Zが甲の所有権を取得する場合、Yは、Xに対して、売買代金相当の利得を返還しなければなりませんが、現存利益(利益がそのまま、または形を変えて残っている限度)の返還で足ります(同条2項)。
(3) 失踪宣告の取消しの課税関係
失踪宣告の取消しの審判が確定すると、失踪宣告による相続の開始により相続税申告書を提出した者は、取消しの確定を知った日の翌日から4ヶ月以内に限り、所轄税務署長に対し、更正の請求をすることができます(相税32条1項2号、相基通32-1)。
COLUMN 1 死亡届
死亡届には、診断書または検案書を添付しなければなりません。ただし、やむを得ない事由があるときには、死亡の事実を証すべき書面の添付でよいとされています(戸86条)。死亡届により、戸籍に死亡が記載されます。
東日本大震災のときは、遺体が発見されず死亡の確認が困難であった事例の相当数について、死亡届の弾力的な運用がなされました。
COLUMN 2 認定死亡
水難、火災などによって死亡した者がある場合に、その取調べをした官庁または公署が、死亡地の市町村長に対して死亡の報告をし、戸籍に死亡が記載されることを「認定死亡」といいます(戸89条)。認定死亡では、死亡は事実と推定されているので、反対の証明がなされた場合には覆されます。
あくまでも行政上の便宜的な取扱いであるため、生命の保険があるなど、認定死亡とは別に、法律行為(裁判など)を失わせる(取り消す)には家庭裁判所の審判が必要となる失踪宣告とは異なります。
COLUMN 3 不在者の財産管理
不在者に財産管理人がいない場合、家庭裁判所は、利害関係人の申立てにより、不在者自身や不在者の財産について利害関係を有する第三者の利益を保護するため、財産管理人の選任などの処分を行うことができます(民25条)。
失踪宣告とは異なり、生死が不明でない利害関係人についても、適切な管理のために特に必要があると認めるときは、国(内閣総理大臣)は、不在者財産管理人の選任を請求することができます(所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法38条)。
不在者財産管理人は、不在者の財産を管理・保存するほか、家庭裁判所の権限外行為許可を得たうえで、不在者に代わって、遺産分割や不動産売却などを行うことができます(民28条、103条)。また、不在者財産管理人は、家庭裁判所の許可により、不在者の財産から相当な報酬を受けることができます(民29条2項)。
不在者財産管理人の選任後は、不在者が生存する場合については失踪宣告の審判が確定したりすると、終了となります。
POINT 1
失踪宣告とは、家庭裁判所の審判によって生死不明の不在者を死亡したものとする制度である。
失踪宣告の要件は、不在者の生死不明が、普通失踪の場合は生死が証明された最後の時から7年間、特別失踪の場合は危難が去った時から1年間継続していることである。
失踪宣告の審判が確定すると、失踪者は、普通失踪の場合は失踪期間(7年間)満了時に、特別失踪の場合は危難が去った時に死亡したものとみなされる。
失踪宣告取消しの審判が確定すると、失踪宣告ははじめからなかったことになる。
本節では、失踪宣告(民法)について解説します。
1 失踪宣告とは?
失踪宣告とは、家庭裁判所の審判によって生死不明の者を死亡したものとする民法上の制度です。不在者とは、従来の住所(生活の本拠)または居所(生活しているが住所のように安定したものではない場所)を去った者のことをいいます(民22条、25条、35条1項)。
失踪宣告の種類として、普通失踪と(死亡の原因となるべき危難に遭遇した場合の)特別失踪があります。
○司法統計(令和2(2020)年度)
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| ① 失踪宣告及びその取消し | 失踪宣告 218件、その取消し 1732件 |
| ② 不在者の財産管理に関する処分(本節のCOLUMN3) | 既済総数 7648件 うち認容 6796件 |
2 失踪宣告の要件
失踪宣告の要件は、不在者の生死不明が、普通失踪の場合は生死が証明された最後の時から7年間、特別失踪の場合は危難が去った時から1年間継続して、利害関係人が家庭裁判所に失踪宣告を求める申立てをすること、家庭裁判所は、親族への調査を行い、そして官報や裁判所の掲示板に催告をします。不在者の生存を知る者から届出などがなかったときは、家庭裁判所は失踪宣告の審判をします。
なお、平成23(2011)年の東日本大震災から1年後に、特別失踪による大量の申立てがなされることが予想され、被災者の家庭裁判所は対応を検討しましたが、死亡届(本節のCOLUMN1)の要件緩和が認められたため、大量の申立てがなされることはありませんでした。
3 失踪宣告の効果
失踪宣告の審判が確定すると、失踪者は、普通失踪の場合は失踪期間(7年間)満了時に、特別失踪の場合は危難が去った時に死亡したものとみなされます(民31条)。これにより失踪者の相続が開始され、また失踪者との婚姻が解消されます。
申立人は、失踪宣告の審判が確定してから10日以内に、市区町村に対して失踪の届出をしなければなりません(戸84条)。届出により戸籍に死亡が記載されます。
4 失踪宣告の取消し
(1) 遡及効
失踪宣告は、それが事実に反することが明らかになっただけでは効力は失われません。効力を失わせるには、家庭裁判所の審判による失踪宣告の取消しが必要です(民32条)。
失踪宣告の取消しの審判が確定すると、失踪宣告ははじめからなかったことになります。相続は開始しなかったことになり、解消したはずの婚姻は存在していたことになります。
(2) 現及び効の制限
相続人が、失踪宣告により相続が発生したから承継した不動産甲を乙に対して売却した後に、Xの失踪宣告が取り消されたとします。
取消しにより失踪宣告ははじめからなかったことになりますが、YとZを保護する規定があります。
まず、YとZの双方が、Xの失踪宣告が事実に反することを知らないで売買したときは(善意)、Zは甲の所有権を失わず(同条1項2文)、Xは甲を取り戻すことができません。
また、Zが甲の所有権を取得する場合、Yは、Xに対して、売買代金相当の利得を返還しなければなりませんが、現存利益(利益がそのまま、または形を変えて残っている限度)の返還で足ります(同条2項)。
(3) 失踪宣告の取消しの課税関係
失踪宣告の取消しの審判が確定すると、失踪宣告による相続の開始により相続税申告書を提出した者は、取消しの確定を知った日の翌日から4ヶ月以内に限り、所轄税務署長に対し、更正の請求をすることができます(相税32条1項2号、相基通32-1)。
COLUMN 1 死亡届
死亡届には、診断書または検案書を添付しなければなりません。ただし、やむを得ない事由があるときには、死亡の事実を証すべき書面の添付でよいとされています(戸86条)。死亡届により、戸籍に死亡が記載されます。
東日本大震災のときは、遺体が発見されず死亡の確認が困難であった事例の相当数について、死亡届の弾力的な運用がなされました。
COLUMN 2 認定死亡
水難、火災などによって死亡した者がある場合に、その取調べをした官庁または公署が、死亡地の市町村長に対して死亡の報告をし、戸籍に死亡が記載されることを「認定死亡」といいます(戸89条)。認定死亡では、死亡は事実と推定されているので、反対の証明がなされた場合には覆されます。
あくまでも行政上の便宜的な取扱いであるため、生命の保険があるなど、認定死亡とは別に、法律行為(裁判など)を失わせる(取り消す)には家庭裁判所の審判が必要となる失踪宣告とは異なります。
COLUMN 3 不在者の財産管理
不在者に財産管理人がいない場合、家庭裁判所は、利害関係人の申立てにより、不在者自身や不在者の財産について利害関係を有する第三者の利益を保護するため、財産管理人の選任などの処分を行うことができます(民25条)。
失踪宣告とは異なり、生死が不明でない利害関係人についても、適切な管理のために特に必要があると認めるときは、国(内閣総理大臣)は、不在者財産管理人の選任を請求することができます(所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法38条)。
不在者財産管理人は、不在者の財産を管理・保存するほか、家庭裁判所の権限外行為許可を得たうえで、不在者に代わって、遺産分割や不動産売却などを行うことができます(民28条、103条)。また、不在者財産管理人は、家庭裁判所の許可により、不在者の財産から相当な報酬を受けることができます(民29条2項)。
不在者財産管理人の選任後は、不在者が生存する場合については失踪宣告の審判が確定したりすると、終了となります。
POINT 1
失踪宣告とは、家庭裁判所の審判によって生死不明の不在者を死亡したものとする制度である。
失踪宣告の要件は、不在者の生死不明が、普通失踪の場合は生死が証明された最後の時から7年間、特別失踪の場合は危難が去った時から1年間継続していることである。
失踪宣告の審判が確定すると、失踪者は、普通失踪の場合は失踪期間(7年間)満了時に、特別失踪の場合は危難が去った時に死亡したものとみなされる。
失踪宣告取消しの審判が確定すると、失踪宣告ははじめからなかったことになる。