取締役などの責任|役員の償い
2025年11月19日
書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識
著者名: 森 章太, 出版社名: 日本実業出版社, 発行年月日: 2022年4月1日, 引用ページ: 不明, ISBNコード: 978-4-534-05917-8
取締役、会計参与、監査役など(以下「取締役など」)は、会社や第三者に対して損害賠償責任を負うことがあります。ワンマン社長経営の会社における、実質的には従業員にすぎない取締役も、監視義務違反として責任を負うことがあります。
どのような場合に取締役などが損害賠償責任を負うのかは、顧問税理士として知っておいたほうがよい知識です。
本節では、取締役などの責任(会社法)について解説します。
1 会社に対する損害賠償責任
(1) 任務懈怠責任
取締役などは、その任務を怠ったときは、会社に対し、任務懈怠によって生じた会社や財産を賠償する責任を負います(会社423条1項)。条文上は明示されていませんが、取締役などは、任務懈怠につき自己の帰責事由によるものでなかったことを主張・立証すれば、責任を免れます。
(2) 任務懈怠とは?
任務懈怠とは、会社に対する善管注意義務(善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務)及び忠実義務(法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、会社のため忠実にその職務を行う義務)に違反することです(会社330条、355条)。
取締役の善管注意義務違反として、他の取締役に対する監視義務違反や内部統制システム構築義務違反など、不作為(なすべきことをしないこと)による任務懈怠が問題となることがあります。
(3) 経営判断の原則
会社経営は、不確実な状況下で迅速な判断が求められ、またリスクを負いながら利益を獲得するものであるため、取締役には広い裁量が認められます。したがって、取締役の行為が結果的に会社に不利益な結果をもたらしたからと言って、取締役には経営判断に誤りがあり、善管注意義務違反にはなりません(経営判断の原則)。
なお、役員の法令違反行為には、経営判断の原則は適用されません。
2 第三者に対する損害賠償責任
(1) 任務懈怠責任
ア 任務懈怠責任の概要
取締役などが任務懈怠によって会社に重大な過失があったときは、取締役などは、任務懈怠によって第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(会社429条1項)。会社債権者が、倒産した会社の取締役などに対して損害賠償請求するのが典型的な例です。
会社法429条1項の責任は、第三者保護のための法定の特別責任です。取締役などは、民法の不法行為による損害賠償責任(1-6P参照)を負わないときであっても、この規定により損害賠償責任を負うことがあります。
イ 任務懈怠責任の要件
第三者は、取締役などの悪意または重過失を任務懈怠について証明すればよく、第三者に対する加害について証明する必要はありません。民法の不法行為責任とは要件が異なります。
また、損害には、直接損害(例、取締役が会社のお金を支払う能力がないにもかかわらず、会社を代表して第三者と売買契約を締結したため、第三者が代金を回収不能となった損害)と、間接損害(例、取締役が著しく不合理な業務執行を行ったために会社が破産し、第三者が回収不能となった債務)の両方が含まれます。
ウ 名目的取締役
実質的には経営にタッチする(い)ことがない名目的取締役であっても、代表取締役の業務執行を監視しなかったことを理由として、第三者に対する損害賠償責任を負うことがあります。
しかし、近時の裁判例には、監視義務を尽くしていたとしても、代表取締役の業務執行を阻止することができなかったため、任務懈怠と第三者の損害との間に因果関係がないという理由で、名目的取締役の賠償責任を否定する
るものもあります。
(2) 計算書類などの虚偽記載による責任
取締役は、計算書類などの虚偽記載をしたときは、第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(会社429条2項1号ロ)。虚偽記載の計算書類を信用して融資した銀行が、回収不能額について損害賠償請求するのが典型的な例です。
取締役は、虚偽記載について注意を怠らなかったこと(無過失)を証明することによって責任を免れます(同条2項柱書)。直接担当の事項ですが、取締役は、軽過失でも責任を負いますし、第三者ではなく取締役が証明責任を負います。情報開示は重要であり、また、計算書類などが虚偽の場合には大きな危険をもたらすため、取締役には過失責任及び無過失の証明責任が課されています。
COLUMN 1 会計参与
(1) 会計参与とは?
会計参与は、会社の役員であり(会社329条1項)、取締役と共同して、計算書類などを作成する権限(会社の意思決定をし、あるいは会社の運営に携わる者)です(会社374条1項)。特に中小企業において計算書類などの信頼性を高めるために設置されます。
会計参与の設置は、原則として、会社の任意です。
(2) 会計参与の資格
会計参与は、公認会計士もしくは監査法人または税理士もしくは税理士法人でなければなりません(会社333条1項)。
(3) 会計参与の損害賠償責任
会計参与は、会計参与の本務(1)及び第三者の本務(本節の1(1))に対して損害賠償責任を負うことがあります。
例えば、会計参与の職務執行を行うに際して、職務の執行に際して不正行為または法令・定款に違反する重大な事実を発見したときは、監査役(監査役非設置会社にあっては株主)に報告する義務を負うため(会社375条1項)、報告を怠ったときは任務懈怠となり、会社に対して損害賠償責任を負うことがあります。
また、会計参与は、計算書類などの虚偽記載について、無過失である場合を除き、第三者に対して損害賠償責任を負います(会社429条2項2号、本節の8(2))。
(4) 報酬の課税関係
会計参与が会社から受け取る報酬は、所得税法上、給与所得として課税されます。事業所得ではありません。
COLUMN 2 監査役の責任に関する最近の判例
監査役の任務懈怠により、従業員による継続的な横領等の発見が遅れて被害が生じたとして、会社が監査役に対して損害賠償を請求した事件がありました。横領した元経理担当の従業員は、発覚を免れるため、預金口座の残高証明書を偽造するなどしていました。
最高裁令和3(2021)年7月19日判決・裁判所Webは、「計算書類等が会計基準等と異なる会計処理に基づき作成されるものであり(略)、会計基準以降取締役等の責任の下で正確に作成されるべきものである(略)ことや(略)、会計基準等の内容が正確であることを当然の前提として計算書類の監査を行ってよいものではない。監査役は、会計基準が信頼性を欠くものであることが明らかでなく、計算書類等が会社の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかを判断する場合には、計算書類の内容が会計基準等に適合するか、又はその基礎資料を確かめるなどすべき場合があるというべきである」、「そうすると、会計方針を決定した上で、計算書類を確定し、会社債権者に開示してよくなるものであることを明らかでない限り、計算書類が会計基準に適合していないこと自体が会社の内部に開示していることを確認したとすれば、常にその任務を尽くしたと認められるものではない」と判示しています。
税理士は、顧問先から監査役への就任を依頼されることもあるため、監査役の責任内容については注意が必要です。
COLUMN 3 株主代表訴訟
会社が取締役などから取締役などに対する損害賠償責任の追及を怠る可能
性があるため、株主が会社のために代表訴訟を提起することが認められています(会社847条)。
株主代表訴訟の確定判決は、勝訴・敗訴を問わず、会社に対して効力を有します(民訴115条1項2号)。会社のために訴訟を提起するのであり、勝訴の場合の損害賠償は、株主個人ではなく、会社に対して支払われます。
株主が勝訴した場合において、責任追及の訴えに係る訴訟に関する費用を支出したとき、または弁護士費用を支払うべきときは、株主は、会社に対し、相当と認められる額の支払いを請求することができます(会社852条1項)。全額を請求できるわけではありません。
一方、株主が敗訴した場合には、悪意(わざと訴訟して会社に権利を失わせる意図など)があったときを除き、株主は、会社に対し、訴訟によって会社に生じた損害(例、訴訟対応費用、信用毀損)を賠償する義務を負いません(同条2項)。
POINT 1
取締役などは、会社に対し、任務懈怠によって生じた損害を賠償する責任を負う。任務懈怠とは、会社に対する善管注意義務及び忠実義務に違反することである。
取締役の判断の内容及び過程に著しく不合理な点がない限り、善管注意義務違反にはならない。
取締役などは、任務懈怠について悪意または重過失があったときは、任務懈怠によって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
取締役は、計算書類などの虚偽記載をしたときは、虚偽記載について注意を怠らなかったときを除き、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
どのような場合に取締役などが損害賠償責任を負うのかは、顧問税理士として知っておいたほうがよい知識です。
本節では、取締役などの責任(会社法)について解説します。
1 会社に対する損害賠償責任
(1) 任務懈怠責任
取締役などは、その任務を怠ったときは、会社に対し、任務懈怠によって生じた会社や財産を賠償する責任を負います(会社423条1項)。条文上は明示されていませんが、取締役などは、任務懈怠につき自己の帰責事由によるものでなかったことを主張・立証すれば、責任を免れます。
(2) 任務懈怠とは?
任務懈怠とは、会社に対する善管注意義務(善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務)及び忠実義務(法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、会社のため忠実にその職務を行う義務)に違反することです(会社330条、355条)。
取締役の善管注意義務違反として、他の取締役に対する監視義務違反や内部統制システム構築義務違反など、不作為(なすべきことをしないこと)による任務懈怠が問題となることがあります。
(3) 経営判断の原則
会社経営は、不確実な状況下で迅速な判断が求められ、またリスクを負いながら利益を獲得するものであるため、取締役には広い裁量が認められます。したがって、取締役の行為が結果的に会社に不利益な結果をもたらしたからと言って、取締役には経営判断に誤りがあり、善管注意義務違反にはなりません(経営判断の原則)。
なお、役員の法令違反行為には、経営判断の原則は適用されません。
2 第三者に対する損害賠償責任
(1) 任務懈怠責任
ア 任務懈怠責任の概要
取締役などが任務懈怠によって会社に重大な過失があったときは、取締役などは、任務懈怠によって第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(会社429条1項)。会社債権者が、倒産した会社の取締役などに対して損害賠償請求するのが典型的な例です。
会社法429条1項の責任は、第三者保護のための法定の特別責任です。取締役などは、民法の不法行為による損害賠償責任(1-6P参照)を負わないときであっても、この規定により損害賠償責任を負うことがあります。
イ 任務懈怠責任の要件
第三者は、取締役などの悪意または重過失を任務懈怠について証明すればよく、第三者に対する加害について証明する必要はありません。民法の不法行為責任とは要件が異なります。
また、損害には、直接損害(例、取締役が会社のお金を支払う能力がないにもかかわらず、会社を代表して第三者と売買契約を締結したため、第三者が代金を回収不能となった損害)と、間接損害(例、取締役が著しく不合理な業務執行を行ったために会社が破産し、第三者が回収不能となった債務)の両方が含まれます。
ウ 名目的取締役
実質的には経営にタッチする(い)ことがない名目的取締役であっても、代表取締役の業務執行を監視しなかったことを理由として、第三者に対する損害賠償責任を負うことがあります。
しかし、近時の裁判例には、監視義務を尽くしていたとしても、代表取締役の業務執行を阻止することができなかったため、任務懈怠と第三者の損害との間に因果関係がないという理由で、名目的取締役の賠償責任を否定する
るものもあります。
(2) 計算書類などの虚偽記載による責任
取締役は、計算書類などの虚偽記載をしたときは、第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(会社429条2項1号ロ)。虚偽記載の計算書類を信用して融資した銀行が、回収不能額について損害賠償請求するのが典型的な例です。
取締役は、虚偽記載について注意を怠らなかったこと(無過失)を証明することによって責任を免れます(同条2項柱書)。直接担当の事項ですが、取締役は、軽過失でも責任を負いますし、第三者ではなく取締役が証明責任を負います。情報開示は重要であり、また、計算書類などが虚偽の場合には大きな危険をもたらすため、取締役には過失責任及び無過失の証明責任が課されています。
COLUMN 1 会計参与
(1) 会計参与とは?
会計参与は、会社の役員であり(会社329条1項)、取締役と共同して、計算書類などを作成する権限(会社の意思決定をし、あるいは会社の運営に携わる者)です(会社374条1項)。特に中小企業において計算書類などの信頼性を高めるために設置されます。
会計参与の設置は、原則として、会社の任意です。
(2) 会計参与の資格
会計参与は、公認会計士もしくは監査法人または税理士もしくは税理士法人でなければなりません(会社333条1項)。
(3) 会計参与の損害賠償責任
会計参与は、会計参与の本務(1)及び第三者の本務(本節の1(1))に対して損害賠償責任を負うことがあります。
例えば、会計参与の職務執行を行うに際して、職務の執行に際して不正行為または法令・定款に違反する重大な事実を発見したときは、監査役(監査役非設置会社にあっては株主)に報告する義務を負うため(会社375条1項)、報告を怠ったときは任務懈怠となり、会社に対して損害賠償責任を負うことがあります。
また、会計参与は、計算書類などの虚偽記載について、無過失である場合を除き、第三者に対して損害賠償責任を負います(会社429条2項2号、本節の8(2))。
(4) 報酬の課税関係
会計参与が会社から受け取る報酬は、所得税法上、給与所得として課税されます。事業所得ではありません。
COLUMN 2 監査役の責任に関する最近の判例
監査役の任務懈怠により、従業員による継続的な横領等の発見が遅れて被害が生じたとして、会社が監査役に対して損害賠償を請求した事件がありました。横領した元経理担当の従業員は、発覚を免れるため、預金口座の残高証明書を偽造するなどしていました。
最高裁令和3(2021)年7月19日判決・裁判所Webは、「計算書類等が会計基準等と異なる会計処理に基づき作成されるものであり(略)、会計基準以降取締役等の責任の下で正確に作成されるべきものである(略)ことや(略)、会計基準等の内容が正確であることを当然の前提として計算書類の監査を行ってよいものではない。監査役は、会計基準が信頼性を欠くものであることが明らかでなく、計算書類等が会社の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかを判断する場合には、計算書類の内容が会計基準等に適合するか、又はその基礎資料を確かめるなどすべき場合があるというべきである」、「そうすると、会計方針を決定した上で、計算書類を確定し、会社債権者に開示してよくなるものであることを明らかでない限り、計算書類が会計基準に適合していないこと自体が会社の内部に開示していることを確認したとすれば、常にその任務を尽くしたと認められるものではない」と判示しています。
税理士は、顧問先から監査役への就任を依頼されることもあるため、監査役の責任内容については注意が必要です。
COLUMN 3 株主代表訴訟
会社が取締役などから取締役などに対する損害賠償責任の追及を怠る可能
性があるため、株主が会社のために代表訴訟を提起することが認められています(会社847条)。
株主代表訴訟の確定判決は、勝訴・敗訴を問わず、会社に対して効力を有します(民訴115条1項2号)。会社のために訴訟を提起するのであり、勝訴の場合の損害賠償は、株主個人ではなく、会社に対して支払われます。
株主が勝訴した場合において、責任追及の訴えに係る訴訟に関する費用を支出したとき、または弁護士費用を支払うべきときは、株主は、会社に対し、相当と認められる額の支払いを請求することができます(会社852条1項)。全額を請求できるわけではありません。
一方、株主が敗訴した場合には、悪意(わざと訴訟して会社に権利を失わせる意図など)があったときを除き、株主は、会社に対し、訴訟によって会社に生じた損害(例、訴訟対応費用、信用毀損)を賠償する義務を負いません(同条2項)。
POINT 1
取締役などは、会社に対し、任務懈怠によって生じた損害を賠償する責任を負う。任務懈怠とは、会社に対する善管注意義務及び忠実義務に違反することである。
取締役の判断の内容及び過程に著しく不合理な点がない限り、善管注意義務違反にはならない。
取締役などは、任務懈怠について悪意または重過失があったときは、任務懈怠によって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
取締役は、計算書類などの虚偽記載をしたときは、虚偽記載について注意を怠らなかったときを除き、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。