隣地通行権|あなたの土地を通ります
2025年11月19日
書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識
著者名: 森 章太, 出版社名: 日本実業出版社, 発行年月日: 2022年4月1日, 引用ページ: 不明, ISBNコード: 978-4-534-05917-8
平成23(2011)年度税理士試験の相続税法の計算問題として、「無道路地の評価」が出題されています。税法上、無道路地とは、道路に接しない土地(接道義務を満たしていない土地を含む)であり、評価方法について財産評価基本通達20-2が定めています。
無道路地の所有者は、隣地の所有者が隣地の通行を拒絶する場合、道路に出ることができなくなり、無道路地を利用することができなくなるのでしょうか。
本節では、隣地通行権(民法)について解説します。
1 隣地通行権とは?
他の土地に囲まれて公道に通じない土地を「袋地」といい、河川、水路、海、著しい高低差がある崖を渡らなければ公道に出ることができない土地を「準袋地」といいます。
袋地または準袋地の所有者は、公道に出るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行すること(民210条)。この隣地通行権(囲繞地通行権)は法律上当然に認められる権利であり、隣地の所有者の同意は不要です。同意(契約)で必要な通行権(1-4P46頁)とは異なります。
○袋地
| | | |
| :--- | :--- | :--- |
| 土地A(袋地) | 土地B(囲繞地) | 土地A(袋地) |
| 土地C(囲繞地) | 公道 | |
隣地通行権が認められるのは、土地が荒廃され、社会的な損失が生じることを防ぐためです。
2 公道に通じない土地とは?
「公道に通じない土地」の公道は、公衆の用に供される道路を指し、私道を含みません。
また、現に道路が存在する場合であっても、既存の通路では土地の利用に応じた利用にとって不十分であるときは、「公道に通じない土地」と評価されることがあります。
隣地通行権が認められるかどうかについて、最高裁平成6(2006)年3月16日判決・裁判所Webは、「自動車による通行を前提とすると210条通行権の成否及びその具体的内容は、他の土地について自動車による通行を認める必要性、周辺の土地の状況、自動車による通行を前提とすると210条通行権が認められることにより他の土地の所有者が被る不利益等の諸事情を総合考慮して判断すべきである」と判示しています。
さらに、道路に2m以上接するという建築基準法43条1項の接道要件を満たしていない土地について、最高裁平成11(1999)年7月13日判決・裁判所Webは、「建築基準法43条1項本文は、土地又は建物の所有権を取得して、接道要件を定め、営業等のために公法上の規制を課している。このような建築基準法43条1項本文は、その目的、手段等からみて、同一土地の所有者のために隣地の他の土地の上に無償の通行権が当然に認められると解することはできない」と判示しています。隣地通行権の成立及び内容について、接道要件を考慮すること自体は否定されていないと解されています。
3 有償通行権(原則)
(1) 隣地通行の場所及び方法
隣地通行権が認められるからといって、隣地の好きな場所を通行できるわけではありません。隣地通行の場所及び方法は、通行のための必要があり、かつ、隣地の所有者のために損害が最も少ないものを選ばなければなりません(民211条1項)。
具体的には、権利を濫用したり、隣地を荒廃させたりすることはできません。
(2) 償金の支払義務
通行権者は、通行する土地の所有者の損害に対して償金を支払わなければなりません(民213条1項)。償金は、隣地に現実に発生した損害を賠償する性質と通行権の利用を償還する性質を併せ持ちます。
もっとも、通行権者は、償金の支払をしなかったとしても、隣地通行権を失わず、引渡しを請求することができます。隣地通行権は、公道に面するために認められる権利であり、償金の支払いを前提として認められるわけではないからです。
4 無償通行権(例外)
共有物の分割(3-4P178頁)によって公道に通じない土地が生じたときは、袋地の所有者は、公道に出るため、他の分割者の所有地のみを通行することができます(民213条1項)。
また、土地所有者が土地の一部を譲渡したことにより公道に通じなくなったときは、袋地の所有者は、公道に出るため、譲渡人または譲受人の土地のみを通行することができます(同条2項)。
これらの場合、償金を支払う必要がありません。通行権の発生を予期して分割地または譲渡した他の分割者の利益を保護するためであり、償金の負担を負わせるのは酷といえるからです。
POINT 1
袋地または準袋地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。
隣地通行権の通行の場所及び方法は、通行権者のために必要があり、かつ、隣地の所有者のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
通行権者は、原則として、通行する土地の所有者の損害に対して償金を支払わなければならない。
無道路地の所有者は、隣地の所有者が隣地の通行を拒絶する場合、道路に出ることができなくなり、無道路地を利用することができなくなるのでしょうか。
本節では、隣地通行権(民法)について解説します。
1 隣地通行権とは?
他の土地に囲まれて公道に通じない土地を「袋地」といい、河川、水路、海、著しい高低差がある崖を渡らなければ公道に出ることができない土地を「準袋地」といいます。
袋地または準袋地の所有者は、公道に出るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行すること(民210条)。この隣地通行権(囲繞地通行権)は法律上当然に認められる権利であり、隣地の所有者の同意は不要です。同意(契約)で必要な通行権(1-4P46頁)とは異なります。
○袋地
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| :--- | :--- | :--- |
| 土地A(袋地) | 土地B(囲繞地) | 土地A(袋地) |
| 土地C(囲繞地) | 公道 | |
隣地通行権が認められるのは、土地が荒廃され、社会的な損失が生じることを防ぐためです。
2 公道に通じない土地とは?
「公道に通じない土地」の公道は、公衆の用に供される道路を指し、私道を含みません。
また、現に道路が存在する場合であっても、既存の通路では土地の利用に応じた利用にとって不十分であるときは、「公道に通じない土地」と評価されることがあります。
隣地通行権が認められるかどうかについて、最高裁平成6(2006)年3月16日判決・裁判所Webは、「自動車による通行を前提とすると210条通行権の成否及びその具体的内容は、他の土地について自動車による通行を認める必要性、周辺の土地の状況、自動車による通行を前提とすると210条通行権が認められることにより他の土地の所有者が被る不利益等の諸事情を総合考慮して判断すべきである」と判示しています。
さらに、道路に2m以上接するという建築基準法43条1項の接道要件を満たしていない土地について、最高裁平成11(1999)年7月13日判決・裁判所Webは、「建築基準法43条1項本文は、土地又は建物の所有権を取得して、接道要件を定め、営業等のために公法上の規制を課している。このような建築基準法43条1項本文は、その目的、手段等からみて、同一土地の所有者のために隣地の他の土地の上に無償の通行権が当然に認められると解することはできない」と判示しています。隣地通行権の成立及び内容について、接道要件を考慮すること自体は否定されていないと解されています。
3 有償通行権(原則)
(1) 隣地通行の場所及び方法
隣地通行権が認められるからといって、隣地の好きな場所を通行できるわけではありません。隣地通行の場所及び方法は、通行のための必要があり、かつ、隣地の所有者のために損害が最も少ないものを選ばなければなりません(民211条1項)。
具体的には、権利を濫用したり、隣地を荒廃させたりすることはできません。
(2) 償金の支払義務
通行権者は、通行する土地の所有者の損害に対して償金を支払わなければなりません(民213条1項)。償金は、隣地に現実に発生した損害を賠償する性質と通行権の利用を償還する性質を併せ持ちます。
もっとも、通行権者は、償金の支払をしなかったとしても、隣地通行権を失わず、引渡しを請求することができます。隣地通行権は、公道に面するために認められる権利であり、償金の支払いを前提として認められるわけではないからです。
4 無償通行権(例外)
共有物の分割(3-4P178頁)によって公道に通じない土地が生じたときは、袋地の所有者は、公道に出るため、他の分割者の所有地のみを通行することができます(民213条1項)。
また、土地所有者が土地の一部を譲渡したことにより公道に通じなくなったときは、袋地の所有者は、公道に出るため、譲渡人または譲受人の土地のみを通行することができます(同条2項)。
これらの場合、償金を支払う必要がありません。通行権の発生を予期して分割地または譲渡した他の分割者の利益を保護するためであり、償金の負担を負わせるのは酷といえるからです。
POINT 1
袋地または準袋地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。
隣地通行権の通行の場所及び方法は、通行権者のために必要があり、かつ、隣地の所有者のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
通行権者は、原則として、通行する土地の所有者の損害に対して償金を支払わなければならない。