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税理士の知識

建物区分所有|分譲マンションのルール

2025年11月19日

書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識
著者名: 森 章太, 出版社名: 日本実業出版社, 発行年月日: 2022年4月1日, 引用ページ: 不明, ISBNコード: 978-4-534-05917-8

日本における分譲マンションのストック総数は約665.5万戸(令和元(2019)年末時点)であり、約1512万人が居住していると推計されています(国土交通省)。
分譲マンションのうち築40年超のものが平成30(2018)年末時点で81.4万戸であるが、令和10(2028)年末には219.7万戸、令和20(2038)年末には366.8万戸になることが見込まれています。今後、老朽化した分譲マンションの放置や解体が社会問題になるおそれがあります。また、災害による滅失した場合に法律関係が問題になることも考えられます。
本節では、分譲マンションの所有形態である建物区分所有(区分所有法)について解説します。
区分所有は、税理士試験にも出題されており、平成27(2015)年度の相続税法の計算問題では、区分所有の登記がされた居住用及びその敷地の評価額が問われています。

1 区分所有権とは?
1棟の建物の構造上・利用上独立した一部に成立する所有権を「区分所有権」といいます。区分所有権が利用される代表例は、分譲マンションです。
複数の区分所有者及び共有者に関する法的な管理を行うため、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」または「法」)が定められています。民法の特別法です。

2 区分所有建物の所有関係
(1) 専有部分
区分所有権の対象となる建物の部分を「専有部分」といいます(法2条3項)。
なお、区分所有建物のうち、人の居住の用に供する専有部分のあるものを「マンション」といいます。

(2) 共用部分
専有部分に属さない建物の部分及び専有部分に属しない建物の附属物を「共用部分」といいます(法2条4項、4条1項)。廊下や階段、水道設備などです。
なお、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、在宅勤務が増え宅配便の受け渡しなどで共用部分に置かれることが増えており、放置などによるトラブルが生じています。
また、本来は専有部分となり得るものを、規約により共用部分とされた建物の部分及び附属建物を共用部分とすることもできます(4条2項)。集会室や駐車場などです。
共用部分は、区分所有者の共有となり(法11条1項)、その持分割合は、専有部分の床面積の割合によります(法14条)。
区分所有者は、専有部分を処分すると共用部分の共有持分も合わせて処分したことになります。また、原則として、専有部分と分離して共用部分の共有持分だけを処分することはできません(法15条)。

(3) 敷地利用権
専有部分を所有するための建物の敷地に関する権利を「敷地利用権」といいます(法2条6項)。
区分所有者は、原則として、専有部分と敷地利用権を分離して処分することができません(法22条1項)。
敷地利用権に関する不動産登記は、専有部分についての不動産登記で代用されます。

3 区分所有における管理
(1) 管理組合・管理者
区分所有者は、全員で、建物の管理などを行うための団体(強制加入団体)である管理組合を構成し、集会を開き、規約を定め、管理者を選任することができます(法3条)。
管理組合の意思決定は、区分所有者全員からなる集会の決議によって行われ、集会の議事は、原則として、区分所有者の人数及び議決権総数の各過半数で決することになります(法39条1項)。もっとも、多くの規約では、所有者の半数以上が出席する集会において出席者の議決権の過半数で決するとされています。
また、管理者が日常の管理業務を行うことは困難であるため、集会の決議によって管理者を選任して、管理者に一定の範囲の管理行為を行わせることができます(法25条以下)。実務においては、区分所有者の中から選任された役員で構成される理事会によって理事長が選任され、理事長が管理者となって管理者されることがあります。

(2) 規約
管理組合は、区分所有者が従うべき規則を規約によって定めることができます。例えば、専有部分での民泊営業やペット飼育の禁止などです。規約に反して効力が及ぶので、反対した区分所有者も拘束されます。
規約の設定、変更または廃止は、区分所有者の人数及び議決権総数の各75%以上の多数による集会決議で行うことができます。さらに、一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければなりません(法31条)。
実務においては、各区分所有者が、分譲業者が分譲時にあらかじめ作成した規約案を承認で確認することを集会決議とみなして設定することが多い(法45条2項)。

(3) 共用部分の管理
共用部分の管理(下記イの著しい変更を除く)は、区分所有者の人数及び議決権総数の各過半数による集会決議によって行うことができますが(法18条1項)、各共有者が単独で行うことができますか、または比較的重要性のない変更行為は、各共有者が単独で行うことができます(法18条1項)。
イ 共用部分の形状及び効用の著しい変更(例、定期的な大規模修繕工事)は、管理として行うことができます。
共用部分について形状及び効用の著しい変更を伴う変更(例、階段室からエレベーター室への改造)をするするには、区分所有者の人数及び議決権総数の各75%以上の多数による集会決議で行います(法17条1項)。
共有物の変更は共有者全員の同意を必要とする民法251条(3-4P177頁)の特則です。
なお、共用部分の著しい変更を伴う決議があります。
区分所有者に高齢者が多いことなど、合意形成が困難であったりします。

4 区分所有建物が一部滅失したときの復旧
(1) 専有部分
建物の一部が滅失したときは、各区分所有者は、自己の費用と責任で専有部分の復旧を行います。

(2) 共用部分
ア 小規模滅失
建物の価格の50%以下に相当する部分が一部滅失したときは、滅失した共用部分の復旧は、区分所有者の人数及び議決権総数の各過半数による集会決議によって行うことができます(法61条5項)。
この決議が成立したときは、決議に反対した区分所有者を拘束され、費用負担しなければなりません。

イ 大規模滅失
建物の価格の50%を超える部分が一部滅失したときは、滅失した共用部分の復旧は、区分所有者の人数及び議決権総数の各75%以上の多数による集会決議によって行うことができます(同条5項)。
この決議が成立したときは、反対した区分所有者に対して買取請求をすることができます。
買取を請求することにした区分所有者は、決議に反対した区分所有者に対し、建物及び敷地に関する権利(所有権など)の買取を請求することを通知し、区分所有者に対して買取請求をすることができます(同条7項)。意思表示に反して買い取りを強制することはできないので、一方的な買取請求によって売買契約が成立します。
建物の価格の90%を超える部分が一部滅失したときは6ヶ月以内に復旧の決議が成立しなかったときは、各区分所有者は、他の区分所有者に対し、建物及び敷地に関する権利の時価での買取を請求することができる(同条12項)。復旧などを望む区分所有者に建物区分所有権を集約させ、現状の打開を図る趣旨です。

5 建替え
建物の建替え(滅失して新たに建築)は、区分所有者の人数及び議決権総数の各80%以上の多数による集会決議で行うことができます(法62条1項)。建替えに参加する区分所有者は、参加しない区分所有者に対して、区分所有権及び敷地利用権の時価での売渡しを請求することができます(法63条1項)。この請求がなされると、法律上当然に売買契約が成立し、建替えに対する反対がない状態になります。

○区分所有法の決議要件
| 内容 | 決議要件 |
| :--- | :--- |
| 集会の議事(原則) | 区分所有者及び議決権の各過半数 |
| 規約の設定、変更、廃止 | 区分所有者及び議決権の各75%以上 |
| 共用部分の管理(著しい変更を除く) | 区分所有者及び議決権の各過半数 |
| 保存行為 | 各区分所有者が単独可 |
| 共用部分について著しい変更 | 区分所有者及び議決権の各75%以上 |
| 建物の一部が滅失したときの専有部分の復旧 | 区分所有者が自己の費用と責任 |
| 建物価格の50%以下に相当する部分が一部滅失したときの、滅失した共用部分の復旧 | 区分所有者及び議決権の各過半数 |
| 建物価格の50%を超える部分が一部滅失したときの、滅失した共用部分の復旧 | 区分所有者及び議決権の各75%以上 |
| 建物の建替え | 区分所有者及び議決権の各80%以上 |

COLUMN 1 被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法
(1) 目的
被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法(以下「被災区分所有法」)は、災害により、①区分所有法が滅失した区分所有建物の敷地の敷地権の一部が、滅失した区分所有建物及び敷地の売却並びに①と②の一部の滅失した区分所有建物の取壊しなど早急にする特別の措置を講ずることにより、被災地の迅速な復興に資することを目的とする法律です。
災害により滅失した建物が放置されることを防止するため、区分所有法にはない選択肢が認められています。

(2) 区分所有法人の決議・売却
区分所有建物が全部滅失すると、区分所有関係も管理組合も消滅して、区分所有法が定める決議ができなくなります。区分所有法人の意思が難しくなります。
しかし、平成7(1995)年の阪神淡路大震災後に、区分所有法の建替え規定に準じ、建物の再建を望む声が高まり、被災区分所有法が制定されました。平成23(2011)年の東日本大震災後は同法は改正されています。
被災区分所有法によって、天災その他災害により区分所有建物が全部滅失した場合、敷地共有者は、議決権の80%以上の多数で建物の敷地の全部を売却することができます(法20条1項)。共有者全員の同意(民251条)は不要です。

(3) 大規模一部滅失の売却・取壊し
被災区分所有法によれば、区分所有建物を敷地とともに第三者に売却したり、取り壊したりするには、区分所有者全員の同意が必要です。なお、区分所有者が自己の権利を個々に売却することを意図できます。
この点について、区分所有建物が一部滅失した場合、区分所有権及び敷地利用権の持分価格の各80%以上の多数で、建物・敷地または建物の敷地の敷地権を処分することができます(9、10条)。
また、区分所有者の人数及び議決権総数の各80%以上の多数で、建物の取壊しを行うことができます(11条)。売却を伴わない建物の取壊しのためであり、取壊し後に敷地を売却するのか、建物・敷地を再建するのかについて意見が分かれている場合などに選択されます。

COLUMN 2 マンションの建替え等の円滑化に関する法律
建替えした複合マンションで、マンションの建替え等の円滑化に関する法律を定めることを目的として、「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」(平成14(2002)年に制定されました。
マンションの建替えの円滑化に関する法律(4条の5)、マンション敷地が地震に強いかを利用した

分譲マンション(105戸)では、平成28(2016)年にこの法律に基づく建替え決議がなされ、令和3(2021)年に建替えが完了しました。
平成26(2014)年の法改正によって、耐震基準を満たしていないと認定された場合には、マンションと敷地の売却を、区分所有者、議決権及び敷地利用権の持分価格の各80%以上の決議によって行うことができるようになりました(108条1項)。

POINT 1

1棟の建物の構造上・利用上独立した一部に成立する所有権を区分所有権という。

区分所有者は、全員で、建物の管理などを行うための団体(強制加入団体である管理組合)を構成し、集会を開き、規約を定め、管理者を選任することができる。

管理組合の意思決定は、区分所有者全員からなる集会の決議によって行われる。集会の議事は、原則として、区分所有者の人数及び議決権総数の各過半数で決する。

規約の設定、変更または廃止は、区分所有者の人数及び議決権総数の各75%以上の多数による集会決議で行うことができる。

区分所有者には、共用部分の管理、一部滅失したときの復旧、建替えに関する規定がある。