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税理士の知識

代物弁済|代わりの物で勘弁して

2025年11月19日

書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識
著者名: 森 章太, 出版社名: 日本実業出版社, 発行年月日: 2022年4月1日, 引用ページ: 不明, ISBNコード: 978-4-534-05917-8

令和2(2020)年度税理士試験の相続税法の理論問題において、「代物弁済が行われたことにより、贈与税の課税が問題となる場合について、関連する条文とその趣旨に触れつつ説明しなさい」と出題されています。
本節では、代物弁済(民法)について解説します。

1 代物弁済とは?
代物弁済とは、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約(代物弁済契約)をし、他の給付をすることを「代物弁済」といいます(民法482条)。代わりの物による弁済であり、金銭の支払いに代えて物などを譲渡することが多いです。あくまでも契約ですので、債務者が、債権者の合意なく、一方的に代わりの物で弁済することはできません。
国税は金銭で納付することが原則であるところ、相続税に限って一定の場合に認められている物納も一種の代物弁済です。

民法482条(代物弁済)
弁済をすることができる者(略)が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、その弁済者が当該他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。

2 債務消滅までの道筋
金銭の支払いに代えて土地を譲渡して代物弁済する場合の債務消滅までの道筋は、以下のとおりです。
まず、金銭の支払いに代えて土地を譲渡する代物弁済契約の締結によって、債務者に土地の所有権が移転します(民法176条)。この段階では、金銭債務はまだ消滅しません。
その後、債務者が、土地の所有権移転登記を完了し、第三者に対抗する対抗要件を具備したときに(民法177条、1-3(2)参照)、金銭債務は消滅します。

3 代物弁済の課税関係
個人間の代物弁済を前提として、課税関係を説明します。
債務者(譲渡人)には、他の給付により資産を移転するため、原則として譲渡所得が発生します。
消滅する債務額が代物弁済時よりも著しく低い場合、代物弁済と消滅債務額の差額について贈与とみなされ(相税7条)、債権者には、贈与税が発生することがあります。また、代物弁済時価が消滅債務額よりも著しく低い場合、消滅債務額と代物弁済時価との差額について贈与とみなされ(相基通9-8)、債務者には、贈与税が発生することがあります。これらの贈与税は、本節の冒頭の税理士試験で出題されている点です。

○個人間の代物弁済の課税関係

個人債権者(譲受人) 個人債務者(譲渡人)
消滅債務額が代物弁済時価よりも著しく低い 劣後額について贈与税 消滅債務額(収入とする)と譲渡した資産の取得費(譲渡費用も含む)の差額に対して譲渡所得税
代物弁済時価が消滅債務額よりも著しく低い 代物弁済を譲渡対価として所得税差額について贈与税

COLUMN 遺留分侵害額請求と代物弁済の合意
民法改正法は、遺留分(3-23・27(7)参照)の権利者は、減殺対象となった財産に対して持分権または所有権を有することとされていました(遺留分減殺請求権)。ただし、減殺相手方は、価額による弁償での解決(金銭解決)を選択することもできました。
これに対して、民法改正により令和元(2019)年7月1日に以降に開始した相続については、遺留分権利者は、(最初から)侵害額に相当する金銭の支払請求権(遺留分侵害額請求権)を取得することになりました。現物返還から金銭給付へと変更されました。
もっとも、遺留分侵害額請求権の当事者は、合意により、金銭の支払いに代えて現物を提供することができます。この合意は代物弁済です。課税上、原則として、単純提供により消滅した債務額に相当する対価により現物を譲渡したことになります(所基通33-1の5)。
現物は、相続財産である場合と遺留分義務者固有の財産である場合とがあります。遺留分権利者は、仮に遺留分義務者から代物弁済により相続財産である土地を取得したとしても、相続または遺贈により取得したのではないので、相続税の小規模宅地等の特例の適用を受けることはできません。なお、遺留分義務者は、相続財産である土地を代物弁済したとしても、他の要件を充たせば小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。

POINT 1
代物弁済とは、債務者が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をし、他の給付をすることをいう。

金銭の支払いに代えて土地を譲渡する代物弁済契約の締結によって、債務者に土地の所有権が移転する。その後、債務者が、土地の所有権移転登記を完了したときに、金銭債務は消滅する。