負担付贈与と負担付遺贈|タダではなく負担あり
2025年11月19日
書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識
著者名: 森 章太, 出版社名: 日本実業出版社, 発行年月日: 2022年4月1日, 引用ページ: 不明, ISBNコード: 978-4-534-05917-8
「贈与契約」と「遺贈」は、多くの場合、無償で財産を取得できることになりますが、「負担」が付いていることがあります。負担が付くと、課税関係が複雑になります。
令和3(2021)年度税理士試験の相続税法の計算問題では、「被相続人甲は、この(甲の)所有するのための条件として、養子Aが養子Cに対する貸付金100万円を免除することとしており、養子Aは養子Cに対するその貸付金の全額を免除し、この株式の贈与を受けている」と記述されています。これは、負担付贈与でしょうか。
負担付遺贈は、令和2(2020)年度の相続税法の計算問題に出題されています。「CはFが遺贈により取得した家屋Nに係る借入金保証金15万円については、上記の遺言書に基づき、弊社が負担する」と記述されています。
本節では、負担付贈与と負担付遺贈(民法)について解説します。
1 負担付贈与とは?
負担付贈与とは、受贈者に一定の義務を負担させることを内容とした贈与です。例えば、贈与者が身の回りの世話をすることを贈与の義務として贈与することが挙げられます。
負担が履行されることによる受益者は、贈与者である場合と第三者である場合があります。
負担付贈与の場合、負担の履行の有無にかかわらず、契約の成立によって贈与の効力が生じます。これに対して、(常に)負担が履行した場合の効力が生じる贈与を「停止条件付贈与」といいます。停止条件とは、法律行為の効力の発生が、将来において発生不確実な事実にかかっていることをいいます。
本節の冒頭で紹介した令和3(2021)年度の試験問題の贈与は、第三者に対する貸付金免除の負担を停止条件としており、負担付贈与ではありません。なお、停止条件と対比されるものとして、解除条件があります。条件成就は、2-20 COLUMN1(p.123)で解説しています。
◎負担付贈与
贈与者 ⇔ 受贈者(負担による受益者は、贈与者または第三者)
(2)債務不履行を理由とする契約の解除
受贈者がその負担である義務の履行を怠るときは、贈与者は、贈与契約を解除することができます(民法553条、541条、542条)。
(3)負担付贈与の課税関係
負担付贈与の場合、受贈者は、負担がないものとした場合における贈与財産の価額から負担額を控除した価額を贈与によって取得したことになります(相基通21の2-4)。
これに対して、贈与者は、負担付贈与をする双務契約としての反対給付(譲渡所得)が課されます。また、受贈者の負担が第三者の利益に帰するときは、第三者は、負担付贈与額を贈与によって取得したものとして贈与税が課されます(相基通9-11)。
2 負担付遺贈
(1)負担付遺贈とは?
負担付遺贈とは、受遺者に一定の義務を負担させることを内容とした遺贈(3-22(4)p.274)です。例えば、遺贈者の配偶者に対する扶養義務を負担することを受遺者の義務として遺贈することが挙げられます。
負担付遺贈の場合、受遺者は受遺財産の内容を承知して遺贈を承認しているので、遺言の効力は契約ではなく単独行為であるため、負担付贈与の場合と異なり、受遺者は一方的に負担を押し付けられることがあります。
受遺者は、負担が加重だと考えたときなどは、遺贈を放棄することができます。放棄した場合は、相続人に負担付きの遺産が帰属するのではなく、負担付遺贈をされることによる受益者が相続人として遺贈を受けることになります(民法1002条2項本文)。
◎負担付遺贈
遺贈者 ⇒ 受遺者(負担による受益者は、相続人または第三者)
(2)遺贈額と負担額
負担付遺贈の受遺者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負います(民法1002条1項)。例えば、1000万円の遺贈を受けた場合、1000万円を超えない限度においてのみ、義務を履行する責任を負います。
(3)遺贈の取消し
負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができます。その期間内に履行がないときは、相続人は、家庭裁判所に対し、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを請求できます(民法1027条)。令和元(2019)年において、負担付遺贈に係る遺言の取消事由が新設されるまでは、判例により、取消権は家庭裁判所に形成の訴えによらなければ、遺言の安定を害するので取消権を行使できないとされていました。この遺言の取消しは、負担付贈与の場合の債務不履行による解除ができること(本節の1(2))に対応するものです。
負担付遺贈が取り消された場合、遺贈は遡及的に効力を失うので、遺贈の目的は原則として相続人に帰属します(民法965条)。この場合、相続人は、負担を履行すべき義務があることを解決しています。
(4)負担付遺贈の課税関係
負担付遺贈により取得した財産の価額は、負担がないものとした場合における遺産の価額から負担額(遺贈があった時において確実と認められる金額に限る)を控除した価額によるものとされています(相基通11の2-7)。
これに対して、受遺者の負担により利益を得る第三者(相続人を含む)は、負担付遺贈を放棄した場合は、相続人に負担付きの遺産が帰属するのではなく、負担付遺贈をされることによる受益者が相続人として遺贈を受けることになります(民法1002条2項本文)。
COLUMN 停止条件付遺贈
遺贈に停止条件を付することができます(民法985条2項)。例えば、Xに子が生まれたら、Xに建物を遺贈するとした場合、Xの子の誕生が停止条件です。
負担付遺贈は、負担の履行がなくても遺贈の効力が生じるのに対し、停止条件付遺贈は、条件が成就してはじめて遺贈の効力が生じます。条件が成就しないときは、遺贈の目的は相続人に帰属することになります。
課税関係として、停止条件付遺贈があった場合において、条件成就前に相続税の申告書を提出するときは、遺贈の目的となった財産については、未分割財産として課税価格を計算します(相基通11の2-8)。
POINT 1
負担付贈与とは、受贈者に一定の義務を負担させることを内容とした贈与である。
負担付贈与の場合、受贈者がその負担である義務の履行を怠るときは、贈与者は、贈与契約を解除することができる。
負担付遺贈とは、受遺者に一定の義務を負担させることを内容とした遺贈である。
負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる。そして、その期間内に履行がないときは、相続人は、家庭裁判所に対し、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを請求することができる。
負担付遺贈が取り消された場合、遺贈の目的は、原則として相続人に帰属する。
令和3(2021)年度税理士試験の相続税法の計算問題では、「被相続人甲は、この(甲の)所有するのための条件として、養子Aが養子Cに対する貸付金100万円を免除することとしており、養子Aは養子Cに対するその貸付金の全額を免除し、この株式の贈与を受けている」と記述されています。これは、負担付贈与でしょうか。
負担付遺贈は、令和2(2020)年度の相続税法の計算問題に出題されています。「CはFが遺贈により取得した家屋Nに係る借入金保証金15万円については、上記の遺言書に基づき、弊社が負担する」と記述されています。
本節では、負担付贈与と負担付遺贈(民法)について解説します。
1 負担付贈与とは?
負担付贈与とは、受贈者に一定の義務を負担させることを内容とした贈与です。例えば、贈与者が身の回りの世話をすることを贈与の義務として贈与することが挙げられます。
負担が履行されることによる受益者は、贈与者である場合と第三者である場合があります。
負担付贈与の場合、負担の履行の有無にかかわらず、契約の成立によって贈与の効力が生じます。これに対して、(常に)負担が履行した場合の効力が生じる贈与を「停止条件付贈与」といいます。停止条件とは、法律行為の効力の発生が、将来において発生不確実な事実にかかっていることをいいます。
本節の冒頭で紹介した令和3(2021)年度の試験問題の贈与は、第三者に対する貸付金免除の負担を停止条件としており、負担付贈与ではありません。なお、停止条件と対比されるものとして、解除条件があります。条件成就は、2-20 COLUMN1(p.123)で解説しています。
◎負担付贈与
贈与者 ⇔ 受贈者(負担による受益者は、贈与者または第三者)
(2)債務不履行を理由とする契約の解除
受贈者がその負担である義務の履行を怠るときは、贈与者は、贈与契約を解除することができます(民法553条、541条、542条)。
(3)負担付贈与の課税関係
負担付贈与の場合、受贈者は、負担がないものとした場合における贈与財産の価額から負担額を控除した価額を贈与によって取得したことになります(相基通21の2-4)。
これに対して、贈与者は、負担付贈与をする双務契約としての反対給付(譲渡所得)が課されます。また、受贈者の負担が第三者の利益に帰するときは、第三者は、負担付贈与額を贈与によって取得したものとして贈与税が課されます(相基通9-11)。
2 負担付遺贈
(1)負担付遺贈とは?
負担付遺贈とは、受遺者に一定の義務を負担させることを内容とした遺贈(3-22(4)p.274)です。例えば、遺贈者の配偶者に対する扶養義務を負担することを受遺者の義務として遺贈することが挙げられます。
負担付遺贈の場合、受遺者は受遺財産の内容を承知して遺贈を承認しているので、遺言の効力は契約ではなく単独行為であるため、負担付贈与の場合と異なり、受遺者は一方的に負担を押し付けられることがあります。
受遺者は、負担が加重だと考えたときなどは、遺贈を放棄することができます。放棄した場合は、相続人に負担付きの遺産が帰属するのではなく、負担付遺贈をされることによる受益者が相続人として遺贈を受けることになります(民法1002条2項本文)。
◎負担付遺贈
遺贈者 ⇒ 受遺者(負担による受益者は、相続人または第三者)
(2)遺贈額と負担額
負担付遺贈の受遺者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負います(民法1002条1項)。例えば、1000万円の遺贈を受けた場合、1000万円を超えない限度においてのみ、義務を履行する責任を負います。
(3)遺贈の取消し
負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができます。その期間内に履行がないときは、相続人は、家庭裁判所に対し、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを請求できます(民法1027条)。令和元(2019)年において、負担付遺贈に係る遺言の取消事由が新設されるまでは、判例により、取消権は家庭裁判所に形成の訴えによらなければ、遺言の安定を害するので取消権を行使できないとされていました。この遺言の取消しは、負担付贈与の場合の債務不履行による解除ができること(本節の1(2))に対応するものです。
負担付遺贈が取り消された場合、遺贈は遡及的に効力を失うので、遺贈の目的は原則として相続人に帰属します(民法965条)。この場合、相続人は、負担を履行すべき義務があることを解決しています。
(4)負担付遺贈の課税関係
負担付遺贈により取得した財産の価額は、負担がないものとした場合における遺産の価額から負担額(遺贈があった時において確実と認められる金額に限る)を控除した価額によるものとされています(相基通11の2-7)。
これに対して、受遺者の負担により利益を得る第三者(相続人を含む)は、負担付遺贈を放棄した場合は、相続人に負担付きの遺産が帰属するのではなく、負担付遺贈をされることによる受益者が相続人として遺贈を受けることになります(民法1002条2項本文)。
COLUMN 停止条件付遺贈
遺贈に停止条件を付することができます(民法985条2項)。例えば、Xに子が生まれたら、Xに建物を遺贈するとした場合、Xの子の誕生が停止条件です。
負担付遺贈は、負担の履行がなくても遺贈の効力が生じるのに対し、停止条件付遺贈は、条件が成就してはじめて遺贈の効力が生じます。条件が成就しないときは、遺贈の目的は相続人に帰属することになります。
課税関係として、停止条件付遺贈があった場合において、条件成就前に相続税の申告書を提出するときは、遺贈の目的となった財産については、未分割財産として課税価格を計算します(相基通11の2-8)。
POINT 1
負担付贈与とは、受贈者に一定の義務を負担させることを内容とした贈与である。
負担付贈与の場合、受贈者がその負担である義務の履行を怠るときは、贈与者は、贈与契約を解除することができる。
負担付遺贈とは、受遺者に一定の義務を負担させることを内容とした遺贈である。
負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる。そして、その期間内に履行がないときは、相続人は、家庭裁判所に対し、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを請求することができる。
負担付遺贈が取り消された場合、遺贈の目的は、原則として相続人に帰属する。