使用貸借契約|タダによる使用
2025年11月19日
書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識
著者名: 森 章太, 出版社名: 日本実業出版社, 発行年月日: 2022年4月1日, 引用ページ: 不明, ISBNコード: 978-4-534-05917-8
賃借と対比される契約として、使用貸借契約があります。簡単ななどで利用されますが、詳細については知られていないことが多いです。
使用貸借契約は、税理士試験によく出題されています。平成27(2015)年度の相続税法の計算問題では、宅地には「使用貸借契約に基づく権利(使用借権)による敷地利用権が設定されている」と記述されています。
本節では、使用貸借契約(民法)について解説します。
1 使用貸借契約とは?
使用貸借契約とは、貸主がある物(目的物)を引渡すことを約し、借主が目的物を無償で使用収益をして、契約終了時に返還することを約することによって成立する契約です(民法593条)。
借主から貸主に対して、通常の賃料とまで高くなくても使用収益の対価の支払いがある場合に、賃貸ではなく使用貸借と認定されることがあります。目的物が不動産の場合、賃貸借であれば借地借家法の可能性がある一方、借主は保護されないため(1-7(4)参照、1-8(7)参照)、賃貸借なのか使用貸借なのかは当事者にとって重要です。
2 当事者の義務
(1)貸主の義務
貸主は、借主に対して、目的物を使用収益させる義務を負います。もっとも、賃貸借契約とは異なり、使用収益するのに適した状態に置くという作為義務までは負わず、使用収益を妨げないという不作為義務に止まります。
請求権の期間制限
(1)借主の費用償還請求権
借主が貸主に対して、目的物について支出した費用(通常の必要費以外の費用)を償還請求する場合(民法595条2項が準用する583条2項、本節の2(2)イ)は、民法166条1項の消滅時効(3-6(6)参照)が適用されます。
もっとも、借主は、貸主が目的物の返還を受けた時から1年以内に償還請求をしなければなりません(民法600条1項、除斥期間)。使用貸借契約の終了に伴う契約期間の精算を早期に行わせるためです。
(2)貸主の損害賠償請求権
貸主が借主に対して、用法遵守義務違反によって生じた損害の賠償請求をする場合(本節の2(2)ア)は、民法166条1項の消滅時効が適用されます。
もっとも、この損害賠償請求権については、貸主が目的物の返還を受けた時から1年を経過するまでの間は、時効は完成しません(民法600条2項、時効の完成猶予)。使用貸借の存続中は、貸主が目的物の状況を把握することが困難なことが多く、貸主が用法遵守義務違反の事実を知らないうちに消滅時効が完成することを防ぐためです。
そのうえで、貸主は、上記の消滅時効が完成していなくても、目的物の返還を受けた時から1年以内に賠償請求をしなければなりません(民法600条1項、除斥期間)。
5 使用貸借契約の税務
個人間または法人と個人の間で土地の使用貸借契約を締結した場合の課税関係を説明します。なお、個人と法人の間の契約については、解説を省略します。
(1)個人間の使用貸借契約
個人間で土地の使用貸借契約を締結しても、借地権相当額(権利金相当額)について贈与があったものとして、借主に対して贈与税が課されることはありません。(賃貸借による)借地権の設定の対価として権利金などを支払う取引上の慣行がある地域においても、土地の使用貸借に係る使用借権の価額は、ゼロとして取り扱われます。
もっとも、借主は、地代相当額を贈与により取得したものとみなされ(相税9条)、贈与税が課されることはあります。ただし、親族間における使用貸借であり、地代が相当の少額である場合などには、課税されません(相基通9-10)。
なお、土地の貸主が死亡し、使用貸借に係る土地を相続により取得した場合における相続税の課税価格に算入すべき価額は、自用地としての価額となります。冒頭の試験問題において問われている点です。
(2)法人間の使用貸借契約
法人間の土地の使用貸借の場合、法人が無償で貸し付けることはないと考えて、原則として、借地権の認定課税がされます(法法22条2項)。
法人貸主は、受贈収益(認定権利金)の益金算入をし、同額を寄付金として処理します。また、認定権利金の額が土地価額の50%以上の場合、土地の一部が譲渡されたものとして、土地の簿価の一部を損金に算入します(法基通13-1-7)。
これに対して、法人借主は、借地権を資産計上し、同額の受贈収益を益金に算入します。
もっとも、法人借主が使用貸借契約により他人に土地を使用させた場合において、契約書において将来借主が土地を無償で返還することが定められており、かつ、その旨を借主との連名の書面により遅滞なく所轄税務署に届け出たとき(無償返還の届出)は、借地権の認定課税は行われないと定められています(法基通13-1-7)。
無償返還の届出に対しては、法律に基づかない届出によって課税関係が大きく異なるのは公正ではないかという批判があります。
○法人間の土地の使用貸借
1 無償返還の届出なし(借地権の認定課税あり)
(1)法人貸主
寄付金(損金算入制限あり)/ 益金(受贈収益)
(2)法人借主
借地権(資産計上)/ 益金(受贈収益)
2 無償返還の届出あり(借地権の認定課税なし)
(1)法人貸主
寄付金(損金算入制限なし)/ 益金(認定権利金の額が土地価額の50%以上の場合譲渡益(損金算入))
(2)法人借主
借地権(資産計上)/ 受贈益(益金算入)
かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければなりません(民法858条)。
(3)成年後見人の権限の終了
成年後見人の権限は、成年被後見人が死亡したときに終了します。ただし、下記のとおり、管理事務に関する規定があります(民法873条の2)。
成年後見人は、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、①相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為、②相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る)の弁済、及び③その形状を変更することなく期限の到来した相続財産の利用行為をすることができます。ただし、③を為すには、家庭裁判所の許可を得なければなりません。
(4)成年後見人の相続
家庭裁判所は、成年後見人及び成年被後見人の資力その他の事情によって、成年被後見人の財産の中から、相当な報酬を成年後見人に対して与えることができます(民法862条)。家庭裁判所が成年被後見人の財産の中から報酬を与えるので、成年後見人が受け取ることができる基本報酬の目安等は、月額2万円です。管理財産額が高額である場合には、増額されることがあります。親族が成年後見人の場合には、報酬の申立てがされず、報酬が支払われないことが多いです。
最高裁判所は、成年後見人の報酬額について、管理財産額に応じて算定される方式から、財産額の多寡のみによらず増減される方式に変更することを検討しています。
(5)成年後見監督人
家庭裁判所は、必要があると認めるときは、成年後見監督人を選任することができます(民法849条)。成年後見監督人の主たる職務は、成年後見人の事務の監督です(民法851条)。
成年後見監督人は、管理する財産が多額・複雑なため専門家の助言が必要なとき、成年後見人と成年被後見人が利益が相反するとき(例、遺産分割)などに選任されます。
5 任意後見
(1)任意後見契約
任意後見契約とは、本人の事理弁識能力が不十分な状況になった場合における財産管理などの事務の全部または一部を委託する契約(任意後見契約に関する法律3条)。
任意後見契約の締結後、本人の事理弁識能力が不十分となった場合、親族や任意後見受任者などが任意後見監督人の選任を請求し、家庭裁判所がこれを選任すると(同法4条)、任意後見契約の効力が生じ、受任者が任意後見人になります(同法2条1号)。
任意後見契約と同時に、事理弁識能力が十分な状況である現在から死亡するまでの財産管理を委任する契約を締結することがあります。この場合、事理弁識能力が不十分な状況となっても、任意後見監督人の選任がされなければ任意後見が開始されることがあるという問題があります。
(2)任意後見契約の効力
任意後見契約の公正証書が作成されると、公証人から登記所への嘱託により、任意後見契約が登記されます。
(3)任意後見人
任意後見人は、本人の家族が任意後見人になることが多いです。
任意後見人は、契約に定められた委任事務の代理権は与えられますが、本人の法律行為についての取消権や同意権は与えられません。
(4)法定後見との関係
任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り(限定)、法定後見の開始などをすることができます(同法10条1項)。
COLUMN 1 成年被後見人の欠格
平成25(2013)年改正により、成年被後見人となっても、選挙権及び被選挙権を有することになりました。
成年後見制度と選挙制度は、その趣旨目的が全く異なるものであるため、成年後見制度と選挙制度は、その趣旨目的が全く異なるものであるため、選挙権を付与するために必要な判断能力が一定の行為能力が特別視すべき程度まで不足していると予定しているものであるから、成年被後見人とされた者の中に、選挙権を行使するために必要な判断能力を有する者が少なからず含まれていることが理由です。
また、令和元(2019)年の「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律」の成立により、成年被後見人等となった場合に、一定の資格や職種など(例、公務員、警備員)から一律に排除する欠格条項を改め、個別的・実質的に能力の有無を審査・判断されることになりました。これまで欠格条項の存在が成年後見制度の利用を躊躇させる原因の1つとなっていました。
COLUMN 2 成年後見人などによる不正
成年後見人、保佐人、補助人、任意後見人、未成年後見人及び各監督人による不正があり、家庭裁判所が対応を終えたと最高裁判所が報告した件数及び被害金額は、下記のとおりです(「最高裁判所事務総局家庭局 実情調査」)。不正報告件数及び被害額は、平成29年以降、減少しています。
不正報告件数 (うち専門職による件数) 被害額 (うち専門職による額)
平成28(2016)年 831件 (22件) 約56.7億円 (約0.8億円)
平成29(2017)年 294件 (11件) 約19.6億円 (約0.5億円)
令和2(2020)年 186件 (30件) 約17.9億円 (約1.5億円)
COLUMN 3 未成年後見
未成年者に対して親権を行う者がないときなどには、未成年後見が開始します(民法838条1号)。成年後見とは異なり、審判を経ずに当然に後見が開始します。
最後に親権を行う者は遺言で未成年後見人を指定することができます(民法839条1項)。指定がない場合には、家庭裁判所が未成年後見人を選定します(民法840条1項)。実務では、親族などが未成年者を引き取って面倒を見ていることが少なくなく、必ずしも未成年後見人が選任されているわけではありません。
POINT 1
成年後見制度には、法定後見と任意後見がある。法定後見には、本人の事理弁識能力に応じて、(成年)後見、保佐、補助の3類型がある。
精神上の障害により事理弁識能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、親族らの請求により、後見開始の審判をすることができる。
成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産管理に関する事務を行う。
任意後見契約とは、本人に判断能力があるときに、受任者に対して、将来、事理弁識能力が不十分な状況となった場合における財産管理などの事務を委託し、代理権を付与する委任契約をいう。
使用貸借契約は、税理士試験によく出題されています。平成27(2015)年度の相続税法の計算問題では、宅地には「使用貸借契約に基づく権利(使用借権)による敷地利用権が設定されている」と記述されています。
本節では、使用貸借契約(民法)について解説します。
1 使用貸借契約とは?
使用貸借契約とは、貸主がある物(目的物)を引渡すことを約し、借主が目的物を無償で使用収益をして、契約終了時に返還することを約することによって成立する契約です(民法593条)。
借主から貸主に対して、通常の賃料とまで高くなくても使用収益の対価の支払いがある場合に、賃貸ではなく使用貸借と認定されることがあります。目的物が不動産の場合、賃貸借であれば借地借家法の可能性がある一方、借主は保護されないため(1-7(4)参照、1-8(7)参照)、賃貸借なのか使用貸借なのかは当事者にとって重要です。
2 当事者の義務
(1)貸主の義務
貸主は、借主に対して、目的物を使用収益させる義務を負います。もっとも、賃貸借契約とは異なり、使用収益するのに適した状態に置くという作為義務までは負わず、使用収益を妨げないという不作為義務に止まります。
請求権の期間制限
(1)借主の費用償還請求権
借主が貸主に対して、目的物について支出した費用(通常の必要費以外の費用)を償還請求する場合(民法595条2項が準用する583条2項、本節の2(2)イ)は、民法166条1項の消滅時効(3-6(6)参照)が適用されます。
もっとも、借主は、貸主が目的物の返還を受けた時から1年以内に償還請求をしなければなりません(民法600条1項、除斥期間)。使用貸借契約の終了に伴う契約期間の精算を早期に行わせるためです。
(2)貸主の損害賠償請求権
貸主が借主に対して、用法遵守義務違反によって生じた損害の賠償請求をする場合(本節の2(2)ア)は、民法166条1項の消滅時効が適用されます。
もっとも、この損害賠償請求権については、貸主が目的物の返還を受けた時から1年を経過するまでの間は、時効は完成しません(民法600条2項、時効の完成猶予)。使用貸借の存続中は、貸主が目的物の状況を把握することが困難なことが多く、貸主が用法遵守義務違反の事実を知らないうちに消滅時効が完成することを防ぐためです。
そのうえで、貸主は、上記の消滅時効が完成していなくても、目的物の返還を受けた時から1年以内に賠償請求をしなければなりません(民法600条1項、除斥期間)。
5 使用貸借契約の税務
個人間または法人と個人の間で土地の使用貸借契約を締結した場合の課税関係を説明します。なお、個人と法人の間の契約については、解説を省略します。
(1)個人間の使用貸借契約
個人間で土地の使用貸借契約を締結しても、借地権相当額(権利金相当額)について贈与があったものとして、借主に対して贈与税が課されることはありません。(賃貸借による)借地権の設定の対価として権利金などを支払う取引上の慣行がある地域においても、土地の使用貸借に係る使用借権の価額は、ゼロとして取り扱われます。
もっとも、借主は、地代相当額を贈与により取得したものとみなされ(相税9条)、贈与税が課されることはあります。ただし、親族間における使用貸借であり、地代が相当の少額である場合などには、課税されません(相基通9-10)。
なお、土地の貸主が死亡し、使用貸借に係る土地を相続により取得した場合における相続税の課税価格に算入すべき価額は、自用地としての価額となります。冒頭の試験問題において問われている点です。
(2)法人間の使用貸借契約
法人間の土地の使用貸借の場合、法人が無償で貸し付けることはないと考えて、原則として、借地権の認定課税がされます(法法22条2項)。
法人貸主は、受贈収益(認定権利金)の益金算入をし、同額を寄付金として処理します。また、認定権利金の額が土地価額の50%以上の場合、土地の一部が譲渡されたものとして、土地の簿価の一部を損金に算入します(法基通13-1-7)。
これに対して、法人借主は、借地権を資産計上し、同額の受贈収益を益金に算入します。
もっとも、法人借主が使用貸借契約により他人に土地を使用させた場合において、契約書において将来借主が土地を無償で返還することが定められており、かつ、その旨を借主との連名の書面により遅滞なく所轄税務署に届け出たとき(無償返還の届出)は、借地権の認定課税は行われないと定められています(法基通13-1-7)。
無償返還の届出に対しては、法律に基づかない届出によって課税関係が大きく異なるのは公正ではないかという批判があります。
○法人間の土地の使用貸借
1 無償返還の届出なし(借地権の認定課税あり)
(1)法人貸主
寄付金(損金算入制限あり)/ 益金(受贈収益)
(2)法人借主
借地権(資産計上)/ 益金(受贈収益)
2 無償返還の届出あり(借地権の認定課税なし)
(1)法人貸主
寄付金(損金算入制限なし)/ 益金(認定権利金の額が土地価額の50%以上の場合譲渡益(損金算入))
(2)法人借主
借地権(資産計上)/ 受贈益(益金算入)
かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければなりません(民法858条)。
(3)成年後見人の権限の終了
成年後見人の権限は、成年被後見人が死亡したときに終了します。ただし、下記のとおり、管理事務に関する規定があります(民法873条の2)。
成年後見人は、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、①相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為、②相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る)の弁済、及び③その形状を変更することなく期限の到来した相続財産の利用行為をすることができます。ただし、③を為すには、家庭裁判所の許可を得なければなりません。
(4)成年後見人の相続
家庭裁判所は、成年後見人及び成年被後見人の資力その他の事情によって、成年被後見人の財産の中から、相当な報酬を成年後見人に対して与えることができます(民法862条)。家庭裁判所が成年被後見人の財産の中から報酬を与えるので、成年後見人が受け取ることができる基本報酬の目安等は、月額2万円です。管理財産額が高額である場合には、増額されることがあります。親族が成年後見人の場合には、報酬の申立てがされず、報酬が支払われないことが多いです。
最高裁判所は、成年後見人の報酬額について、管理財産額に応じて算定される方式から、財産額の多寡のみによらず増減される方式に変更することを検討しています。
(5)成年後見監督人
家庭裁判所は、必要があると認めるときは、成年後見監督人を選任することができます(民法849条)。成年後見監督人の主たる職務は、成年後見人の事務の監督です(民法851条)。
成年後見監督人は、管理する財産が多額・複雑なため専門家の助言が必要なとき、成年後見人と成年被後見人が利益が相反するとき(例、遺産分割)などに選任されます。
5 任意後見
(1)任意後見契約
任意後見契約とは、本人の事理弁識能力が不十分な状況になった場合における財産管理などの事務の全部または一部を委託する契約(任意後見契約に関する法律3条)。
任意後見契約の締結後、本人の事理弁識能力が不十分となった場合、親族や任意後見受任者などが任意後見監督人の選任を請求し、家庭裁判所がこれを選任すると(同法4条)、任意後見契約の効力が生じ、受任者が任意後見人になります(同法2条1号)。
任意後見契約と同時に、事理弁識能力が十分な状況である現在から死亡するまでの財産管理を委任する契約を締結することがあります。この場合、事理弁識能力が不十分な状況となっても、任意後見監督人の選任がされなければ任意後見が開始されることがあるという問題があります。
(2)任意後見契約の効力
任意後見契約の公正証書が作成されると、公証人から登記所への嘱託により、任意後見契約が登記されます。
(3)任意後見人
任意後見人は、本人の家族が任意後見人になることが多いです。
任意後見人は、契約に定められた委任事務の代理権は与えられますが、本人の法律行為についての取消権や同意権は与えられません。
(4)法定後見との関係
任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り(限定)、法定後見の開始などをすることができます(同法10条1項)。
COLUMN 1 成年被後見人の欠格
平成25(2013)年改正により、成年被後見人となっても、選挙権及び被選挙権を有することになりました。
成年後見制度と選挙制度は、その趣旨目的が全く異なるものであるため、成年後見制度と選挙制度は、その趣旨目的が全く異なるものであるため、選挙権を付与するために必要な判断能力が一定の行為能力が特別視すべき程度まで不足していると予定しているものであるから、成年被後見人とされた者の中に、選挙権を行使するために必要な判断能力を有する者が少なからず含まれていることが理由です。
また、令和元(2019)年の「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律」の成立により、成年被後見人等となった場合に、一定の資格や職種など(例、公務員、警備員)から一律に排除する欠格条項を改め、個別的・実質的に能力の有無を審査・判断されることになりました。これまで欠格条項の存在が成年後見制度の利用を躊躇させる原因の1つとなっていました。
COLUMN 2 成年後見人などによる不正
成年後見人、保佐人、補助人、任意後見人、未成年後見人及び各監督人による不正があり、家庭裁判所が対応を終えたと最高裁判所が報告した件数及び被害金額は、下記のとおりです(「最高裁判所事務総局家庭局 実情調査」)。不正報告件数及び被害額は、平成29年以降、減少しています。
不正報告件数 (うち専門職による件数) 被害額 (うち専門職による額)
平成28(2016)年 831件 (22件) 約56.7億円 (約0.8億円)
平成29(2017)年 294件 (11件) 約19.6億円 (約0.5億円)
令和2(2020)年 186件 (30件) 約17.9億円 (約1.5億円)
COLUMN 3 未成年後見
未成年者に対して親権を行う者がないときなどには、未成年後見が開始します(民法838条1号)。成年後見とは異なり、審判を経ずに当然に後見が開始します。
最後に親権を行う者は遺言で未成年後見人を指定することができます(民法839条1項)。指定がない場合には、家庭裁判所が未成年後見人を選定します(民法840条1項)。実務では、親族などが未成年者を引き取って面倒を見ていることが少なくなく、必ずしも未成年後見人が選任されているわけではありません。
POINT 1
成年後見制度には、法定後見と任意後見がある。法定後見には、本人の事理弁識能力に応じて、(成年)後見、保佐、補助の3類型がある。
精神上の障害により事理弁識能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、親族らの請求により、後見開始の審判をすることができる。
成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産管理に関する事務を行う。
任意後見契約とは、本人に判断能力があるときに、受任者に対して、将来、事理弁識能力が不十分な状況となった場合における財産管理などの事務を委託し、代理権を付与する委任契約をいう。