認知|あなたは私の子
2025年11月19日
書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識
著者名: 森 章太, 出版社名: 日本実業出版社, 発行年月日: 2022年4月1日, 引用ページ: 不明, ISBNコード: 978-4-534-05917-8
認知は、相続人としての地位の有無に影響するため、税理士試験の相続税法の計算問題によく出題されています。
平成27(2015)年度において、「子Xは嫡出でない子であり、被相続人甲は生前に認知している」、平成24(2012)年度においては、「子Xは非嫡出子であり、被相続人甲は生前に認知している」と出題されています。
本節では、認知(民法)について解説します。
1 任意認知
(1)認知とは?
父または母は、「嫡出でない子」を認知することができます(民法779条)。「嫡出でない子」というのは、婚姻関係にない男女から生まれた子のことであり、「婚外子」や「非嫡出子」と呼んだりします。
認知は、婚外子との間に法律上の親子関係を発生させる法律行為です。認知されない場合、自然の血縁関係があったとしても、相続権を有しないなどの不利益が生じます。
(2)母子関係
法律上の母子関係は、原則として、母の認知を待たず、分娩の事実によって当然に発生するので、母の認知は問題とはなりません。DNA鑑定などによって証明される血縁上の母子関係は、分娩の事実を基礎づけることになります。
平成26(2018)年度税理士試験の相続税法の計算問題では、被相続人Xの「子は嫡出でない子である」としか記載されておらず、本節の冒頭で紹介した試験問題とは異なり、認知の有無については触れられていません。しかしながら、法律上の母子関係は、分娩の事実により当然に発生するので、子は(被相続人である母の)相続人となります。
(3)父子関係
認知は、婚外子との間に法律上の父子関係を成立させます。
民法の考え方として、原則として、自然的血縁関係を基礎において法律上の父子関係を成立させるものとしていますが、例外的に、血縁上の父子関係と法律上の父子関係に差異が生ずる場合を認めています。例外的な場合として、父の認知に子の承諾を得ない場合や、子の否認の訴え(本節のCOLUMN2)などが挙げられます。
(4)認知の要件
認知は、戸籍の届出などにより届け出ることによって行います(民法781条1項)。届出が受理されることにより、認知の効力が生じます。また、認知は、遺言によっても行うことができます(同条2項)。
認知が有効であるためには、血縁上の父子関係がある子を認知する必要があり、届出のときには、父子関係の証明までは求められません。
成年の子を認知するには、その子の承諾を得なければなりません(民法782条)。成年するまでに承諾された子が自由に受けない扶養義務を避けることなどを防ぐためです。また、胎児を認知するには、その母の承諾を得なければなりません(民法783条1項)。認知が真実であることを確保するためです。
一方、未成年の子を認知するときは、父又は母の一方的に行うことができます。これに対して、自然的な血縁関係がない場合、子などは認知の無効を主張することができます(民法786条)。
2 強制認知
(1)強制認知とは?
子などは、任意に認知しない父に対して、認知の訴えを提起することができます(民法787条、強制認知)。これによって法律上の父子関係が発生することになります。
父が死亡した場合には、検察官を被告として、認知の訴えを提起することができます。
(2)父子関係の説明
認知の訴えにおいて、自然的な血縁関係があることを証明する責任は、子など(原告)にあります。当事者双方の同意でDNA鑑定が行われることも多いですが、当事者に当事者鑑定を強制させる規定はありません。
(3)認知の効果
認知によって、法律上の父子関係が子の出生時に遡って生じます(民法784条)。父子間に相続権や扶養義務などが生じます。
4 相続開始後に認知された者の価額支払請求権
父の死亡後に、父子関係についての認知によって相続人になった者がいる場合において、その者を抜いて既に遺産の分割が成立しているときは、相続分の支払請求を行うことになるので、本来であれば遺産分割は無効となるところを規定しています。
しかしながら、遺産分割は有効のまま、認知により相続人になった者が、他の共同相続人に対して、相続分に応じた価額支払請求権を有することを認めています(民法910条)。法律関係の安定と認知された者の保護が図られています。
ただし、民法910条は、認知の遡及効にかかわらず、他の共同相続人らが相続権を失わないことが前提です。認知の遡及効により相続権を失った者が遺産分割を行った場合には、遺産分割は無効となります。
なお、法律上の母子関係については、分娩の事実により当然に発生するので、被相続人である母の婚外子が存在し遺産分割後に判明した場合には、遺産の再分割をすることになると解されています。
COLUMN 1 認知された婚外子の法定相続分
嫡出子と認知された婚外子がいる場合、現在では両者の法定相続分は等しいことになっていますが、平成25(2013)年12月までは、婚外子の法定相続分は嫡出子の1/2であるとする規定がありました。
本節の冒頭で紹介した平成24(2012)年度の試験問題では、当該規定を前提として問題を解くことが求められていました。
民法が改正されたのは、最高裁判所が、当該規定は、「憲法14条(法の下の平等)に違反する」と判断したからです。
最高裁平成25(2013)年9月4日判決・裁判所Webは、「憲法22条(居住移転職業選択の自由)から時代までの社会の動向、我が国における家族形態の多様化やこれに伴う国民の意識の変化、諸外国の立法のすう勢及び我が国が批准した条約の内容と矛盾することを考慮すると、婚外子と嫡出子の法定相続分に差別を設けることは、これを改めるための立法措置が採られなかったことによるのであって、婚外子を子に持つ親の婚姻歴の有無という選択ないし変更する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているということができる」と判示しました。
以上を踏まえれば、「遅くとも相続の開始した平成13年7月当時において、法定相続分の差を合理化するものではなく、嫡出でない子の法定相続分を差別する合理的な根拠は失われていたというべきである」と判断しました。
なお、被相続人の非嫡出子が相続人である場合において、相続人に非嫡出子と半血兄弟姉妹がいるときは、半血兄弟姉妹の法定相続分は、全血兄弟姉妹の法定相続分である(民法900条4号)は適用していません。半血兄弟姉妹は、平成22年度税理士試験の相続税法の計算問題に出題されています。
COLUMN 2 死後懐胎子による認知の訴え
冷凍保存した夫の精子を夫の死亡後に用いて生まれた子の母(元妻)により、夫の死亡した子であることについて認知を求める訴訟を提起した事案がありました。
最高裁平成18(2006)年9月4日判決・裁判所Webは、「民法が親子関係に関する法規は、自然懐胎により親子関係を基礎として、その法律関係について、母子関係については分娩の事実を重視して、その間に法律上の親子関係を認めるものとする。この規律に照らせば、死後懐胎による親子関係を認めるものとは解されない」と判示しました。
ところで、現在の生殖補助医療を用いると、自然懐胎の可能性の一部を代替するものにとどまらず、生殖補助医療を用いた生殖も可能とするまでになっており、死後懐胎子はこのような人工生殖により出生した子に当たるところ、上記通達は、少なくとも死後懐胎子と死亡した父との間の親子関係を想定していないことは、明らかである。すなわち、死後懐胎子については、その父が懐胎前に死亡しているため、懐胎前に父がその子の懐胎の可能性を知り得たとは考えられず、扶養、養育、扶養を受けることはあり得ず、相続に関しては、死後懐胎子が父の相続人になり得ないものという「そうすると、その者との間の法律上の親子関係の形成に関する問題は、本来的には、死亡した者の保存精子を用いる人工生殖に関する生命倫理、生まれたくる子の福祉、親子関係の規律全体を視野に入れることになる関係者の意識、更にはこれらに関する社会一般の考え等を多角的な観点から検討を行った上、親子関係を認めるべきか否か、認めるとした場合の要件や効果を定める立法によって解決されるべき問題であるといわなければならず、そのような立法がない以上、死後懐胎子と死亡した父との間の法律上の親子関係の成立は認められないというべきである」と判示しました。死後懐胎子は、法律上の父が存在しえない子となります。
自然生殖では生まれることのない死後懐胎子について、民法の枠内において法の欠缺の解釈の問題として法律上の父子関係を考えるのではなく、民法が想定しておらず民法が予定しない以上、法律上の父子関係は認められないと、上記判決は判断しています。
POINT 1
認知は、婚外子との間に法律上の父子関係を成立させるものである。
子などは、認知しない父に対して、認知の訴えを提起することができる。
認知によって、法律上の父子関係が子の出生時に遡って生じる。
平成27(2015)年度において、「子Xは嫡出でない子であり、被相続人甲は生前に認知している」、平成24(2012)年度においては、「子Xは非嫡出子であり、被相続人甲は生前に認知している」と出題されています。
本節では、認知(民法)について解説します。
1 任意認知
(1)認知とは?
父または母は、「嫡出でない子」を認知することができます(民法779条)。「嫡出でない子」というのは、婚姻関係にない男女から生まれた子のことであり、「婚外子」や「非嫡出子」と呼んだりします。
認知は、婚外子との間に法律上の親子関係を発生させる法律行為です。認知されない場合、自然の血縁関係があったとしても、相続権を有しないなどの不利益が生じます。
(2)母子関係
法律上の母子関係は、原則として、母の認知を待たず、分娩の事実によって当然に発生するので、母の認知は問題とはなりません。DNA鑑定などによって証明される血縁上の母子関係は、分娩の事実を基礎づけることになります。
平成26(2018)年度税理士試験の相続税法の計算問題では、被相続人Xの「子は嫡出でない子である」としか記載されておらず、本節の冒頭で紹介した試験問題とは異なり、認知の有無については触れられていません。しかしながら、法律上の母子関係は、分娩の事実により当然に発生するので、子は(被相続人である母の)相続人となります。
(3)父子関係
認知は、婚外子との間に法律上の父子関係を成立させます。
民法の考え方として、原則として、自然的血縁関係を基礎において法律上の父子関係を成立させるものとしていますが、例外的に、血縁上の父子関係と法律上の父子関係に差異が生ずる場合を認めています。例外的な場合として、父の認知に子の承諾を得ない場合や、子の否認の訴え(本節のCOLUMN2)などが挙げられます。
(4)認知の要件
認知は、戸籍の届出などにより届け出ることによって行います(民法781条1項)。届出が受理されることにより、認知の効力が生じます。また、認知は、遺言によっても行うことができます(同条2項)。
認知が有効であるためには、血縁上の父子関係がある子を認知する必要があり、届出のときには、父子関係の証明までは求められません。
成年の子を認知するには、その子の承諾を得なければなりません(民法782条)。成年するまでに承諾された子が自由に受けない扶養義務を避けることなどを防ぐためです。また、胎児を認知するには、その母の承諾を得なければなりません(民法783条1項)。認知が真実であることを確保するためです。
一方、未成年の子を認知するときは、父又は母の一方的に行うことができます。これに対して、自然的な血縁関係がない場合、子などは認知の無効を主張することができます(民法786条)。
2 強制認知
(1)強制認知とは?
子などは、任意に認知しない父に対して、認知の訴えを提起することができます(民法787条、強制認知)。これによって法律上の父子関係が発生することになります。
父が死亡した場合には、検察官を被告として、認知の訴えを提起することができます。
(2)父子関係の説明
認知の訴えにおいて、自然的な血縁関係があることを証明する責任は、子など(原告)にあります。当事者双方の同意でDNA鑑定が行われることも多いですが、当事者に当事者鑑定を強制させる規定はありません。
(3)認知の効果
認知によって、法律上の父子関係が子の出生時に遡って生じます(民法784条)。父子間に相続権や扶養義務などが生じます。
4 相続開始後に認知された者の価額支払請求権
父の死亡後に、父子関係についての認知によって相続人になった者がいる場合において、その者を抜いて既に遺産の分割が成立しているときは、相続分の支払請求を行うことになるので、本来であれば遺産分割は無効となるところを規定しています。
しかしながら、遺産分割は有効のまま、認知により相続人になった者が、他の共同相続人に対して、相続分に応じた価額支払請求権を有することを認めています(民法910条)。法律関係の安定と認知された者の保護が図られています。
ただし、民法910条は、認知の遡及効にかかわらず、他の共同相続人らが相続権を失わないことが前提です。認知の遡及効により相続権を失った者が遺産分割を行った場合には、遺産分割は無効となります。
なお、法律上の母子関係については、分娩の事実により当然に発生するので、被相続人である母の婚外子が存在し遺産分割後に判明した場合には、遺産の再分割をすることになると解されています。
COLUMN 1 認知された婚外子の法定相続分
嫡出子と認知された婚外子がいる場合、現在では両者の法定相続分は等しいことになっていますが、平成25(2013)年12月までは、婚外子の法定相続分は嫡出子の1/2であるとする規定がありました。
本節の冒頭で紹介した平成24(2012)年度の試験問題では、当該規定を前提として問題を解くことが求められていました。
民法が改正されたのは、最高裁判所が、当該規定は、「憲法14条(法の下の平等)に違反する」と判断したからです。
最高裁平成25(2013)年9月4日判決・裁判所Webは、「憲法22条(居住移転職業選択の自由)から時代までの社会の動向、我が国における家族形態の多様化やこれに伴う国民の意識の変化、諸外国の立法のすう勢及び我が国が批准した条約の内容と矛盾することを考慮すると、婚外子と嫡出子の法定相続分に差別を設けることは、これを改めるための立法措置が採られなかったことによるのであって、婚外子を子に持つ親の婚姻歴の有無という選択ないし変更する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているということができる」と判示しました。
以上を踏まえれば、「遅くとも相続の開始した平成13年7月当時において、法定相続分の差を合理化するものではなく、嫡出でない子の法定相続分を差別する合理的な根拠は失われていたというべきである」と判断しました。
なお、被相続人の非嫡出子が相続人である場合において、相続人に非嫡出子と半血兄弟姉妹がいるときは、半血兄弟姉妹の法定相続分は、全血兄弟姉妹の法定相続分である(民法900条4号)は適用していません。半血兄弟姉妹は、平成22年度税理士試験の相続税法の計算問題に出題されています。
COLUMN 2 死後懐胎子による認知の訴え
冷凍保存した夫の精子を夫の死亡後に用いて生まれた子の母(元妻)により、夫の死亡した子であることについて認知を求める訴訟を提起した事案がありました。
最高裁平成18(2006)年9月4日判決・裁判所Webは、「民法が親子関係に関する法規は、自然懐胎により親子関係を基礎として、その法律関係について、母子関係については分娩の事実を重視して、その間に法律上の親子関係を認めるものとする。この規律に照らせば、死後懐胎による親子関係を認めるものとは解されない」と判示しました。
ところで、現在の生殖補助医療を用いると、自然懐胎の可能性の一部を代替するものにとどまらず、生殖補助医療を用いた生殖も可能とするまでになっており、死後懐胎子はこのような人工生殖により出生した子に当たるところ、上記通達は、少なくとも死後懐胎子と死亡した父との間の親子関係を想定していないことは、明らかである。すなわち、死後懐胎子については、その父が懐胎前に死亡しているため、懐胎前に父がその子の懐胎の可能性を知り得たとは考えられず、扶養、養育、扶養を受けることはあり得ず、相続に関しては、死後懐胎子が父の相続人になり得ないものという「そうすると、その者との間の法律上の親子関係の形成に関する問題は、本来的には、死亡した者の保存精子を用いる人工生殖に関する生命倫理、生まれたくる子の福祉、親子関係の規律全体を視野に入れることになる関係者の意識、更にはこれらに関する社会一般の考え等を多角的な観点から検討を行った上、親子関係を認めるべきか否か、認めるとした場合の要件や効果を定める立法によって解決されるべき問題であるといわなければならず、そのような立法がない以上、死後懐胎子と死亡した父との間の法律上の親子関係の成立は認められないというべきである」と判示しました。死後懐胎子は、法律上の父が存在しえない子となります。
自然生殖では生まれることのない死後懐胎子について、民法の枠内において法の欠缺の解釈の問題として法律上の父子関係を考えるのではなく、民法が想定しておらず民法が予定しない以上、法律上の父子関係は認められないと、上記判決は判断しています。
POINT 1
認知は、婚外子との間に法律上の父子関係を成立させるものである。
子などは、認知しない父に対して、認知の訴えを提起することができる。
認知によって、法律上の父子関係が子の出生時に遡って生じる。