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税理士の知識

相続欠格と相続廃除|相続人から外す

2025年11月19日

書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識
著者名: 森 章太, 出版社名: 日本実業出版社, 発行年月日: 2022年4月1日, 引用ページ: 不明, ISBNコード: 978-4-534-05917-8

相続欠格・相続廃除は、相続税法を学習する際に、相続開始前の期間の死亡保険金、代襲相続の発生原因として登場します(民法887条2項)。
本節では、相続欠格と相続廃除(民法)について解説します。

1 相続権の剥奪
相続欠格と相続廃除は、(推定)相続人から相続権を剥奪する制度です。

(1)相続欠格とは?
相続欠格とは、相続による財産取得の秩序を侵害する行為を行った場合に、家族関係の適正な秩序を維持するという公益の理由から、被相続人の意思にかかわらず法律上の制度として相続資格を当然に喪失させる制度です(民法891条)。

(2)欠格事由
ア 1号事由
まず、故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者は、相続人となることができません。
「故意」に限定されており、殺人についての故意(殺意)が必要です。過失致死の場合には、死亡の結果が発生していても相続欠格とはなりません。欠格事由に該当し、殺人について故意がある以上、未必の故意でも認められます。
また、「刑に処せられた者」と規定されています。有罪となって執行猶予の判決を受けた者は、取り消されること(刑法25条の2、26条の2)なく執行猶予期間が満了すれば、刑の言渡しが効力を失うので、「刑に処せられた者」に該当しません。
イ 5号事由
また、「相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者」は、相続人となることができません。相続に関して不当な利益を得ることを目的として、不正なことを要件となります。
遺言書の内容を自分に有利な内容に書き換えることは当然に該当しますが、公正証書遺言の存在を知りながら隠匿した場合も該当します。

(3)欠格の効果
欠格事由に該当すると、当然に相続権を失います。
欠格者に子(被相続人の直系卑属に限る)がいるときは、子は代襲相続人になります(民法887条2項)。

3 相続廃除
(1)相続廃除とは?
相続廃除とは、被相続人(または遺言執行者)の請求により、家庭裁判所が推定相続人の相続権を喪失させる制度です(民法892条、893条)。家庭裁判所は、後見的見地から除外事由に該当するかどうかを決定します。
令和2(2020)年度において、家庭裁判所において認容されたものは95件であり、相続廃除が認められることは少ないです(司法統計)。

(2)除外事由と効果
廃除対象者は、遺留分(3-23(4) p.277)を有する推定相続人に限られます(民法892条)。被相続人の父母姉妹は、遺留分を有しておらず(民法1042条)、廃除対象にはなりません。被相続人は、遺言によって遺留分を放棄させることはできないので、廃除によってその効果を有効にすることができます。

(3)廃除事由
廃除は、被相続人に対する虐待・重大な侮辱、またはその他の著しい非行があったときに、家庭裁判所への請求から推定相続人の遺留分を剥奪することができます。虐待・侮辱・非行の内容は、相続関係(婚姻関係、親子関係)を破壊するものであることから、被相続人の財産の承継や遺族の生計の保障などが問題となります。

(4)相続廃除の効果
相続廃除の審判が確定することによって、廃除対象者は相続権を失います。
廃除対象者に子(被相続人の直系卑属に限る)がいるときは、子は代襲相続人になります(民法887条2項)。

(5)廃除の取消し
被相続人は、いつでも廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができます(民法894条1項)。
「故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者」や、「相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者」は、相続人となることはできません。
相続廃除とは、被相続などの請求により、家庭裁判所が推定相続人の相続資格を喪失させる制度である。
廃除事由は、被相続人に対する虐待・重大な侮辱、または推定相続人のその他の著しい非行である。

COLUMN 1 「カラマーゾフの兄弟」と欠格・廃除
ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」は、大谷翔平がテーマとなっていたり、日本の現代の相続欠格と相続廃除の規定を連想させるところがあるなど、興味深いと思います。
父フョードル・カラマーゾフがグルーシェニカと再婚し、グルーシェニカが父フョードルの全財産を自分のものにしてしまうことを阻止するために、子が父フョードルを殺害したのであれば、欠格事由に該当し、子は相続権を失います。
また、長男ドミートリー・カラマーゾフは、突然実家に帰ってきて、父フョードルを床に投げ飛ばし、倒れた父フョードルの頭を踵で2、3回蹴りつけ、「たばこはなかったら、また殺しに来てやる」とわめきちらします。父フョードルは、長男ドミートリーに遺産を渡したくないのであれば、自分に対する虐待に該当するとして、相続廃除を請求するという方法があります。

COLUMN 2 江戸時代の勘当
勘当とは、親子関係を断つことであり、昔の日本では勘当されると相続権が剥奪されました。奉行所に届け出て関係を断つのが本来のあり方ですが、公式でなくても懲戒的な意味を持たせるだけの内証勘当も行われました。
現在の日本の法制度においては、実親子関係を切断して相続権を剥奪する制度はありません(特別養子縁組(3-13(3)参照)は除く)。

POINT 1
相続欠格とは、被相続人の意思にかかわらずに民事上の制裁として相続権