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税理士の知識

特別縁故者に対する相続財産の分与|誰もいないなら私が…

2025年11月19日

書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識
著者名: 森 章太, 出版社名: 日本実業出版社, 発行年月日: 2022年4月1日, 引用ページ: 不明, ISBNコード: 978-4-534-05917-8

令和元(2019)年度税理士試験の相続税法の理論問題において、災害があった場合に使用が求められている相続税の課税価格の計算の特例について、適用が可能とされている相続税の課税価格の計算の特例について、「民法958条の3に規定する特別縁故者に対する相続財産の分与についての記載は要しない」とされています。
特別縁故者に対する相続財産の分与が相続財産において、どのように位置づけられているのか気になるところです。
本節では、特別縁故者への相続財産の分与(民法)について解説します。

1 相続人のあることが明らかでない場合
相続人が死亡して、相続人のあることが明らかでない場合(例、戸籍上相続人がいない場合、戸籍上の相続人全員が相続放棄(3-15(1)参照)した場合)には、相続財産の管理及び清算をするために、相続財産管理人を法人とします(民法951条)。なお、法人としての設立登記などの手続は不要です。
そして、利害関係人などの請求によって、家庭裁判所は、相続財産管理人を選任します(民法952条)。相続財産管理人は、相続人を(念のために)捜索したり、相続財産を保全したり、相続債権者などに弁済したりします(民法953条~958条)。
令和2(2020)年度においては、相続財産管理人選任(相続人不存在)の申立ては2万3611件でした(司法統計)。
相続財産管理人が民法に定める手続を行った後、相続財産が存在し、相続財産を処分する場合には、特別縁故者に分与する制度(本節の2)があります。
最終的に残った相続財産は国庫に帰属します(民法959条)。本節のCOLUMN1。
相続人が相続財産などを占有する前に国庫に帰属するわけではなく、上記手続を経て国庫に帰属します。

2 特別縁故者に対する相続財産の分与
相続人の不存在が確定し、清算の結果、相続財産が残った場合には、特別縁故者が相続人捜索の期間の満了後3ヶ月以内に家庭裁判所に請求することによって、相続財産の全部または一部が分与されます(民法958条の3)。特別縁故とは、被相続人と密接な人的関係を前提とし、生前の意思を推測する趣旨(3-26(2)参照)と相続財産を給与する制度と考えられています。
特別縁故者には、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者、被相続人に特別の縁故があった者が該当します。例えば、献身的に介護をしていた内縁の配偶者などがこれにあたります。
特別縁故者に相続財産を分与するかどうか、分与する場合には相続財産の全部なのか一部なのかは、家庭裁判所の裁量により決められます。家庭裁判所の審判によって分与される財産が確定し、相続財産管理人から特別縁故者に財産が移転することになります。
令和2(2020)年度においては、特別縁故者に対する相続財産の分与の申立て(終受)が1138件あり、認容された件数は890件でした(司法統計)。
課税関係として、特別縁故者が分与を受けた相続財産は、遺贈により取得したものとみなされ、相続税が課されます(相続税法4条)。(一般所得)が課されるのではありません。

COLUMN1 国庫帰属
相続財産が国庫に帰属すると、国の財産が増えることになります。
令和2(2020)年度に国庫に帰属した相続財産は603億円でした(財務省新聞Web・令和3(2021)年2月4日)。しかしながら、国庫に入ることなく埋蔵されている遺産があるかもしれません。
例えば、最近化した兵庫県の旧武庫郡にあった「世界平和観音像」が令和2(2020)年3月30日に国庫に帰属することになりました。観音像は約100mの高さの巨大なものであり、所有者(被相続人)が死亡した平成18(2006)年以降閉鎖されていましたが、老朽化により危険性などが生じていました。国は8.8億円をかけて観音像の解体撤去工事を進めています。

COLUMN2 所有者不明土地
不動産登記簿謄本などにより調査しても所有者が判明しない、または判明しても連絡がつかない土地の存在が社会問題になっています。土地所有者の危険や悪意の放棄が放置されていたり、震災後の復興の阻害になったりします。
所有者不明土地の発生予防と利用円滑化のため、令和3(2021)年4月21日、「民法等の一部を改正する法律」及び「相続等により取得した土地所有権の国への帰属に関する法律」が成立しました。原則として、令和5(2023)年4月27日までに施行されます。
①不動産を取得した相続人は、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請を行うことが義務づけられます。正当な理由のない申請漏れには、過料の前科があります。
②相続または遺贈(相続人に対する遺贈に限る)により取得した土地を放棄して、国庫に帰属させることが可能となります。ただし、管理コストの国への転嫁や土地の管理をおろそかにするモラルハザードが発生するおそれを考慮して、一定の要件を設定し、法務大臣が審査します。審査手数料のほか、承認された場合には、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の土地管理費相当額の負担金の支払いが求められます。
③相続開始から10年を経過したときは、具体的相続分(3-26(2)参照)による遺産の分割利益を消滅させ、画一的な法定相続分で遺産分割を行う仕組みが創設されます。

COLUMN3 空き家
総務省の住宅・土地統計調査(平成30(2018)年)によると、全国の空き家のうち半分以上(52.2%)が相続・贈与により取得したものとなっています。
適切な管理が行われていない空き家が防災、衛生、景観などの地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしているため、「空家等対策の推進に関する特別措置法」が制定され、所有者に適切な管理を促すことができましたが、所有者が不明であったり、放棄すれば国庫に帰属すると考えられていることなどから、必ずしも問題を解決しているわけではありません。
その結果、国または地方公共団体が代執行を行うこともありました。令和元(2019)年、令和2(2020)年までに行われた代執行は195件の代執行が行われました。
分譲マンションの場合、解体するには原則として所有者全員の同意が必要になるので、1人でも反対すると解体できません(3-5(4) p.182参照)。解体できないまま老朽化し、行政代執行により解体された事例もあります。

POINT 1
相続人のあることが明らかでない場合には、利害関係人などの請求によって、家庭裁判所は、相続財産管理人を選任する。

相続財産管理人が民法に定める手続を行った後、相続人の不存在が確定し、相続財産が残った場合には、特別縁故者に分与する可能性がある。

特別縁故者とは、被相続人と生計を同じくしていた者、療養看護に努めた者などである。特別縁故者に相続財産を分与するかどうか、分与する場合には相続財産の全部なのか一部なのかは、家庭裁判所の裁量により決められる。

最終的に残った相続財産は国庫に帰属する。