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税理士の知識

祭祀財産と葬式費用|千の風になって…

2025年11月19日

書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識
著者名: 森 章太, 出版社名: 日本実業出版社, 発行年月日: 2022年4月1日, 引用ページ: 不明, ISBNコード: 978-4-534-05917-8

税理士試験の相続税法の計算問題には、祭祀財産や葬式費用が出題されています。
令和3(2021)年度の試験問題では、配偶者が取得する祭祀財産に日常礼拝の用に供している仏壇等60万円が含まれています。令和2(2020)年度の試験問題では、遺産に墓地300万円が含まれています。
また、令和3(2021)年度の試験問題では、被相続人の通夜及び葬式に要した費用は、すべて養子Aが負担したとされています。
試験問題では、祭祀財産の取得者や葬式費用の負担者は既に決まっていますが、実務においては、取得者や負担者をめぐり争いとなることがあります。
本節では、祭祀財産と葬式費用(民法)について解説します。

1 祭祀財産
祭祀財産とは、系譜(例、家系図)、祭具(例、仏壇、位牌)及び墳墓(例、墓石)をいいます。墓地は、墳墓そのものではありませんが、墳墓に準じて取り扱われます。
祭祀財産は、祭祀主宰者が承継します(民法897条)。祭祀主宰者は、第1に被相続人の指定、第2に(被相続人の指定がないときは)慣習、第3に(被相続人の指定がなく慣習が明らかでないときは)家庭裁判所の審判によって決まります。
もっとも、被相続人から祭祀主宰者に指定されても、祭祀を行う法律上の義務は負いません。
家庭裁判所の審判では、「承継候補者と被相続人との間の身分関係や事実上の生活関係、承継候補者と祭具等との間の場所的関係、祭具等の取得の目的や管理等の経緯、承継候補者の祭祀主宰の意思や能力、その他の一切の事情(例えば利害関係人全員の生活状況及び意見等)を総合して判断すべきであるが、被相続人の生前の意思や故人に対する愛情、感謝の気持ちといった関係者の主観的事情はそれ自体で決定的要因とはならない」と判断したものや、「被相続人との親族関係等からみて、相続人等の中から選ばれるのが通常であるが、相続人以外の者であっても、被相続人との間で緊密な関係を保ち、被相続人の死亡後もその者を慕ううちその者を祭祀主宰者と指定した方が被相続人の意思に合致すると考えられる場合もある」と判断したものがあります(最高裁平成元(1989)年7月18日決定・判例時報1309号99頁)。
祭祀財産は相続財産とは切り離されるので、相続放棄(3-15(1) p.243参照)をしても、祭祀財産を承継することはできます。また、承継について争いとなった場合に、家庭裁判所においては、遺産分割の事件とは別個の事件として扱われます。

2 葬式費用
葬儀費用は、相続開始後(被相続人の死亡後)に生じた債務であり、支払金額や分担について争いがあっても、家庭裁判所の遺産分割の審判で取り扱うことができます。また、民事訴訟で解決するしかありません。
民事訴訟手続では、合意や慣習が認められない限り、葬式に係る関係者と契約を締結して葬式を取り仕切った喪主(葬式主宰者)が葬儀費用の負担者であると考えられています。
なお、香典は、遺族への贈与であり、相続財産には含まれません。

3 祭祀財産と葬式費用の課税関係
(1)祭祀財産
墓所、霊廟及び祭具並びにこれらに準ずるものは、相続税の非課税財産となります(相法12条1項2号)。
本節の冒頭で紹介した試験問題に記載された、日常礼拝の用に供している仏壇及び墓地は、相続税の非課税財産となります。

(2)葬儀費用
相続人(包括受遺者などを含む)が被相続人の葬式費用を負担したときは、相続税の課税価格から負担額を控除することができます(相法13条1項2号)。

POINT 1
祭祀財産とは、系譜、祭具及び墳墓である。

祭祀財産は、祭祀主宰者が承継する。祭祀主宰者は、第1に被相続人の指定、第2に慣習、第3に家庭裁判所の審判によって決まる。

葬儀費用の負担者は、合意や慣習が認められない限り、葬式に係る関係者と契約を締結して葬式を取り仕切った喪主(葬式主宰者)である。