不動産の遺産分割|不動産を切り分ける!?
2025年11月19日
書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識
著者名: 森 章太, 出版社名: 日本実業出版社, 発行年月日: 2022年4月1日, 引用ページ: 不明, ISBNコード: 978-4-534-05917-8
不動産の遺産分割は多いことなることが多いです。長年にわたり相続人の生活の本拠である場合には金銭の入手が容易であること、不動産の評価が難しいこと、現金償還であれば金融機関によって容易に分割できるのに対して不動産の現物分割は困難であること、遺産相続に占める不動産評価額の割合が高く、相続人にとって重要な遺産であることなどが争いの原因になっています。
税理士試験の相続税法の計算問題において、不動産の評価は毎年出題され、不動産の取得者は毎回決まっています。しかしながら、実務においては、遺産分割協議において誰がどのように取得するのかの争いが生じることが多くあります。
本節では、不動産の遺産分割(民法)について解説します。
1 遺産の不動産の評価
遺産に不動産がある場合、まず、その評価額について相続人間で合意できるかが争点になります。
不動産の評価額について協議する際に基準になるのが、①固定資産税評価額、②相続税評価額及び③不動産業者による査定価格などです。実際、③の査定書がよく提出され、家庭裁判所の調査官が調査を行う場合で合意されることもありますが、この査定書の価格を遺産分割調停において重視されすぎているのではないかと感じることがあります。
「不動産を取得したい相続人はできる限り低い評価額にしたいと考えますし、反対に、取得希望のない相続人は高額にしたいと考えますので、思惑が異なる相続人間で合意できない場合もあります。
その場合、遺産分割調停では、不動産鑑定士による鑑定を行うことになります。
す。不動産鑑定では、取引事例比較法、原価法及び収益還元法を併用しながら算定します。鑑定費用は1物件当たり50万円以上かかる場合があり、相続人が負担しなければなりませんし、鑑定結果が出るまでに時間がかかります。鑑定を実施する場合の費用及び時間を考慮して、評価額についてどこまで譲歩できるのかを各相続人が検討することになります。
2 遺産の不動産の分割方法
不動産の遺産分割には、4つの方法があります。
まず、「現物分割」です。原則的な分割方法であり、個々の遺産を各相続人に取得させる方法です。例えば、遺産に土地としてAとBがある場合に、AとBを別の相続人が取得する方法です。また、Aを分筆して別の相続人がそれぞれ取得するという方法もあります。現物分割を採用する多くの場合は、過不足を調整するため、代償分割も併用されています。
2つ目は「代償分割」です。相続分を超える遺産を取得させる代わりに、他の相続人に対して代償金を支払わせるという方法です。代償金を支払う資力があることが代償分割が認められる要件となります。現物分割ができない場合や相当ではない場合、または相続人間において合意が成立している場合などに、代償分割は採用されます。
税理士試験の平成24(2012)年度の相続税法の計算問題では、「子Xと子Y以外の他の相続人間で遺産分割協議がまとまらなかったため、子Xは家庭裁判所に遺産分割の調停を申立てた。」その後、「相続税の申告期限までに、遺産分割調停において、子Xは遺産を取得しない代わりに、配偶者乙から500万円、子Aが1000万円をそれぞれ子Xに支払う」ことで調停が成立したと記述されており、代償分割が出題されています。
また、平成26(2014)年度の所得税法の計算問題では、「乙は、乙の相続に伴う遺産分割の際に、乙の所有する土地を共同相続人である妹に代償財産として交付する遺産分割を行った。」その後「土地の取得費は4200万円であるが、代償分割時の時価は、6000万円である」と記述されています。
3つ目は「換価分割」です。遺産を売却してその売却代金を相続人が分割する方法です。現物分割が不可能または相当でなく、かつ代償分割ができない場合に選択されます。
最後の4つ目は共有による分割です。「共有分割」です。共有分割は、上記3つの分割の方法が困難な状況で相続人が共有による取得を希望する場合などに考えられます。
遺産共有状態(民法898条)にあった不動産は、共有分割によって、物権法上の共有状態(民法249~262条)になります(1-3(4) p.176参照)。共有状態であっても、不動産全体について共有持分を有し、全体を利用することができます。物権法上の共有関係を解消する手続として、共有物分割請求(民法256条)があります。
◎遺産の不動産の分割方法
①現物分割 ②代償分割 ③換価分割 ④共有分割
3 不動産の遺産分割の課税関係
(1)代償分割
代償分割の課税関係として、相続税の課税価格は、代償金の交付を受けた者の相続税は、代償または遺贈により取得した相続財産の価額に、交付を受けた代償財産の価額を加算します。一方、代償金の交付をした者については、相続または遺贈により取得した相続財産の価額から、交付した代償財産の価額を控除します(相基通11の2-9)。
また、代償分割により負担した債務(代償金)が金銭以外の資産の移転を要するものである場合において、資産の移転があったときは、履行した者は、履行の日の前の日の資産の時価により資産を譲渡したものとして所得税(譲渡所得)が課されます(所基通33-1の5)。
(2)換価分割
換価分割の課税関係として、相続税だけでなく所得税(譲渡所得)も課されます。
換価時に相続人間で換価代金の取得割合が確定しておらず、後日遺産分割される場合、換価代金は、法定相続分に応じて各相続人に帰属します。申告は、申告後、換価代金を法定相続分と異なる割合で分割することとなっても、原則として所得税の更生の請求などはできません。
COLUMN 弁護士と非弁行為
貧困なく、なんらかの理由に相談したいが、自分の利益のため、他人の法律事件に介入することもあります。当事者からの利益を求め、法律事件の公平な判断を踏み倒す活動をする団体を禁止することになるため、弁護士または、弁護士法人でない者について一般の法律事件に関して法律事務を取り扱うことを業とすることを禁止しています。違反すると、2年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられます(弁護士法72条)。
「法律事件」とは、法律上の権利義務に関して争いや疑義があり、または新たな権利義務の発生に関する案件をいい、「法律事務」とは、この案件を処理することを指します。専門的な法律知識を駆使する法律事務の取り扱いをなし、それが業務性を帯びるに至っていることをいいます。
(相続税申告の依頼を受けた)税理士が遺産分割協議に関与することは弁護士法に抵触することがあります。
行政書士の事件ですが、相続財産、相続人の調査、相続手続きなどの証明書や遺産分割協議書の作成、各書類の内容について相続人に説明することは、行政書士の業務の範囲であるが、遺産分割につなぎ紛争が生じかねず、行政書士が遺産分割の調停・訴訟の斡旋をした範囲であるかぎりでなく非弁活動となるとして、他の相続人との折衝についての遺産分割をできなくした裁判例(東京地裁平成5(1993)年4月22日判決・判タ829号279頁)があります。
POINT 1
不動産の評価額について協議する際に基準になるのが、①固定資産税評価額、②相続税評価額及び③不動産業者による査定価格などである。
不動産の評価額について相続人間で合意できない場合、家庭裁判所の遺産分割調停では、不動産鑑定士による鑑定を行う
不動産の分割方法として、現物分割、代償分割、換価分割及び共有分割がある。
税理士試験の相続税法の計算問題において、不動産の評価は毎年出題され、不動産の取得者は毎回決まっています。しかしながら、実務においては、遺産分割協議において誰がどのように取得するのかの争いが生じることが多くあります。
本節では、不動産の遺産分割(民法)について解説します。
1 遺産の不動産の評価
遺産に不動産がある場合、まず、その評価額について相続人間で合意できるかが争点になります。
不動産の評価額について協議する際に基準になるのが、①固定資産税評価額、②相続税評価額及び③不動産業者による査定価格などです。実際、③の査定書がよく提出され、家庭裁判所の調査官が調査を行う場合で合意されることもありますが、この査定書の価格を遺産分割調停において重視されすぎているのではないかと感じることがあります。
「不動産を取得したい相続人はできる限り低い評価額にしたいと考えますし、反対に、取得希望のない相続人は高額にしたいと考えますので、思惑が異なる相続人間で合意できない場合もあります。
その場合、遺産分割調停では、不動産鑑定士による鑑定を行うことになります。
す。不動産鑑定では、取引事例比較法、原価法及び収益還元法を併用しながら算定します。鑑定費用は1物件当たり50万円以上かかる場合があり、相続人が負担しなければなりませんし、鑑定結果が出るまでに時間がかかります。鑑定を実施する場合の費用及び時間を考慮して、評価額についてどこまで譲歩できるのかを各相続人が検討することになります。
2 遺産の不動産の分割方法
不動産の遺産分割には、4つの方法があります。
まず、「現物分割」です。原則的な分割方法であり、個々の遺産を各相続人に取得させる方法です。例えば、遺産に土地としてAとBがある場合に、AとBを別の相続人が取得する方法です。また、Aを分筆して別の相続人がそれぞれ取得するという方法もあります。現物分割を採用する多くの場合は、過不足を調整するため、代償分割も併用されています。
2つ目は「代償分割」です。相続分を超える遺産を取得させる代わりに、他の相続人に対して代償金を支払わせるという方法です。代償金を支払う資力があることが代償分割が認められる要件となります。現物分割ができない場合や相当ではない場合、または相続人間において合意が成立している場合などに、代償分割は採用されます。
税理士試験の平成24(2012)年度の相続税法の計算問題では、「子Xと子Y以外の他の相続人間で遺産分割協議がまとまらなかったため、子Xは家庭裁判所に遺産分割の調停を申立てた。」その後、「相続税の申告期限までに、遺産分割調停において、子Xは遺産を取得しない代わりに、配偶者乙から500万円、子Aが1000万円をそれぞれ子Xに支払う」ことで調停が成立したと記述されており、代償分割が出題されています。
また、平成26(2014)年度の所得税法の計算問題では、「乙は、乙の相続に伴う遺産分割の際に、乙の所有する土地を共同相続人である妹に代償財産として交付する遺産分割を行った。」その後「土地の取得費は4200万円であるが、代償分割時の時価は、6000万円である」と記述されています。
3つ目は「換価分割」です。遺産を売却してその売却代金を相続人が分割する方法です。現物分割が不可能または相当でなく、かつ代償分割ができない場合に選択されます。
最後の4つ目は共有による分割です。「共有分割」です。共有分割は、上記3つの分割の方法が困難な状況で相続人が共有による取得を希望する場合などに考えられます。
遺産共有状態(民法898条)にあった不動産は、共有分割によって、物権法上の共有状態(民法249~262条)になります(1-3(4) p.176参照)。共有状態であっても、不動産全体について共有持分を有し、全体を利用することができます。物権法上の共有関係を解消する手続として、共有物分割請求(民法256条)があります。
◎遺産の不動産の分割方法
①現物分割 ②代償分割 ③換価分割 ④共有分割
3 不動産の遺産分割の課税関係
(1)代償分割
代償分割の課税関係として、相続税の課税価格は、代償金の交付を受けた者の相続税は、代償または遺贈により取得した相続財産の価額に、交付を受けた代償財産の価額を加算します。一方、代償金の交付をした者については、相続または遺贈により取得した相続財産の価額から、交付した代償財産の価額を控除します(相基通11の2-9)。
また、代償分割により負担した債務(代償金)が金銭以外の資産の移転を要するものである場合において、資産の移転があったときは、履行した者は、履行の日の前の日の資産の時価により資産を譲渡したものとして所得税(譲渡所得)が課されます(所基通33-1の5)。
(2)換価分割
換価分割の課税関係として、相続税だけでなく所得税(譲渡所得)も課されます。
換価時に相続人間で換価代金の取得割合が確定しておらず、後日遺産分割される場合、換価代金は、法定相続分に応じて各相続人に帰属します。申告は、申告後、換価代金を法定相続分と異なる割合で分割することとなっても、原則として所得税の更生の請求などはできません。
COLUMN 弁護士と非弁行為
貧困なく、なんらかの理由に相談したいが、自分の利益のため、他人の法律事件に介入することもあります。当事者からの利益を求め、法律事件の公平な判断を踏み倒す活動をする団体を禁止することになるため、弁護士または、弁護士法人でない者について一般の法律事件に関して法律事務を取り扱うことを業とすることを禁止しています。違反すると、2年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられます(弁護士法72条)。
「法律事件」とは、法律上の権利義務に関して争いや疑義があり、または新たな権利義務の発生に関する案件をいい、「法律事務」とは、この案件を処理することを指します。専門的な法律知識を駆使する法律事務の取り扱いをなし、それが業務性を帯びるに至っていることをいいます。
(相続税申告の依頼を受けた)税理士が遺産分割協議に関与することは弁護士法に抵触することがあります。
行政書士の事件ですが、相続財産、相続人の調査、相続手続きなどの証明書や遺産分割協議書の作成、各書類の内容について相続人に説明することは、行政書士の業務の範囲であるが、遺産分割につなぎ紛争が生じかねず、行政書士が遺産分割の調停・訴訟の斡旋をした範囲であるかぎりでなく非弁活動となるとして、他の相続人との折衝についての遺産分割をできなくした裁判例(東京地裁平成5(1993)年4月22日判決・判タ829号279頁)があります。
POINT 1
不動産の評価額について協議する際に基準になるのが、①固定資産税評価額、②相続税評価額及び③不動産業者による査定価格などである。
不動産の評価額について相続人間で合意できない場合、家庭裁判所の遺産分割調停では、不動産鑑定士による鑑定を行う
不動産の分割方法として、現物分割、代償分割、換価分割及び共有分割がある。