税理士の知識

寄与分|私の貢献

2025年11月19日

書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識
著者名: 森 章太, 出版社名: 日本実業出版社, 発行年月日: 2022年4月1日, 引用ページ: 不明, ISBNコード: 978-4-534-05917-8

令和2(2020)年度税理士試験の相続税法の理論問題では、「相続税の申告期限までに遺産分割協議が調わなかったことから、相続人は相続税法55条の規定に基づき相続税の納税猶予制度を共同で受けたい」という記述があります。
相続税法55条は、未分割遺産に対する課税の取り扱いであり、分割されていない財産については、相続人らが民法(904条の2(寄与分)を除く)の規定による相続分などに従って財産を取得したものとしてその課税価格を計算するとします。
「寄与分」が登場します。実務において、被相続人のためにどれだけのことを生前に行ったのであるから、他の相続人よりも遺産を多く取得できるはずだと相続人が主張することがありますが、これは寄与分の主張です。
本節では、特別受益と同じく、具体的相続分を算定するための一要素である寄与分(民法)について解説します。

1 寄与分とは?
寄与分とは、被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした相続人に対して(法定相続分または指定相続分に上乗せして)与えられる相続財産への持分です。特別受益(3-20 p.261参照)と同じく、法定・(指定)相続分を修正して具体的相続分を算定するための一要素です(民法904条の2)。

民法904条の2(寄与分)
1項 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。

○具体的相続分の算定
① みなし相続財産
相続開始時の相続財産 - 寄与分
② 上記① × 法定相続分(または指定相続分)+ 寄与分

2 寄与分の要件
まず、寄与分が認められるための要件は、相続人であることです。相続人の配偶者や子の寄与分は、相続人の寄与分ではないから、寄与分は認められません。もっとも、相続人の補助者として、相続人の寄与分として考慮する余地はあります。
なお、相続人によらない寄与については、平成30(2018)年7月の改正民法の施行により、特別寄与料の支払を求める制度が認められるようになりました(本節のCOLUMN)。
次に、被相続人のための特別の寄与であることが要件です。特別の寄与といえるためには、通常期待される程度を超える貢献である必要性があるため、夫婦の協力扶助義務(民法752条)や親族間の扶養義務(民法877条)の範囲内の行為では、寄与分は認められません。また、他の相続人との間で著しい不公平が生じている必要があるというわけでは、寄与分は認められません。
さらに、寄与行為により、被相続人の財産を維持または増加させたことも要件です。被相続人に対する精神的な支援だけでは、寄与分は認められません。

3 寄与行為の類型
寄与行為はいくつかの類型に分けることができます。
1つ目は、「家業従事型」です。無報酬またはこれに近い状態で、被相続人の自家営業に従事する場合です。被相続人が経営する法人への労務提供は、法人に対する貢献であって、原則として、寄与分は認められません。ただし、実質的に被相続人の個人事業に近い場合には、寄与分が認められる余地があります。
家業従事型の場合、寄与分は、(寄与した相続人が通常得られたであろう給付額)×(1-生活費控除割合)×寄与期間×裁量割合によって算定されます。生活費相当額を控除するのは、通常、寄与した相続人の生活費が家業収入から支出されているからです。
2つ目は、「金銭等出資型」です。被相続人に対して財産上の給付を行う場合です。
3つ目は、「療養看護型」です。無報酬またはこれに近い状態で、被相続人の療エン看護を行った場合です。寄与分が認められるためには、被相続人が要介護2(歩行や起き上がりなど移動が一人でできないことが多く、食事・排泄などに介助が必要であるが、排泄は一部手助けが必要な状態)以上の状態にあることが1つの目安となります。
療養看護型の場合、寄与分は、(療養看護行為の報酬相当額(日当)×看護日数×裁量割合(0.7程度))によって算定されます。
4つ目は、「扶養型」です。無報酬またはこれに近い状態で、被相続人を扶養した場合です。
5つ目は、「財産管理型」です。無報酬またはこれに近い状態で、被相続人の財産を管理した場合です。

4 遺贈との関係
寄与分は、被相続人が相続開始時において有した財産の価額から遺贈(3-22(2) p.274参照)の価額を控除した残額が上回る場合に認められます(民法904条の2第3項)。被相続人の意思(遺贈)が及んでいない限りで適用されるにすぎません。
相続開始時や遺贈後の財産の価額が少額であるときは、寄与分は考慮しないことになります。

COLUMN 特別寄与料
[1] 税理士試験への出題
令和2(2020)年度税理士試験の相続税法の理論問題では、「(相続人)Aの配偶者Dは、被相続人甲と同居し、その療養看護を務めていたことから、相続開始後、A及びCの全員に対して自己の寄与に応じた額の特別寄与料の支払いを請求し、700万円の特別寄与料の支払いを受けることとなった」と記述されています。特別寄与料に関する出題が行われています。

[2] 特別寄与料とは?
被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者、相続欠格または廃除により相続権を失った者を除く)が、被相続人の療養看護に努めたことなどにより被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をしたにもかかわらず、相続人に対し、自己の寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払いを請求することができる制度です(民法1050条1項)。

[3] 特別寄与料の要件
特別寄与料が認められるための要件として、請求できない者は、被相続人の親族(相続人などを除く)に限定されます。被相続人の内縁配偶者などは請求できません。
また、無償で労務を提供すること等です。寄与分の場合から対価を得ていたときは、認められません。金銭等出資型の寄与は、労務の提供と対比できないので、特別寄与料は認められません。
さらに、被相続人の財産の維持または増加について、特別の寄与をしたことが要件です。

[4] 特別寄与料の請求と負担
特別寄与料の支払いについて、当事者間に協議が調わないときなどは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができます。
家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定めます(同条3項)。
各相続人は、特別受益の額の特別寄与料の額を控除した相続分に応じて(法定・指定)相続分に寄与分を加えた額をもって特別寄与料を負担します(同条5項)。
各相続人は、特別寄与料の額に(法定・指定)相続分を乗じた額を負担します。

[5] 特別寄与料の請求期間の制限
特別寄与者が相続開始及び相続人を知った時から6ヶ月を経過したとき、または相続開始の時から1年を経過したときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができません(同条2項但書)。

[6] 特別寄与料の課税関係
特別寄与料の額は、特別寄与者が被相続人からの遺贈により取得した財産とみなされます(相続税法4条2項)。
一方、特別寄与料を支払うべき相続人については、相続税の課税価格に算入すべき相続財産の計算上、負担する特別寄与料の額を控除します(相法13条4項)。

POINT 1
寄与分とは、被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした相続人に対して与えられる相続財産への持分である。具体的相続分を算定するための一要素である。

寄与分が認められるための要件は、相続人であること、相続開始前の特別の寄与であること及び寄与行為により被相続人の財産を維持または増加させることである。