留置権|物は手放さないぞ
2025年11月19日
書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識
著者名: 森 章太, 出版社名: 日本実業出版社, 発行年月日: 2022年4月1日, 引用ページ: 不明, ISBNコード: 978-4-534-05917-8
平成29(2017)年度税理士試験の国税徴収法第2問は、「留置権」に関する問題が問われています。
1項、P株式会社は、所有する自家用車が故障したため、平成28年9月1日、X株式会社に修理を依頼した。P株式会社が修理中の提携会社のA自動車をX税務署長が差し押さえ、その後、修理は完了したものの、所有者Aが修理代金(100万円)を支払わないため、P株式会社が引き続き自動車(評価額800万円)を占有している」と記述されています。
本節では、留置権(民法)について解説します。
1 留置権とは?
留置権とは、他人の物の占有者がその物に関して生じた債権を有するときに、債権の弁済を受けるまで、その物を留め置くことができる権利です(民法295条1項本文)。債務の弁済を間接的に強制するものです。
本節の冒頭で紹介した試験問題では、X自動車にP株式会社が修理代金債権に関して生じた修理代金債権の弁済を受けるまで、自動車を留置することができます。
留置権は、法律の定める一定の要件を充たせば当然に発生する法定担保物権です。抵当権(1-3(2) p.30参照)や質権(1-4(2) p.42参照)のような、当事者の合意により成立する約定担保物権とは異なります。
2 留置権の成立要件
(1)他人の物の占有
留置権が成立するには、他人の物を占有していることが要件となります。目的物は、債務者が所有する物に限定されません。また、占有は成立要件であるだけでなく存続要件でもあり、留置物が占有を失うと、留置権は原則として消滅します(民法302条本文)。
留置権が成立するには、目的物に対して生じた債権を有すること、すなわち被担保債権と目的物との牽連性が認められることが要件となります。
本節の冒頭で紹介した試験問題では、修理代金債権と自動車との間に(2-11(3) p.153参照)牽連性が認められます。物の欠陥を原因として占有者が損害を被った場合の損害賠償請求権と物との間には、牽連性が認められます。
(2)被担保債権の履行期
留置権が成立するには、被担保債権の履行期が到来していることが要件となります(民法295条1項)。
3 留置権の効力
(1)留置的効力
留置権の効果として、留置物を占有し続けることができます。被担保債権の弁済と留置物の引渡しは引換えとなります。
(2)対抗的効力
留置権は(債権ではなく)物権なので、(債務者に限らず)すべての人に対して主張することができます。
本節の冒頭で紹介した試験問題では、P株式会社は、X税務署長(国)に対しても、X会社の自動車に対する留置権を主張することができます(本節のCOLUMN1)。
(3)留置物の使用権
留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用することはできません(民法298条2項本文)。
本節の冒頭で紹介した試験問題では、P株式会社は、債務者の承諾がなければ自動車を使用することはできません。
(4)優先弁済的効力
留置権には、優先弁済的効力はありません。原則として、目的物の競売から優先弁済を受ける権利はありません(本節のCOLUMN1)。しかしながら、留置権者は、下記のとおり、事実上の優先弁済の地位が認められています。
自分だけが履行して相手方から反対給付を受けることができないという事態の発生を防ぐことで、当事者間の公平を確保するものです。また、相手方の履行を促すという効果もあります。
双務契約での引渡しが必要となる場合には、留置権と同時履行の抗弁権のいずれも行使することができます。
POINT 1
留置権とは、他人の物の占有者がその物に関して生じた債権を有するときに、債権の弁済を受けるまで、その物を留め置くことができる権利である。
留置権は、法律の定める一定の要件を充たせば当然に発生する法定担保物権である。
留置権には、目的物の換価代金から優先弁済を受ける権利はない(滞納処分による換価の場合を除く)が、留置権者には、事実上の優先的地位が認められている。
COLUMN 2 商事留置権
本節で解説した民法上の規定に定められた留置権です。この他、商法に定められた商事留置権(商法521条)などがあります。
商事留置権は、継続的な取引が行われる商人Aと商人Bとの間で生じた債権であれば、債権全体を担保する目的で、商人Bの所有物を留置することができるとされています。
商事留置権の成立要件には、①被担保債権が、商人A間において両方にとって商行為となる行為から生じたものであること、かつ②非牽連していること、③目的物が、債務者との間における商行為によって占有した債務者の所有する物であることなどです。
民法の留置権との相違点は、被担保債権と目的物との牽連性は不要ですが、上記のとおり特定されていること、目的物が債務者の所有物に限定されることなどです。
COLUMN 3 同時履行の抗弁権
本節の冒頭で紹介した留置権は、当事者の意思によらず法律の規定によって成立する担保物権です。
双務契約(当事者の双方が対価的な意味のある債務を負担する契約)であるため、P株式会社はX会社に対して同時履行の抗弁権(民法533条)を主張することができます。
同時履行の抗弁権の効果は、双務契約の一方の当事者は、相手方が債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができるというものです。主観的事情ではなく客観的事情が認められる限り、留置権とは異なり、対価的な効力はありません。
1項、P株式会社は、所有する自家用車が故障したため、平成28年9月1日、X株式会社に修理を依頼した。P株式会社が修理中の提携会社のA自動車をX税務署長が差し押さえ、その後、修理は完了したものの、所有者Aが修理代金(100万円)を支払わないため、P株式会社が引き続き自動車(評価額800万円)を占有している」と記述されています。
本節では、留置権(民法)について解説します。
1 留置権とは?
留置権とは、他人の物の占有者がその物に関して生じた債権を有するときに、債権の弁済を受けるまで、その物を留め置くことができる権利です(民法295条1項本文)。債務の弁済を間接的に強制するものです。
本節の冒頭で紹介した試験問題では、X自動車にP株式会社が修理代金債権に関して生じた修理代金債権の弁済を受けるまで、自動車を留置することができます。
留置権は、法律の定める一定の要件を充たせば当然に発生する法定担保物権です。抵当権(1-3(2) p.30参照)や質権(1-4(2) p.42参照)のような、当事者の合意により成立する約定担保物権とは異なります。
2 留置権の成立要件
(1)他人の物の占有
留置権が成立するには、他人の物を占有していることが要件となります。目的物は、債務者が所有する物に限定されません。また、占有は成立要件であるだけでなく存続要件でもあり、留置物が占有を失うと、留置権は原則として消滅します(民法302条本文)。
留置権が成立するには、目的物に対して生じた債権を有すること、すなわち被担保債権と目的物との牽連性が認められることが要件となります。
本節の冒頭で紹介した試験問題では、修理代金債権と自動車との間に(2-11(3) p.153参照)牽連性が認められます。物の欠陥を原因として占有者が損害を被った場合の損害賠償請求権と物との間には、牽連性が認められます。
(2)被担保債権の履行期
留置権が成立するには、被担保債権の履行期が到来していることが要件となります(民法295条1項)。
3 留置権の効力
(1)留置的効力
留置権の効果として、留置物を占有し続けることができます。被担保債権の弁済と留置物の引渡しは引換えとなります。
(2)対抗的効力
留置権は(債権ではなく)物権なので、(債務者に限らず)すべての人に対して主張することができます。
本節の冒頭で紹介した試験問題では、P株式会社は、X税務署長(国)に対しても、X会社の自動車に対する留置権を主張することができます(本節のCOLUMN1)。
(3)留置物の使用権
留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用することはできません(民法298条2項本文)。
本節の冒頭で紹介した試験問題では、P株式会社は、債務者の承諾がなければ自動車を使用することはできません。
(4)優先弁済的効力
留置権には、優先弁済的効力はありません。原則として、目的物の競売から優先弁済を受ける権利はありません(本節のCOLUMN1)。しかしながら、留置権者は、下記のとおり、事実上の優先弁済の地位が認められています。
自分だけが履行して相手方から反対給付を受けることができないという事態の発生を防ぐことで、当事者間の公平を確保するものです。また、相手方の履行を促すという効果もあります。
双務契約での引渡しが必要となる場合には、留置権と同時履行の抗弁権のいずれも行使することができます。
POINT 1
留置権とは、他人の物の占有者がその物に関して生じた債権を有するときに、債権の弁済を受けるまで、その物を留め置くことができる権利である。
留置権は、法律の定める一定の要件を充たせば当然に発生する法定担保物権である。
留置権には、目的物の換価代金から優先弁済を受ける権利はない(滞納処分による換価の場合を除く)が、留置権者には、事実上の優先的地位が認められている。
COLUMN 2 商事留置権
本節で解説した民法上の規定に定められた留置権です。この他、商法に定められた商事留置権(商法521条)などがあります。
商事留置権は、継続的な取引が行われる商人Aと商人Bとの間で生じた債権であれば、債権全体を担保する目的で、商人Bの所有物を留置することができるとされています。
商事留置権の成立要件には、①被担保債権が、商人A間において両方にとって商行為となる行為から生じたものであること、かつ②非牽連していること、③目的物が、債務者との間における商行為によって占有した債務者の所有する物であることなどです。
民法の留置権との相違点は、被担保債権と目的物との牽連性は不要ですが、上記のとおり特定されていること、目的物が債務者の所有物に限定されることなどです。
COLUMN 3 同時履行の抗弁権
本節の冒頭で紹介した留置権は、当事者の意思によらず法律の規定によって成立する担保物権です。
双務契約(当事者の双方が対価的な意味のある債務を負担する契約)であるため、P株式会社はX会社に対して同時履行の抗弁権(民法533条)を主張することができます。
同時履行の抗弁権の効果は、双務契約の一方の当事者は、相手方が債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができるというものです。主観的事情ではなく客観的事情が認められる限り、留置権とは異なり、対価的な効力はありません。